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主食はビーフウエリントン

「なろう批判を批判する」企画エントリー作品  「なろう」フル活用してるのは底辺作家

 「なろう批判を批判する」に関する賛否両論のエッセーが、最近、「なろう」内で盛り上がっているようです。

 これに対する私の一番の感想は、誰の意見が正しいかでなく、こうした論争をテーマに”炎上”するのは興味深い、少なくとも一昔前に流行った「カップ焼きそばの作り方」で”祭り”になるよりはよっぽど知的でましだ、といったところです。


 かくして私もちゃっかりブームに便乗して(えっ? もうブームはとっくに終わってる?)、以下、「なろう」で一番得しているのは実は底辺作家たちであることを論じたいと思います。



1. 底辺作家と非底辺作家で二分する


 「なろう批判」とは簡単に言えば、異世界ものや「なろう」テンプレが「なろう」ランキングの上位を占めている現状をけしからんと思っているかどうか、という議論のようです。

 しかしながら、異世界ものや「なろう」テンプレに分類される作品の中にもランキングが低いものもあるでしょう。全部が全部、人気があるわけではありません。

 さらに作品によっては、こうしたジャンルに分類すべきかどうか、議論の分かれる曖昧な小説もあると思います。

 そこでジャンルではなく、底辺作家と非底辺作家という概念で「なろう」作家を二つに分類したいと思います。


 以前、「なろう」で読んだエッセーによると、ブックマーク数100未満の作品しか書いてない作家が底辺作家で、「なろう」全体の85%を占めるとのこと(記憶が曖昧で違っていたら感想お願いします)。

 別の見方をすれば、書籍化される可能性のない作品ばかり書いている「なろう」ユーザーが底辺作家、そうでない「なろう」ユーザーが非底辺作家ということになります。


2. 底辺プロ作家の存在


 一般に多くの「なろう」ユーザーにとり、書籍化されるかどうかが意味ある目標のような感がありますが、私はこれに疑問を呈します。

 つまり、書籍化されるかどうかよりも、書籍化後、コンスタントに自分の作品が売れ続けるかどうかが難しいのではないでしょうか。

 以下の不等式をご覧ください。


 A:プロ作家> 越えられない壁 >アマ作家


 B:売れてるプロ作家> 越えられない壁 >売れないプロ作家>アマ作家


 書籍化されるかどうか、つまりプロ作家になれるかどうかが大きな問題と考えるのは不等式Aです。これに対し、同じプロ作家でも売れている人とそうでない人の間に大きな”壁”がある、という考えが不等式Bです。私は不等式Bを採用すべきだと考えています。

 ところで、一人の作家が売れている、売れてないの境界線は、作家の収入だけで人並み以上の生活ができるか否かでとりあえず引いておきましょうか。境界線の引き方で”壁”の厚さも変化しますが、どういう引き方をしても、越えるのは容易ではないと思われます。


 つまりここで強調したいのは、書籍化されたプロ作家たちの世界にも底辺プロ作家が存在するという事実です。



3. 儲からない底辺プロ作家


 さて、「なろう」やカクヨムのエッセーで、実際に書籍化したプロ作家の体験談がときどき載っています。

 売れない作家の場合、初版3000部刷っても実売は1000部程度で増刷なし。よく書籍の広告で70万部突破といった景気のいいコピーを目にしますが、こうした数字は出版社がサバを読んでいるとのこと。70万部突破は、この本は70万部以上は売れてないという上限を示す数値でしかなく、実売はこれより低いはずです。

 印税は通常は10%ですが、新人の場合、8%しかもらえないことがあります。しかも8%分まるまるもらえるかというとそうではなく、20~100冊程度、業界関係者などへの献本用に作家が買うという形を取り、それを差し引いた金額しかもらえません。


 本を出版するとき、本来は著者と出版社の間で出版契約書を作成すべきですが、新人の場合、出版契約書を作成してもらえないことがあります。この場合、出版してから3年間は著作権は著者ではなく、出版社に帰属することになります。


 さらにはデビューから3年間は、他の出版社に原稿を売ったら”干す”と編集者から脅されることがあります。

 こうした業界の慣習をミクシーでは「労働法」、「公正取引法」、「独占禁止法」に引っかかるのでは、と議論になったことがあります。音楽業界でも同様に、レコード会社がミュージシャンを専属契約で縛りますが、これに法的に異議を唱えたミュージシャンが現れたからです。


 底辺プロ作家の中にはセミプロに転向し、自費出版で文学フリマで販売を始めた人もいるようです。文学フリマでは売上は100%自分のもの。8~10%しかもらえなかったころより儲かったかどうかは書いてありませんでしたが、自分で書きたいものが自由に書けるのが、文学フリマ作家のメリットとのこと。プロ作家の場合、編集者の要望に合う作品しか書くことが許されません。



4.底辺プロ作家 屈辱の”じゅっぱひとからげ”評論


 商業誌に作品を載せたり、作品を書籍化すると、新聞や雑誌に書評が載ります。

 しかしながら底辺プロ作家、または新人作家の場合、書籍の帯や裏表紙に書いてあるレビューのような販促用ステマとでも言うべき薄っぺらな書評を除けば、”じゅっぱひとからげ”でしか評論してもらえません。

 自分の作品と同時期に発表された同じジャンルの作品を複数並べ、その共通項と違いだけを指摘した”じゅっぱひとからげ”評論。特に年齢やデビュー時が自分と同じ作家の作品を、評論家たちはひとまとめにしたがります。

