運命の扉が開くまで
救国の神子と呼ばれた少女の話
太陽が登り、澄み切った朝の空気が当たりを満たす演習場では、細身の男と大柄な男が模擬刀を使って打ち合いしている。
剣舞のように迷いなく軽やかに、打ち合いをする2人の額には汗が滲んでいた。
何度か剣を交えていたが、急に1人の男が構えを解いて空を見上げた。
「アルバート?」
剣先を下ろした男を不審に思い、もう1人の男も構えを解いた。
アルバートと呼ばれた細身の男は、太陽の光を手で遮りながら目を凝らす。
「あれは?」
大柄の男もアルバートに倣って空を見上げた。
青く、雲ひとつない空に、白い塊が見えた。
そして、白い塊は空からすごいスピードで落ちてくるのが見える。見間違いかと思い目を凝らすが、間違いない。
シーツのような物をはためかせて、それは空から真っ直ぐ落ちてきていた。
アルバートはギョッと目を見開いた。布地の間から人の手が見えたからだ。
「なんだ、あれは?」
アルバートと打ち合いをしていたもう1人の大柄の男、彼の近衛兵であるイーサンにも見えているらしい。
「人が空から落ちてきている」
「は?」
「イーサン。いくぞ」
「ちょ、殿下?!」
イーサンの静止を振り切って、アルバートはその何かが落ちてくる真下へと走り出した。
落下地点にはクッションになるような物はない。そのまま地面にぶつかってしまえば大変なことになる。もし、あれが本当に人だったならば。
慌てて、イーサンもアルバートを追いかけた。
しかしそれはアルバート達が近づくと、ゆっくりと速度を落として、地面から離れてふわふわと宙に浮いていた。白い大きな布が風に揺れる。
「なんなんだ?」
アルバードが恐る恐る両手を伸ばした。
「っ!?」
すると、それまで浮いていたのが嘘のように、かくんと腕の中に収まった。
隣のイーサンがアルバートの腕の中を覗き込む。
「人だ」
「人だな」
白い大きな布に包まれているのは、小柄な少年のようだ。
布越しに伝わる温かな体温と、上下する胸。どうやら生きてるらしい。
黒く短い髪に、この辺りでは見ない服装。顔立ちもどこか異国の様子がうかがえる。空から落ちてきたとは思えない穏やかな寝顔だ。
「まじか」
イーサンは困ったように頭を掻いた。