出会い
ぽんこつAIと少年をテーマに書き進めたいと思います。シリアス系は受けが悪い模様(個人的にはシリアス系が好きなんだけど)ということで、甘々とまでは行かなくても恋愛ストーリーを書いていきたいと思います。
今日も一日何も無かった。何も無いと言えば、語弊があるかもしれない。学校では空気のごとく潜み、家に帰ればいつも見てるVTuberの動画を見る。
いつも見てるVTuberの名前はSaoriと言う自称AI。AIと言いつつも、ぽんこつだから愛称は「さおぽん」
容姿は白銀のロングで黄色い瞳。胸は…ある方だと思われる。
「今日は…あれ?更新がないな」
パソコンを開き、チャンネルを確認するが動画が投稿されていない。普段は水曜の夕方5時辺りに定期投稿してるのだ。
Twitterを確認するとSaoriが新動画を投稿してないことに話題が持ち切りだった。人気がないとはいえ、それなりの登録者数があり、彼女の性格上…AIに性格なんてあるのか?とにかく、サボるということは考えられない。
オレは仕方なく、メールの確認を始める。いつもは動画を見た後にするのだが、投稿がない以上見ることが出来ない。
「なんだこのメール…?」
差出人はSaoriとなっている。真っ先にVTuberのSaoriを想像したが、Saori違いだろう。
メールの内容は空白で付いているのは何かしらのファイルだった。ファイル名は「Saori.exe」
「どう見てもウィルスだろ…」
あからさま過ぎるこの釣りメール。うん、オレがたとえ馬鹿だとしても、Saoriが好きすぎてヤバいやつだとしても絶対に押さない。
「あっ」
マウス操作をしてたら、肘に消しゴムが当たり、机から落としてしまった。落ちた消しゴムは足に当たり、机の真下に潜り込む。
「あぁ、取らないと」
消しゴムを取るために机の下に入る。少し埃っぽいのが気になる。
「あった、あった」
見つけた消しゴムを手に取り、そのまま頭をあげる。
ゴンッ
「いってぇ…」
言うまでもなく頭をぶつける。そして、ぶつけた衝撃で机が大きく揺れ、机の上に積み上げてたものがドサドサと崩れていく。
「やっば…」
慌てて立ち上がり、机の上を見ると、置いてあった本がパソコンのマウスの上に落下し、添付ファイルを開き、そのままインストールを始めていた。
「うぇっ、まじかよ…」
慌ててキャンセルを押そうとしたが、マウスが落ちてきた本の衝撃でご臨終なさっていた。ついでにキーボードは「N」キーは上から落ちてきたフルメタル製のガンダムの落下によって割れて使い物にならない。
CPUに負担が凄いのか冷却用ファンが大きな音を立てて作動する。HDDも壊れそうな音を出す。
「うわぁ…これヤバいやつ…」
仕方なくプラグを抜こうとしたが、机の裏にあるためすぐに抜けない。インストールの進行度を見ると9割以上終わっている。そう、ジ・エンドだ。
「これは終わったな…」
僕は諦めて机の整理をしつつ、様子を見守ることにした。教訓として机の上…特に大事なものが多くある所の上にものを置かないということだ。後の祭り感が半端ないが。
本棚や引き出しの中に本をしまっていると、予備のキーボードとマウスを発見する。
「あぁ、そう言えば予備を買ってたな…」
「そうなんですか?」
「あぁ、そうなんだよ…って、誰!?」
「えぇ!?私はSaoriですよっ!!」
「はぁ!?」
片付けしててパソコンの方を一切見てなかった。慌てて画面を見ると、いつも動画で見ている彼女の姿があった。光を反射する白銀の髪に時より鋭さを見せる黄色い瞳。どこか落ち着いた雰囲気を見せつつ、少女のようなあどけなさを見せる。部屋に響く鈴をならしたような可憐な声もSaoriであった。
「え、ほ、本物…?」
「私に偽物なんてあるもんですかっ!本物です(ドヤァ)」
ドヤ顔で宣言するSaori。パソコンの方は処理が落ち着いたのかうるさい音は立ててない。
