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救国の神子と呼ばれた少女の話  作者: 海鳥
第一章 運命の扉が開く音
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「だぁよねぇ」


アカリはため息をついた。

目が覚めた自分がいるのは、あの布団の上ではかった。あのスウェットも着ていなかった。


自分に昨日充てがわれた王城の来賓室の、何回寝返りをうっても落ちることのない天涯付きのベッドの上。そして、来ているのは昨日カミラに渡されたシルクのナイトウェアだ。


「よしっ!」


アカリは気合いを入れると、ベッドの上でストレッチをし始めた。


こうなったら、昨日アルバートの言うように神子のフリして、そして何がなんでも日本への帰還の道を探すしかない。

伝承の神子について調べて貰えば、何か手立てがあるかも知れない。

悲しんでいてもしょうがない。

絶対に、無事に五体満足で生きて帰る。絶対に。


「がんばるぞー!えい、えい、おー!」


アカリは拳を宙へ突き上げた。

するとドアの向こうから、コンコンと軽やかなノックが響いた。


「神子様?お目覚めですか?」

「カミラさん!おはようございます」

「随分、お早いお目覚めですね。おはようございます。神子様」


カミラは部屋に入ってくると、窓にかかるカーテンを開けていく。太陽の光が部屋の中を満たして一気に部屋が明るくなった。

カミラが窓を開けると、澄み切った朝の空気が入り込んできた。

アカリは胸いっぱい空気を吸い込んで、ぐっと伸びをした。


「うん。なんだか目が覚めてしまって。あ、もっとゆっくり寝ていた方がよかったですか?」

「いえ、よろしいですよ。着替えを持ってまいりました。お召し替えを手伝いましょうか」


カミラが差し出してきた服はどうやら、簡単なシャツとズボンのようだった。

昨日に引き続き制服を着ようかと思ったが、ズボンの方が動きやすそうだ。


「ううん!自分で着替えられそうです。ありがとうございます」

「かしこまりました。では、わたくしは朝食をご用意致しますね」

「わぁ!お腹ペコペコだったんです!お願いします!」


衝立の向こうで、シルクのナイトウェアを脱ぐと、渡されたシャツに手を通した。シーツ同様にノリがパリッと効いていて、丁寧にアイロンがかけられていることがわかる。シャツもズボンもサイズはちょうど良く、このままで大丈夫そうだ。

少しだけ、シャツの袖口を捲って調節する。


かちゃかちゃと食器がぶつかる音がして、カミラが用意する朝食のバターの香りが鼻をくすぐった。


ぐぅうう。


お腹はいつだった正直だ。

ただ昨日の今日で正直すぎる自分の体に、アカリは苦笑いを浮かべた。

テーブルへと向かうと、カミラがテキパキと朝食の準備をしてくれていた。


「カミラさん。私も何か手伝いたいです」

「どうぞ、お気になさらずに。これがわたくしの仕事ですから。もう少々、お待ちください」


サラダに、トースト、フルーツ。

次々と朝食の乗った皿が並べられていく様は、見ているだけ空腹を刺激した。

昨日と同じく食事は洋食で、日本にいた頃とあまり大差無さそうだ。


「では、どうぞおかけください」


そう言われてアカリが席についても、カミラが席につく様子はない。


「カミラさんはもう、ご飯食べたんですか?」

「いえ、私共はこの後、各々空いた時間に頂きます」

「そうなんだ」

「では、お召し上がり下さい」

「はい!いただきます」





昨日より味わって朝食を食べ終わると、カミラが新しい紅茶を用意してくれた。


「神子様。紅茶にミルクやレモンはお入れしますか?」

「ミルクをお願いします!」


美しい茶器に淹れられた、赤茶色に透き通る紅茶にカミラはミルクをそっと注いだ。


「はぁ。お腹いっぱい!美味しかったです。ごちそうさまでした」

「お口にあったようで、ようございました」


カミラは、昨日より頬に血色のあるアカリに安堵した。

ミルクを入れた紅茶をニコニコと飲むアカリの様子に、実家の妹や弟を思い出す。

ついついこの異国からの客人が気になって、侍女の仕事以上に世話を焼いている自分がいた。


「神子様、お髪が跳ねておりますわ」

「え?どこ?鏡を見た時は大丈夫そうだったんですけど」

「後ろが、少し。朝食を片付けましたら直しましょう」

「ごめんなさい。ありがとうございます。カミラさん。」


にっこり笑うアカリの笑顔に、カミラの心がポカポカと暖かくなるのを感じた。

自分の後ろの頭を手を翳しながら、気にするアカリに笑いかける。


「神子様、わたくしのことはカミラと呼び捨てください」

「え、でも。カミラさんは私よりお姉さんですよね?」

「そうですね。今年16になります。神子様より少しお姉さんでしょうか?」


わぁお。同い年。これが西洋マジック。

アカリは口の端を引き攣らせた。


「ですが、神子様というのはわたくしより立場が上のお方でございます。なので、敬語も必要ございませんわ」


(立場が上かぁ。) 


昨日までそこら辺にいる高校生だった自分が、身分制のある世界に来るとは。

アカリはやりずらいなぁと思ったが、


「分かった。カミラがそう言うなら、そうするね!」


郷に入れば郷に従えだね。と、アカリは残りのミルクティーを飲み干した。




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