5話「最低最弱の祝福」
「このカタログ、説明があまりにもざっくりと言うか雑じゃないか?これでは何のことなのか分からないんだが。」
「あぁ!そういえば神書式のままでした。」
「神書式?」
「はい、神書式はその人がいかなる言語を使っていても読める言語になる書式なんですけど、神や天使にしか読み取れない言葉に込められた霊子を読み取って理解できる書式なんです。いま転生者向けの翻訳版に切り替えますのでもう一度同じページを見てみてください。」
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〈魔剣レバテイン〉
祝福種別:ワンオフ
種別:装備・剣
使用方法:アクティブ
属性:炎
レンジ:近距離
攻撃:★★★★★★★☆☆☆
防御:★★★★☆☆☆☆☆☆
魔術:★★★★★★☆☆☆☆
神秘:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ルーンを唱えて作り出された魔剣。
高レベル炎の魔術がらくらく発動でき、剣としての性能ももちろん高く、能力を使わなくても一振りで大きな岩を簡単に切断できます。
[付与アビリティ]
・爆炎放出
所有者の発動する炎属性魔術の効果を最大3倍まで上昇。
・ルーンブースター
所有者の発動する身体強化系魔術の効果を1.5倍上昇。
必要善コイン:85,000
この祝福を選ばれた人はこんな祝福を選んでいます。
〈ステータスアップ(魔力増強)〉
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〈カオスマグナム〉
祝福種別:ワンオフ
種別:武装・銃
使用方法:アクティブ
属性:闇
レンジ:近・中距離
攻撃:★★★★★★☆☆☆☆
防御:★★☆☆☆☆☆☆☆☆
魔術:★★★★★★☆☆☆☆
神秘:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
装弾数6発のマグナム。
銃弾に魔力を自動で付与して打ち出すことが可能!
付与アビリティの障壁貫通は防御系の能力に対して効果絶大!
[付与アビリティ]
・オートリロード
再装填の行程のみをスキップできる。
・障壁貫通
撃ちだした弾丸はバリアや盾を高確率で貫通する。
・呪詛付与
弾丸に取得している呪詛系を付与できる。
必要善コイン:70,000
この祝福を選ばれた人はこんな祝福を選んでいます。
〈無限三角巾〉
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〈真実の瞳〉
祝福種別:ユニバーサル
種別:スキル
使用方法:アクティブ
属性:光
レンジ:近距離
攻撃:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
防御:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔術:★★★★★☆☆☆☆☆
神秘:★★★★☆☆☆☆☆☆
高レベルの精神耐性を持つ者以外は意思疎通が可能なら種族を問わず相手の嘘を見抜くことができるスキル。
必要善コイン:8.000
この祝福を選ばれた人はこんな祝福を選んでいます。
〈審判の天秤〉
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確かに先ほど読んだ時よりわかりやすくはなっているのだが・・・・
「何故ゲームみたいなステータス表記・・・」
「その方がわかりやすいって、転生希望の方からとても受けがいいんですよ。」
「そういうものなのか・・ところでこの必要善コインってのはなんなんだ?」
「残った善行の量を人が理解するのは難しいので、分かりやすいように善行をこの善コインに変換してもらい、望むスキルや装備の祝福と交換してもらうんです。やり方としては取得したい祝福のページを開いて祝福の名前を取得すると言う宣言をすると必要コイン分を消費して祝福を得る事が出来ます。」
なんだそのダサい名前のコインは・・・・
「そして、一般的な方の善コインは平均約5000コインくらいなんですが、人類をここまで継続させた貴方のコインの数は90万コインです!」
90万!?平均値から見て明らかに上回る数値に自分の行いがそこまでの評価を受けていることに驚きを隠せない。
「さらにキャンペーンで転生希望者全員に加算される10万コインを加えるとなんと!100万コインになります。そして、貴方にはこのページの祝福を獲得してもらいたいのです。」
クロノスが開いて見せてきたページ、先ほどまでは1ページに複技ギフトが記されていたのにそのページには一つのギフトしか記されていた。
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〈神域耐性 Lv.1〉
祝福種別:ワンオフ
種別:スキル・耐性
使用方法:パッシブ
属性:無
レンジ:なし
攻撃:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
防御:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔術:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
神秘:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
神秘等の神の力に対して耐性を付与するギフト。
レベルを上げることは可能ではあるが難易度はかなり高い。