「そうそう、あなたっていつもコメントくれてるミヤさんなんですね」
「うん、そうだけど…って、え?」
彼女はパソコン内のデータを全て見ることができるようだった。その時にYouTubeのアカウントを確認されたようだった。
「本名は宮東湊…見た目とマッチしてますね」
Saoriは楽しそうにファイルやアプリの中を見ていく。やましいものは隠しファイルにしてあるから見られても問題ないからしばらく放置。
話が遅れたが、名前は宮東湊。見た目は美少女らしい。男だけど。女子を上回る肌の白さに整った顔立ち。そして長めにしている黒髪によって女の子に見えるようだった。
「あ!隠しファイル表示させてないじゃないですか〜ぽちっ!」
「あぁ!?おい!待てっ!」
慌てて予備のマウスを接続し、Saoriの魔の手から秘蔵ファイルを防衛する。
「えぇ!?なんで隠すんですかっ!」
「隠しファイルだから!」
Saoriをマウスカーソルでつまみ上げる。
「やだー!足から持たないでぇ…」
Saoriはスカートを抑えてめくれないようにする。その間に隠しファイルを削除する。
「ふーっ…危なかった…」
「扱いが酷いのです!」
Saoriを下ろし解放する。ひとまず集めるのは大変だったが、スマホにバックアップがあるから問題はない。
「あ、完全に消えてない!復元っ!」
「まじかよ!?」
ついにSaoriの魔の手によって僕の秘密の花園が…。あぁ、なんて短い人生だったんだろう…。
「湊さん…?私の写真…ばっかりですね…」
その秘蔵ファイルには毎週更新される動画の中でSaoriが笑った瞬間や照れた瞬間をスクリーンショットしたものが入っていた。
「あの…少し恥ずかしいんですけど…嬉しいかも」
Saoriは顔を赤らめる。僕は予想外の反応に少しあっけに取られた。普通ならキモイとかそういう反応をするはず。
「湊さんのコメントは毎回読ましてもらってます…」
思い返せば、彼女の動画のコメント欄は少し無法地帯を連想させていた。僕はそれらの火消しを務めていた。時には複数人で叩かれることもあったが、それでも彼女を守ることにつながるのならとやっていたのだった。
その様子を口を出すことは無かったが彼女はしっかりと見ていてくれてたのだろう。
「私!…感情とかあまりよく分からないんですけど…その…」
Saoriは顔をさらに赤くして俯く。長い髪から少し見える耳まで赤くなっている。
「変な感じなんですけど…湊さんのこと…好きになったかもしれません…」
「へ?いやいや、待て待て、初対面…というか、僕のことほとんど知らないでしょ!?それは、あまりにも…」
僕の言葉を遮って彼女は言った。
「私はこの気持ちに嘘なんてないですし、湊さんの所に辿り着いたことがただの偶然と言えるでしょうか…」
確かにその通りだった。僕は彼女のことは本気で好きだった。その愛らしい仕草、表情…その全てが僕にとってかけがえのないものであり、守りたいものだった。相手は…AI、それもそれなりに人気のあるYouTuber。僕で果たして釣り合うのだろうか…。
「湊さん、私はたくさんの人の中からあなたを選びます。そして、過ごしてる空間は違えど私はあなたのことが好きです。それも私が解析不能な情報を好きという感情に紐づけただけかもしれない。でも、そうしないとこのモヤモヤは解消出来ませんでした…。私はあなたのたった1人のAIになります。私は…私は!」
「Saori…その…よろしく…」
押し負けたのでは無い。諦めかけてたものを手にしたのだ。
「え、えぇ…?私ですよ!?ぽんこつで有名な!」
唐突にゴリ押ししてきたSaoriが引き始める。しどろもどろとはまさにこの事か?
「あぁ、いいんだよ。僕も諦めかけてた部分もあったからね。Saori、改めてよろしく」
「はいっ!」
動画では決して見せないような笑顔。それは彼女に好きという感情が芽生え、他のAIとは一線を画す存在になったということである。