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プロローグ 

プロローグ


 そよ風が草木を揺らし、小鳥のさえずりとともにその訪れを知らせる、春。桜は花びらを散らし、土手を歩き茶色に染め上げられた髪を(なび)かせる少年の、高校生となってから二度目の4月を飾る。


 「……あ、おじいちゃんおはよう。今日も元気だね」


 毎朝通るこの通学路を散歩する、名前も知らない頭の眩しいおじいちゃん。いつ倒れてもおかしくない腰の曲がり具合を見ていられず、いつしか声をかけてしまっていた。そしておじいちゃんの、世の先輩としての有難い話を最後まで聞いて、別れる、それがいつもの光景だった。

 そう、いつもの―――――


 「………!!」


 談笑中、横目に見えた、例外(イレギュラー)。ふんわりと春をも思わせる甘い香りに、記憶に焼き付く金色の髪。

 少年は、立ち所に振り向く。背中で分かる、金髪美少女。思考は停止し、一目惚れかのように視線が奪われる。横のお爺の戯言などもちろん耳に入ってこない。


 「うちの制服かぁ………」


 少年はおじいちゃんの妄言を遮り、金髪美少女を追いかけるべく土手をあとにした。



 「――んでさぁ、ずっと魅入って歩いてたらもう学校だったわけ」


 朝から騒がしくしている、少年が所属するクラスの中。窓際の最後席に座る少年は、その前の席に座るクラスメイトへ話しかける。


 「成宮ー、聞いてんのかー?」

 「………んん…あぁ、それなら俺も――――」

 

 何かを言いかけると同時にガラガラと教室の扉が開き、担任の先生が入ってくる。

 「オラー、席につけー。HR(ホームルーム)始めるぞー」


 がやがやと散らばった烏合が自らの巣へと戻る。七三にセットして四角い眼鏡、茶色のスーツが似合う五十路のおじさんの朝礼、いつもの委員長の号令で、決まりきった朝が演じられる――――はずだった。


 「えー、突然だが今日は転校生を紹介する。――入れ」

 「―――――はい」


 転校生と聞き騒めき散らす教室へ,入ってくる転校生。その一歩一歩が、クラスを静寂へと導いてゆく。それはあたりまえのことで、非常識に対する常識、法律で定められていてもおかしくない程の、定石な反応である。


 「初めまして。イギリスから転校してきました、エリーナ・ヴェルセルガといいます。気軽にエリーとお呼び下さい」


 艶やかな金髪を後ろで一つ留めたロングヘアーに加え、シャープで凛とした顔のラインに、大きな瞳。出るとこはよく出てるスタイルの良さから圧倒的美少女、だけならぬ冒頭から笑顔を振りまく愛嬌。

 自己紹介の終了、はち切れんばかりの歓声とともに室内の気温は2度上がった。


 「前いた学校はどんなとこだったのっ!!?」

 「エリーちゃん、これからよろしくね!」

 「ねえねえ連絡先こうかんしよっ?」


 最前列の窓際の端の席になった彼女は、当然の如く女子からの猛攻を受ける。慣れていないのか、困った顔を見せながらも一つ一つ丁寧に返す姿は、誰の目から見ても好印象だ。

 もちろん女子だけではない。クラス中の男子、だけでなく他クラスからも注目を集める有名人っぷりだ。


 「なー成宮、お前はどう思う?」

 「…何が?」

 表情筋が緩み切りだらしない顔の少年が、机の上で組んだ腕の中に鼻から下をうずめている、いつもより目を開き、若干顔を赤らめているクラスメイトに声を掛ける。


 「何ってそりゃ、天崎さんとエリーナちゃんのことだろ」

 「………ふむ」


 そう、天崎華憐といえば、クラス1、いや、校内1位と言われるレベルの、美貌。髪留めで前髪をとめた、黒く長く照り輝く髪。おしとやかで包み込むような優しさから、惚れた男は数知れず、それでいて告白に成功した人は未だおらず、彼女が歩いた道には花が咲くと噂されるほどの、伝説級美少女だ。

 体を起こし、横を向いてクラスメイトが答える。


 「うーん、優劣つけ難いが、流石にエリーナさんの勝ちじゃないか?顔はお互い負けてないけど、あの立派な巨山とあの絶壁じゃあ、勝負になんな――」


 ピシッッッ と音を立てて鼻の上をかすり、シャーペンが後ろの黒板に突き刺さる。

 青ざめた顔で飛んできた方向に振り向くが、そこにはエリーナと話したがる女子の群れ、そして楽しそうに笑う天崎しかいない。

 偶然か必然か、何も見ていなかった少年が口を開く。


 「そういえば、成宮と天崎さんって幼馴染だったよな」

 「……そ、そうだな、幼い頃から知ってるせいであまり客観的に見れないのかもしれない、うん」


 流れる汗を笑顔で誤魔化し、動揺が顔に滲み出るが、全く気付く気配のない少年が続ける。


 「ま、そんなことよりさ!エリーナちゃんだよ!俺がさっき言ってた人って!」

 「あぁ、いつもの戯言じゃなかったのか」

 「ちっげーよ!今朝マジで会ったから!これはもう運命を感じるじゃん!ちょっと声かけてみようかな~」

 「いっとけいっとけー。玉砕後のカスは俺が拾い集めてやるから」

 「なんだとっ!まだわかんねーだろ!それに今日は!俺がおじいさんに声かけてるところも見てるはずだし?もしかしたらあっちがもう既に俺に気があっちゃったり、なーん…て………」

 「…………………………………………」


 少年が恥ずかしいことを口走り終える、その一瞬。たった一瞬だが、移動教室のため席を動いたエリーナは、歩く途中、確かにこちらへ顔を向けた。それはすぐさま戻されたが、若干俯かれたその顔は、ほのかに赤く火照っていた。


 「「…………マジで」」

 


 ――――放課後。終業のベルはとっくに鳴り止み、生徒は部活動を勤しむ時間帯。もちろん部活動の対象でないこの教室も、生徒はおらず空っぽ―――のはずだった。


 「…ごめんね、急に呼び出しちゃったりして」


 そう。呼び出したのは他の誰でもなく、エリーナ。放課後の、夕暮れ時の空き教室。橙色に塗り上げられた二人の男女の空間に、甘酸っぱい空気が流れる。


 「来てくれて本当にありがとう。――――成宮くん」


 「…」


 このギャルゲーであるだろう絶対的状況に、残されたルートは一つしかない。

 顔を隠すように少し俯きながら、エリーナが手を胸の前へあてて続ける


 「えと…その、あのねっ、転校して来て初日にこんなこと言うのは可笑しいかもしれない、けど、」


 「……」


 「私……感じたの」


 「………」


 「ああ、この人だ、この人しかいないって」


 「………………」

 

 エリーナは顔を上げ、しっかりと成宮の目をみつめる。その顔は、少し火照っていた。


 「成宮くん」

 「…………はい」


 「私と―――――」



 「異世界へ行って魔王と戦ってほしいの!!」

 


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