4話「異世界転生の理由」
「今、唯一この世界を救う方法、それは異世界転生です。」
クロノスの言っている事が全く理解できない。
世界が滅びる原因というべき異世界転生、それが世界を救うとこの神は言っている。そもそも異世界へ転生するということは元の世界を捨てる事。何故そんな行動が世界を救うことに繋がるというのか?
「普通の人では不可能ですが、とっくに滅んでいてもおかしくない人類をここまで存続させ続けた功績は貴方が行った悪行を差し引いても膨大な善行が残ります。それに乗り換えキャンペーンで増える善行をフルに活用すれば困難ではありますが世界を救えます。」
クロノスは真剣な面持ちで儂を見据える。世界を救う手段が異世界転生、にわかに信じがたいが今あの世界を救う手段を考えついているのが、この神だけだというのなら。
「――話を聞こう」
そこに一縷の望みがあるのなら、たとえどんな方法でも。
「まずは何故異世界転生がこれだけ起こったのかを説明するためには、世界の始まりと神々の事。そして「テラ」……貴方に馴染みのある言葉言うと「地球」ですね。それらについて話さなくてはいけませんね。」
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クロノスの語った話の内容はこうだった。
全ての世界は主神と呼ばれる存在が生み出した物であり神とは主神の生み出した世界を管理する役割を与えられた者たちであること。そして世界として安定が取れた世界には神は直接介入ができない為、その世界の人々に問題解決をゆだねることしかできず。もしも人々に問題が処理できなかった場合は最悪世界の崩壊の可能性があり、先代の担当神は各世界の人を転生という形で行き来させ、転生した人は現地の人間の思いつきもしない新しい発想で異世界の問題を解決へと導くことを期待して転生時の特典を獲得しやすくする為に「世界お乗換えキャンペーン」を各世界の神々と盟約を結び先代がそのシステムを用意し実行に移された。
しかし、テラという世界の生い立ちに大きな問題があった。生み出されたばかりの世界はエラーやバグのようなことが発生し安定するまでは担当神が修正を行うのだが、テラは数多ある世界の中でエラーとバグの発生数が最多の世界であり、人が海を割ったり、派遣した天使と肉弾戦ができる人間がいる等、一部の神は匙を投げるレベルに不安定な世界で修正には数多の神が代わる代わる対応にあたった。その結果、魔術や神秘までもほぼ発生しない世界として安定したのだが、その代わりにテラの人間の魂には修正に関わった数多の神の因子が刻み込まれているため魔術や異能への適性が高い者が多く、テラからの転生者の高い能力を目の当たりにした人々が「異世界召喚」という人を「霊子」というレベルまで分解し、自身の世界まで呼び出し再構成する疑似的な転生技術が発明された。通常の転生に加えて異世界召喚を行う者が多発、それによって人口が減少に拍車がかかり、徐々に疲弊した世界に嫌気が指した人々がさらに異世界転生し人口減少が加速の一途を歩み、今の地球の現状に繋がっているとのことだった。
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「しかし、それなら逆に異世界から地球にやってくる転生者はおらんかったのか?」
「確かに転生してくる方はいらっしゃいますが、魔術も神秘も存在しない世界であるテラではギフトもその力をほぼ失い、テラには存在しない異世界の知識で問題を解決しようにも魔術や神秘が前提にある知識なのでほぼ意味を成しませんでした。それどころか異常者扱いを受けてそのまま亡くなって元の世界に戻るときはギフトは得られないにも関わらず再転生を希望してしまう始末です。」
異端者……か
新しい学説を唱える度に他の科学者達に忌避されていた経験を思い出すとその転生者達には少し同情を禁じ得ない。
「話はわかったが、一体何をするんじゃ?」
「説明をする前に少し準備が必要なのでそこから動かないでくださいね。」
クロノスが匡の胸に手を触れる。
その突然の行動にもし自分が若ければ少女のボディタッチに顔を赤らめたかもしれないな、と益体もないことを考えていると触れている手が青白くほんのり光りだした。
「見つけた!――《時の支配者‐[対象限定]‐[逆行]》」
