拳鬼、その伝説〜チェダーチーズを添えて〜
Twitterでのタグで募集したワードを詰め込んで書きました!
#リプできた要素を全部詰め込んだ小説を書く
□頂いたワード
1フライパン
2チェダーチーズ
3スーパーカブ
4拳鬼
5トマト
6ハシビロコウ
7スケルトン
8ベンチプレス
夜、傍若無人に商店街を駆け抜ける、何台もの暴走スーパーカブ。連なる店々は閉店時間でシャッターがしまっているが、駅から住宅街に向かう道でもあるので人通りはまだある。
この暴走族が商店街を走るのはもはや日常とも呼べる出来事になっていた。最近では夜の暴走だけでは飽き足らず、昼間にもやってきて、道行く人々を恫喝しては金品を巻き上げたり、喧嘩になったりというような事態も起こっていた。
近隣住人はもちろん、迷惑と危険を感じていたが、なにか大人の事情があるのか、警察も手が出せないでいた。
商店街の端まで走り抜けたバイクたちが折り返し、エンジン音がどんどんと近づいてくる。誰もがびくびくと店舗のシャッターに背を付けるように歩いている中、道の真ん中に仁王立ちする人物がいた。
彼だ。
ハシビロコウを携え、ある日突然現れた、商店街を守る正義のヒーロー。
盛り上がる筋肉で、彼の着る白いコック服は今にもはち切れんとし、鋭い眼光は、まさに姿を見せた先頭のライダーを、捕らえる。
彼はコック服のポケットからトマトを取り出すと、ひとかじり。このトマトで彼はさらなるパワーアップを果たすのだ。
微動だにしない彼にライダーのほうが怯んで、ブレーキをかけようとした瞬間、彼は前へと駆け出した。
渡り鳥のようにV字に組まれた隊列のあちこちからブレーキ音が鳴り響き、車体が止まったと思ったその瞬間、先頭にいた男はコック服に殴り飛ばされ、地面へと滑り落ちる。
二列目、三列目にいた奴らがバイクを乗り捨てて彼に向かって行くが、次々と一発の重い拳に降される。
拳一つで悪に立ち向かう彼を、人々は「拳鬼」と呼んだ。
****
彼、穂根河は商店街のあるイタリアンレストランの厨房にいます。シェフや店主だと言えればよかったのですが、今はまだ、厨房に何人も立つ料理人の一人でしかありません。いつかは自分の店を持ちたいという夢を持って、今日も真摯に火に向かいます。
愛用のフライパンにオリーブオイルをたっぷりと入れ、ニンニクのかけらを放り込む。香りが立ち昇ってきたら……
「ああ、ダメダメ! ニンニクに火を入れすぎだ。コゲの苦味が油に移るぞ!」
通りかかった料理長が穂根河を叱ります。彼は「はい!」とキレの良い返事をしてその指示に従いました。
叱ってもらえるのは期待のあらわれだ。そう考えて前向きに、また挑戦をしていくのです。
今でこそ、こうして明るく料理修行に打ち込む穂根河ですが、少し前までは自信も希望もなく、失敗ばかりしては細くて小柄な体をさらに小さくしながら落ち込んで、日々が楽しいものではありませんでした。ガリガリと言えるほどに痩せていて、存在感がなく、そんな彼の容姿を表すかのような“穂根河”という苗字。彼はだいたいどこに行っても、スケルトンとあだ名されました。
しかし、そんな不甲斐なかった彼に転機が訪れたのです。
ある日、その日もしょんぼりと帰路についていたスケルトンは、冒頭で登場した、あの暴走族に遭遇します。彼らはちょうど、通行人の誰だかをターゲットに、今にも金品を奪うか暴力を振るうかと構えているところでした。スケルトンは震えながら、その場から逃げ出そうとしました。
「君の人生、逃げてばかりだね。立ち向かったりはしないのかね」
どこからか声が聞こえてきました。スケルトンは声の主を探してあたりをみまわします。
しかし、自分と目の前で襲われようとしている人以外、言葉を発するような人はいません。しかし、ただ一つ視界に入って無視できないものがありました。ハシビロコウがいたのです。動物園ではなく、この街中に。
「いま、喋ったのは……」
スケルトンはまさかと馬鹿らしく思いながらも、ハシビロコウに向かって言いました。
「いかにも私だ。ハシビロコウは仮の姿。神にも近しい存在だ。
もう一度聞くが、君は立ち向かわないのかね」
「立ち向かうって、あいつらにか? それは僕に言ってるのか? この自信なさげな猫背のひょろがりに」
「力があれば、お前は立ち向かえるのか。私はそれを与えることができる存在だ」
この間、不思議なことに時間がとてもゆっくりと流れているか、止まっているようでした。今にも通行人に襲い掛からんとする暴走族はその拳を掲げながら動きを止めています。
「力をもらえば、どうなる?」
「ソイツを倒して、そこにいる人間を助けられる」
