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救国の神子と呼ばれた少女の話  作者: 海鳥
第一章 運命の扉が開く音
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2



暫くすると、女性の言うように迎えが来た。

ノックの音にドアを開けると、大きな男が二人、扉の前に立っていた。揃いの黒い軍服の様な装いをしている。

男の一人が部屋にいるアカリを確認した後、栗毛の女性に頷いた。


「準備はいいか?」

「えぇ」


栗毛の女性が男に返事をすると、アカリの手を取ってソファーから立たせた。


「これから陛下からご説明がございます。部屋を移動します。」


ついに陛下とやらに会うのか。この国の?陛下に?自分が?


(この後、どうなるの?)


アカリは救いを求めるように、自分の手を取る女性を見た。

己の手へと伝わるアカリの手の冷たさに驚いた栗毛の女性は、温めるように自分の掌を重ねた。


「ご安心ください。手荒い真似は致しません。わたくしも一緒に向かいますから」


アカリが緊張して強張った顔で頷くと、女性は穏やかで優しい笑みを深めた。


女性に手を引かれ、部屋を出ると大きな男達がアカリをじっと見た。その視線にアカリの更に体が強張ってしまう。

悪いことなんて何もしてないのに、落ち着かず目が右へ左へと泳ぐ。

繋ぐ手に力が入るのを感じた栗毛の女性が男達を諌めた。


「イーサン様、そんなに威圧してはなりませんわ」


イーサンと呼ばれた男は、ポリポリと紺色の短い髪の頭を掻く。


「そんなつもりはねぇんだけど」


服の上からでもわかる、筋肉の盛り上がり。胸元のボタンは筋肉によって押し上げられて、少しでも力を入れたら飛んで行ってしまいそうだ。

ワイルドさがありながらも顔立ちは甘く、海外映画で見たアクション俳優を思わせる。

日本では滅多に見ることのない深い夜空のような髪色は、違和感なくとても似合っていた。


「隊長は存在が威圧的ですからねぇ」


そうニヤニヤと隣で笑う男は細目の男で、笑うと細い目が更に細く見えた。

イーサンと呼ばれた男よりも少し小柄だが、こちらもその服の下には鍛え上げられた肉体を持っているのだろう。

二人は腰から帯剣していて、見た目通り警備などをする職業なのかもしれないなとアカリは思った。


「うるせぇよ」


イーサンは隣の男にそう言って、アカリの頭に大きな手のひらを乗せた。


「悪かったなボウズ」

「ぼ!?」


(ボウズ!?)


アカリは目を見開いた。


「よし、じゃあ。お待たせしちゃなんねぇから行くぞー」

「な!?」

「では、参りましょう」


咄嗟のことに、驚いてアカリは訂正出来ずに固まってしまった。


ボウズ、今坊主と言ったか、この男。坊主とは男の子ことではないか。生まれてこの方、男の子に間違えられたことないのに。

それとも、私があまりにも緊張していたから解すために冗談を。


(え、冗談だよね?)


手を引かれるがまま歩くと、目の前を歩く大きな男たちよりも、更に大きく重厚そうな扉が現れた。扉の前では武装した男が2人立っている。


この先に陛下がいるのだろう。

もはや笑ってしまいそうだった。こんなことって本当にあるのだろうか。

こんなファンタジー小説のようなことが。


「では、わたくしは待機しておりますので」


急に消えた、手の温もりに驚いた。


「陛下からのご説明が終わるまで、お待ちしておりますので。ご安心ください」


そうは言われても心細い。てっきり中まで一緒にいてくれると思っていたアカリは、不安そうに眉を下げた。手に残った温もりが消えないように、両手をお腹の前で握りしめた。


イーサンは扉の前の武装した男たちに目で合図を送ると、男たちはその重そうな扉をゆっくりと開けた。

軋む音がする扉の先には、何人か中に人がいるようだった。


イーサンの後に続いて部屋に入る。ここは謁見の間ということなのだろう。

深紅の長い絨毯がまっすぐ一本に伸びている。その先を辿れば、少し段差があるところに、若い男が煌びやかな椅子に座っていた。


金色の長い髪を下ろし、この世の者とは思えない酷く美しい顔立ち。髪色と同じ金色の瞳には柔らかく笑みが浮かんでいる。背中から翼が生えていたら、間違いなく天使だと思っただろう。美しすぎて畏怖さえ覚えた。

アカリの祖父や祖母は手を合わせてしまうかもしれない。


すっかり魅せられてしまったアカリは、覚束ない足取りでイーサンたちに着いていく。

イーサン達は絢爛豪華な椅子に座る、美しく若い男の前まで近寄るとスッと跪いだ。


「陛下。お連れしました」

「うん。ありがとう」


自分も跪いた方がいいのだろうか。何をしたら無礼になってしまうのか分からない。

完全に置いてけぼりにされてしまったアカリは、恨めしげに二人の背中を睨んだ。部屋に入る前にどうしたらいいのか聞くんだった。


「いいよ。そのままでいて」

「は、ひ!」


陛下と呼ばれている男に、急に声をかけられて情けない声が出た。恥ずかしくて、ぼっと顔に血が昇るのを感じる。

イーサンともう一人の男は、立ち上がり礼をすると部屋の脇に避けた。


これでいよいよ、陛下と一対一になってしまった。

きらりと光る金色の瞳を向けられると、どうしていいかわからない。

毛穴という毛穴から汗が出ているような気がする。


「まずは、挨拶からしよう。ようこそコラクス王国へ。私の名前はメテルス・クリューソス・コラクス・ヴァーシリヤス。このコラクス王国の統治者だ。君が光の神子だね?」


「はい?」




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