取得必要善コイン:999,990
この祝福を選んだ人は今だかつて一人もいません。
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神域耐性?説明を読む限りは今までのような戦闘向きの能力ではないようだ。
説明を読み進めていくとあることに気付く。
「999,990!?」
先ほどまでのギフトの必要コインの数と明らかに桁違いだった。
そもそもこの説明から地球を救うという目的につながるビジョンが見えない。
「このギフトは必要コインが桁違いだが、この文面からは読み取れない隠れた力があるのか?」
「いえ、このギフトはテラではおろか、異世界ですら使い所はまず無いコスパ最悪で最低最弱の祝福がこの神域耐性なのです。」
「容量を得ないな。その最低最弱の祝福が地球を救うのに必要になるんだ?」
「それは、この箱の為です。」
クロノスがおもむろに取り出したのは鍵のついたルービックキューブくらいの大きさの箱だった。
その箱が一体何なのか確かめるために手を伸ばそうとするとクロノスが慌てながら箱を俺から遠ざける。
「あっ、あぶないじゃないですか!これは神器と言って神しか持つことの許されない道具で普通の人間が触ったら怪我どころか貴方の魂もろとも木端微塵になるんですから!」
「そ、それはすまない、軽率な行動だった。」
自分にとって未知しかないこの場で警戒心より好奇心が上回ってしまうとは、これも若返った影響か……気を付けなければ。
「この箱は神器〈ガフの部屋〉人間の魂を保管するために使われる神器です。この神器には私がテラの人間の魂を自動で回収する機能を付与しました。」
「人間の魂の自動回収機能……」
「はい、貴方にはこのガフの部屋を持って異世界に転生してもらいたいんですが、先ほど言った通りに人が神器に触れればただでは済みません。そこで神々の力への耐性を持たせることのできる祝福〈神域耐性〉を取得すれば私たち神自身の力には抗えるまではできませんが、ガフの部屋くらいの戦闘力の無い神器くらいな問題無く所持することができるようになれます。これで各世界に散らばった魂をこのテラに呼び戻し、私の力で時間を巻き戻して世界お乗換えキャンペーン自体をなかった事にすればテラは元通りになり救われます。」
クロノスの語る異世界に転生して魂の回収。
その言葉から連想する方法に背筋が凍るような感覚に襲われる。
「――回収というのはどうやってやるんだ?例えば相手に触れるだけとかか?」
そう、あれは神の力を持った道具なのだ、自分が想像しているような方法ではなく、想像もつかないような超常現象で解決するのだろうと疑念を振り払う。
「いえ、ガフの部屋は肉体から分離した魂しか回収できません。ですので魂を肉体から分離、簡単に言うと殺してもらうことになります。」
嫌な想像を逃避したいが為の思考停止の甘い考えが砕け散り、その途方もない現実に怒りがこみ上げ、その怒りをそのままに言葉に乗せてクロノスに浴びせる。
「お前は、これから異世界に行って数十億の人間を殺し周って来いって言うのかよ!」
「残念ながら、異世界へ行ってしまった魂が戻ってこない以上この方法しかありません。」
クロノスの突きつけた現実に失意のどん底に放り込まれたような気持ちになり、俺は呆然とその場にひざまずいてしまった。
「どんな手を使っても世界を救いたい。その信念だけでとっくの昔に滅ぶはずだった人類をここまで延命させてきた貴方ならどのような残酷な方法であったとしても成し遂げることが出来ると思い、この計画を提案をしました。ですが、貴方にその意思がないなら仕方ありません。何度も断られていますがもう一度他の世界の神にお願いしてみます。貴方はこのままテラへの転生でよろしいですか?」
クロノスの声色から他の神への相談の成功する可能性は限りなく低いことを察する。
人口が減少し続ける以上、人類は滅ぶだろう。避けられない現実。
ここでの超常現象の数々に自分が数十年かけても解決できない問題でも神なら救ってくれる。そんな妄想に一瞬でも縋ってしまった自分への怒りが沸々と沸き始める。その怒りは徐々に大きくなりはらわたを煮えくり返らせる。
思い出せ・・・今までの研究に費やした日々を、今まで犠牲にしてきたものを、世界を救う為に数十億の人間を殺す。それが正義か悪かなんてもはやどうでもいい。ただ、今はこの恩讐にも似たこの感情の赴くままに行動するのみ。
「――誰が辞めると言った。」
「えっ?」
今度こそ……俺が……俺が……世界を救ってみせる!
「〈神域耐性 Lv.1〉を取得する!」
足元から光があふれ俺の体を包み込む。
自分の存在自体が書き換えれていくような感覚がする。
しばらくすると光は収まる。
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神域耐性 Lv.1 999,990コイン
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必要善コイン 999,990コイン
所有善コイン 1,000,000コイン
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残善コイン 10コイン
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― 《神域耐性 Lv.1を取得しました》―
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回更新予定は4月6日を予定しております。