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救国の神子と呼ばれた少女の話  作者: 海鳥
第一章 運命の扉が開く音
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メテルスは一人自室に戻ると、ソファーに深く腰掛けた。

災いにより、まだ本調子ではない彼にとって、神子との謁見は体力がいることだった。


肘掛けに手をかけ、体重を預けるように頬杖をつく。


「光の神子のネコねぇ」


気怠そうに大きく息を吐くと、にやりと口の端を上げた。

金色の瞳がまた煌めいた。






「僕はアルバート・クリューソス・コラクス・ヴァーシロプス。この国の王子だ。陛下は私の兄に当たる」


そう言って目の前に座る男は、これまた煌びやかな男だった。

メテルスと同じ金色の髪に金色の瞳、顔立ちもメテルス同様美しく整っている。物語の王子様がそのままでてきたような風貌だ。アカリは眩しさに目を細めた。

メテルスと違うところといえば、少しだけメテルスより若く見え、短く切りそろえた髪だろうか。



アカリは謁見が終わると、混乱してるだろうからと自室に戻らされた。


扉を出ると、栗毛の女性が言葉通り待っていてくれて、それだけが唯一安心できた。

行きと同じく手を繋いで帰りながら、この手の温もりが有り難かった。

行きよりも手が冷たく、青白い顔色のアカリに女性は驚きながらも、しっかりと手を繋いでくれた。


イーサン呼ばれていた男と、細目の男、そして栗毛の女性と共に部屋に戻ると、控えめなノックの音が響いた。


「はい」


女性が扉を開けると、どこかで見たような細身の男が立っていた。


「神子殿、疲れているところ申し訳ない。話がしたい。いいだろうか」


そうして、ソファーに座った男はアカリに名を名乗ったのだった。


「空から落ちてくる貴女を僕と、このイーサンが保護した。慣れぬ環境で窮屈だろうが、しばらくはこの部屋に留まって欲しい。必要な物あれば、そこの侍女に言うといい」


アルバートは視線を栗毛の女性に投げた。


「神子様。ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。わたくしはカミラと申します。これより、神子様のお世話をさせて頂きます。必要な事がございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」


ソファーの横で控える栗毛の女性、カミラは頭を下げた。


「まずは、殿下と神子様にお茶をご用意致しますわ」

「俺の分もお願いね。カミラ」


イーサンが扉から出て行くカミラの背中に投げかけると、カミラは心得たと一礼して部屋を出て行った。


「キース、お前も席を外せ」


イーサンが細めの男に指示を出す。


「はいはい。了解でーす。外におりますんで」


キースと呼ばれた細目の男は、手をヒラヒラと振りながら出て行った。扉が閉まる音が響く。

こうして、部屋にいるのはアカリとイーサンとアルバートの3人になった。

アカリは落ち着きなく、目の前の机に視線を走らせた。

沈黙が3人の間を漂う。


イーサンが気まずそうに、ガリガリと頭を大袈裟に掻いた。


「俺の名前はイーサン・レイブン。アルバート殿下の近衛兵の隊長を勤めている。あの細目の男は俺の部下でキースだ。俺のことは気軽にイーサンと呼んでくれ」

「えっと、ア、ネコです。しばらくお世話になります」


そう自分で言って、アカリは愕然とした。

しばらくとはいつまでなのだろうか。

まだ信じられなかった。ここが異世界だなんて。本当にさっきまで自分は日本にいたはずなのに。


アルバートは長い足を組んだ。


「神子殿には、まずこれから守護者を探してもらいたい。伝承では神子が舞い降りると守護者が現れると言われてる。そして守護者と共にこの国の災いを払ってもらいたい。」


アルバートの言葉に、アカリは手を握りしめる。


「だから、私は神子じゃないんです。すごい力なんて持ってません」

「だが、陛下はそう思っていない。貴女を神子だと思っているし信じている。災いを払う者だと」

「そんな!勝手に信じられても困ります!」

「だろうな」

「へ?」


アルバートの言葉に、アカリは目を瞬かせた。


「僕は信じていない。伝承の神子だなんて馬鹿げてる。伝承といっても、もう何百年も前の話だ。残っている記録も、風化により所々読めないところがある」


メテルスと同じ色の瞳がアカリを捉えた。


「だが、しばらくこの茶番に付き合ってもらいたい。生憎、この国に災いが降りかかっているのは本当だ。しばらくフリをしてもらって、何もできないただの娘だと証明できれば陛下もご納得されるだろう。その後の生活の安全も約束しよう。だから、この茶番に付き合ってほしい」


2人の視線にアカリは黙り込んだ。


これは取引だ。無事に生きて帰る為の。

神子のフリをすれば、生活の安全が約束される。

だが生活の安全だけではない、大事なことがもう一つある。


「日本に戻る、手立てを一緒に探してくれますか?」


恐る恐るアルバートを見つめ返すと、アルバートは口元を和らげた。


「善処しよう。」





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