スケルトンは悩みました。自分なんぞにそんなことができるのか。
自分など、どう考えてもこの世界の脇役で通行人の一人かひょっとしたら物語の冒頭でやられているような、せいぜいそんな人間だと考えています。
けれでも、いつまでもそうではいたくない、ヒーローになりたいという願望は人並み以上に持っていたのです。そしてこのとき、チャンスは目の前にありました。
スケルトンはハシビロコウと契約しました。とたん、ぶかぶかだったコック服がどんどん縮んで……いいえ、彼は身長も伸び、ひょろひょろだった手足にも薄い胸板にも、筋肉がついてまるで別人のような体つきになったのです。
スケルトンが暴走族に向かって一歩踏み出すと、止まっていたように感じた時が動き出します。拳を握り、お見舞いした一撃で悪行をなそうとした暴漢は倒れました。スケルトンは、感謝の歓声に迎えられました。
商店街にのさばって暴虐の限りをつくす暴走族たちを、スケルトンは見つけるたびに懲らしめていきました。ハシビロコウが一声鳴くと、スケルトンの小柄でガリガリの身体は筋骨隆々とした戦士の身体になりました。そして戦いのたびに拳で勝利し、商店街の人たちは彼を“拳鬼”と呼ぶようになりました。
そのうち、彼は戦いを挑まれるようになりました。暴走族はやっきになって拳鬼を倒すことに夢中になり、商店街の人々を襲ったり、バイクでの暴走行為は減っていったのです。
しかし、そんな彼にも敗北する時がやってきます。ついに、暴走族のボスが現れたのです。
ゴテゴテと装飾と改造が施されたスーパーカブに乗り、口にはチェダーチーズの塊をタバコのように咥えている彼が、ボスです。たくさんの舎弟を引き連れたそのボスは“ベンチプレスの諒”と呼ばれていました。日々ベンチプレスで鍛えられた上半身はハシビロコウの力を借りずとも、拳鬼の姿をしたスケルトンを凌駕するほどのものでした。
ベンチプレスの諒の舎弟たちがギャラリーとして見守る中で行われたタイマン試合。とても強かったベンチプレスの諒に、スケルトンは敗北を期してしまいました。
しかし、彼はここで諦めることはしませんでした。
彼は強くなるべく努力しました。レストランでの勤務が終わると、どんなに疲れていても毎日筋トレを欠かさず、武術も習いました。そしてそれは、本職である料理人の仕事にも活かされていきます。今まで足りなかった体力、腕力、自信……様々な要因が料理人としての彼も一人前にしていったのです。
しかし、あとひとつ、あともう一押し、何かが足りない気がしていました。そんなときにふと手にとった、厨房にあるトマト。毎日扱っているトマトを、改めてジッと見つめ、そして彼はあることを思い出したのです。
ベンチプレスの諒との再戦。死闘の末、スケルトンは自分に打ち勝ち、ついに商店街を脅かす諸悪の根源を負かすことができたのです。
倒され地面に伏したベンチプレスの諒は、スケルトンにたずねます。
「俺様は……なんで、負けたんだ……! 毎日ベンチプレスで鍛えているのに!」
「ベンチプレスしかやらないからさ。上半身ばっかり鍛えて、いつもカブにのって歩きもしなけりゃ、下半身はヘナチョコなんだよ」
「いや、それだけじゃねぇ。ハシビロコウの訳のわからんパワーアップでも俺様に勝てるなんて説明がつかねぇよ。お前の強さの秘密は、いったい、なんなんだ……!」
「僕の強さの秘密? それは……」
******
それは! トマト!
さらなる強さにあと一歩足りない、そんなときスケルトンさんが思い出したのは、テレビ CMで見つけた自分の強さを補えるモノ。それが、この、トマト!
スケルトンさん
「変身したあとは、必ずこれを食べています。初めて口にしたとき、ああ!これだ!って。俺に足りないモノは、これだったんだ!って」
スケルトンさん
「コレを食べると力がみなぎる気がしますね」
※個人の感想です。
そして、あの壮絶な死闘の後、ベンチプレスの諒さんとは、仲良くなったといいます。
ベンチプレスの諒さん
「まさか、強さの秘密がトマトだなんて思わないじゃないですか」
ベンチプレスの諒さん
「ええ。俺様も今では食べています。そのまま食べても美味しいんですけどね、俺様の好物のチェダーチーズを合わせると、またこれが旨いんです」
スケルトンさん
「僕がちょちょいと作ってやったんだよな」
ベンチプレスの諒さん
「そうそう、この愛用フライパンでな」
スケルトンさん
「もう、手放せませんね、このトマトは!」
※個人の感想です
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大変事故っていて、お目汚し失礼しました!
お付き合いありがとうございます。