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青白い光が徐々に強くなっていく。それを認識した瞬間に光は瞬く間に体全体を包みこんだ。視界はそのうち光に支配されて何も見えなくなる。
五感の全てを感じなくなり、肉体も徐々に消失していく。
そして肉体がすべて消滅し、今まで積み上げてきた記憶と精神と魂が残った。自身が藤堂匡であるという情報のみになる。
肉体を失い、自身の存在すら失いそうになりながらもこの残った情報だけは無くすものかと耐える。
やがて情報が戻ってきた。肉や骨などの肉体を構成する情報。五感などの感覚の情報。それらが結合して藤堂匡の外側の情報をその形をかたどっていく。藤堂匡史上で最も全盛期の状態で再構成されていく。
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「これで準備の第一段階は終了です。」
クロノスの声で我に返る。
永遠のようで刹那だったような時間を体感した。
「今のは一体なんだったんだ?」
クロノスに疑問投げかけたが、まず自分の声に違和感を覚えた。先ほどまでしゃがれた声だったはずの声が懐かしい、まるで青年だった頃の自分の声に聞こえる。
違和感は声だけではない。体にの節々の痛みが無く、思考が妙にクリアで気分も心なしか軽い。そしてしわだらけだった手にしわひとつ無い事もだが、それよりも異常なのが右腕、あの事件で失い、義手があるはずのそこには生身の腕が付いていた。
「まさか……」
「ご覧になりますか?」
クロノスが手鏡渡してきた。それを受け取り、恐る恐る自分の顔を確認する。そこには白髪であること以外は青年時代の自分が写っていた。
「貴方の肉体だけを全盛期の17歳の状態になるように時を戻しました。」
「ここに来てから驚いてばかりだが、これが一番驚いているよ。って口調まで若返っている。」
「記憶が前のままでも精神は肉体の年齢に引っ張られますからね。」
「ただ、なんで体は若返ったのに白髪のままなんだ?」
「え!?元からその色じゃないんですか?」
「この年齢の頃ならまだ髪も黒かった」
「……」
「どうしたクロノス、急に黙りこんで?」
「い、いえ!なんでも…恐らく時間の影響を受けにくい箇所だったんでしょう。ですが、髪の色くらいでしたそこまで問題ないでしょう?」
「まぁ、そうだな。体に関しては全く問題もないようだし、しかし若いころはこんなに体が軽かったのか」
数十年ぶりに思い通りに動く体に年甲斐もなく感動を禁じ得なかった。
まるで今の体なら何でもできるような全能感すら感じてしまう。
「では、次の準備に入ります。これを少し読んでみてください。」
クロノスから本を渡される。その本は革装丁が施されており近代の本には無い風格を漂わせた本だった。
その本をクロノスの進められるままページを開いてみる。そこには何かの説明のようなものが記されいる。
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〈魔剣レバテイン〉
ルーンを唱えて作り上げられた魔剣。
剣から放たれる炎は辺りにある物全てを焼き尽くす。
善の高き者のみが扱うことができる。
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〈カオスマグナム〉
魔術の弾丸を撃ちだせる魔銃。
あらゆる属性の魔術を込めることできる。
善の高き者のみが扱うことができる。
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〈真実の瞳〉
この力を得し者、人の虚を見破り、真実を照らし出す。
善を持つ者が扱うことができる。
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すごくざっくりとした説明が羅列されているページを数ページ読むが要領を得ない内容ばかりだった。
「その本は《祝福辞典》、そこには転生の際に選ぶことになる《神の祝福》が記されています。そして、匡さんにはある《神の祝福》を選んでもらいます。それが世界を救う鍵となるギフトです。」
今回も読んでいただきありがとうございます。
次回更新は3月30日土曜日を予定しております。