 そもそもあらゆる芸術作品は作家個人の個性を最大限強調するための表現であるはず。それを年齢が近い作家という理由で他人の作品と一緒にされ、自分の個性でなく、世代論にすり替えられてしまうのは、ほめられるほめられないとは別に、評論される作家としては大いなる屈辱でしょう。

 ここが底辺プロ作家の悲しい現実です。プロ作家も底辺を脱出しなければ、まともな評論さえ書いてもらえないのです。


 ところで、みなさんは作品を書いたらどれくらい感想をもらっているでしょうか。

 プロ作家も上記の書評以外に一般読者から感想の手紙を出版社経由でもらうことがあります。

 どれくらい感想が来るのか、正確な統計データはありませんが、私が知っている底辺プロ作家の例では、3、4件です。みなさんの方がもっとたくさんもらっているのではないでしょうか。

 しかも、3、4件のうち半分が比較的好評な感想。残りは酷評またはそれを通り越して、”ストーカーの脅迫状”のような感想です。

 「なろう」で酷評の感想をもらって嘆いている意見を度々目にしますが、プロ作家も同様です。おそらく同じプロ作家でも売れている非底辺プロ作家ほど、好評の感想と”ストーカーの脅迫状”の両方を数多く受け取っているのではないでしょうか。

 皮肉な言い方ですが、”ストーカーの脅迫状”の多さは作家の人気度を示すバロメーターなのです(だからと言って「なろう」で酷評の感想を書くことに賛成というわけではありません)。



5.底辺作家でも同人誌より読まれている


 ここまで底辺プロ作家があまりいい思いをしていないことを説明しましたが、今度は底辺作家(つまり底辺「なろう」作家)について考えてみましょう。

 底辺作家と一口にいっても、アクセス数、ポイント数、ブックマーク数など、大きなばらつきがあると思います。みなさんはどれくらいの点数を稼いでますか?

 もし自分が書いた小説を誰も読んでくれないとしたら......かなり厳しいものがあります。しかしアクセス数がゼロということは滅多にないでしょう。

 私は、自分の作品が同人誌に所属した場合より多くの人に読まれれば、「なろう」に発表した意義は大きいと考えています。

 同人誌に所属すれば他人に自分の作品を読んでもらえますが、同人誌のメンバーは10名以下ではないでしょうか。

 ではアクセス数がユニーク10以上だと同人誌より多くの人に読まれたかというとそうではありません。ブラウザバックしてすぐ帰ってしまう人が大半だからです。かりに10名に1名以上が作品を読んでいるとしたら、ユニーク100以上のアクセス数で同人誌より多くの人に読まれた計算になります。

 短編でない場合、PVとユニークの比率から、ユニーク数のうちどれくらい本当に読まれているか推測することができます。


 感想が1件でもくればしめたものです。感想を書くのはおそらく自分の作品を読んだ人の半数以下だと思います。感想が1件なら最低でも2名以上の人が自分の作品を読んだはずです。


 こうして計算していくと、底辺作家でもほとんどの人が同人誌に所属した場合よりも多くの人に作品を読まれているのではないでしょうか。


 もしあなたがアクセス数上位の非底辺作家なら、書籍化を経験してなくても、すでに底辺プロ作家よりも多くの読者に自分の作品を読んでもらっているかもしれません。



6.「なろう」ユーザーのメリット


 次に底辺作家、非底辺作家両方に当てはまる「なろう」ユーザーの特権について述べます。


 書きたいときに書きたいものを書き、読みたいときに読みたいものを読み、気分が乗らないときは書かなくても読まなくてもよい。これが「なろう」ユーザーの特権です。

 プロ作家の場合、締め切りまでに原稿を書き上げなければならないので、こうしたわがままは許されません。同人誌に所属している場合も、プロ作家ほど厳しくないでしょうが締め切りはあります。


 同人誌の合評会では、相手の顔を見ながら感想を言います。年配の人に向かってずけずけと本当のことは言いづらいでしょう。しかし「なろう」では作家の顔を見ないので、感想では言いたいことを自由に表現できます。

 人間関係的に不仲だが作品は面白いとひそかに思っている人が同人誌にいる場合、合評会でこちらが口を開けば何を言ってもけんかになりそうなので、相手をほめることもできない、ということがあります。これも「なろう」では気兼ねなく感想でほめることができます。


 自分が個性の強い作品を書いた場合、たまたま同人誌に居合わせた人の中に自分の作品のよさを理解できる人がいる確率は低いです。ところが「なろう」のようなネットでは、自分の作品のよさを理解できる人が自分の作品を読んでくれる確率が高まります。

 100人に一人、300人に一人しか面白いと思わない作品でも、100人、300人がアクセスすればその一人が作品を読んでくれる、ということが起こりうるからです。

 

 底辺作家ほど自分の作品を他人からほめてもらえませんが、それでもブックマーク数が一つでもつけば、誰かが面白いと思ってくれたのではないでしょうか。ブックマーク数やポイント数が100なくても、20以上もあれば誰かがなんらかの評価をしたわけで、同人誌に所属している場合より、多くの賞賛を得られたと私は思います。



7.「なろう批判を批判する」を批判するか


 さて、このように底辺プロ作家がいかに厳しく、底辺「なろう」作家がいかに恵まれているかを論じてきました。

 直接言及していませんが、ここまで私が述べてきた意見は、異世界ものや「なろう」テンプレには否定的な見解と言えます。

 しかしながら、もしいまこれを読んでいるあなたが異世界ものや「なろう」テンプレを書いている非底辺作家で、もうすぐ書籍化デビューが狙える状態だった場合、是非とも異世界ものや「なろう」テンプレを書き続け、書籍化を実現していただきたいと思います。

 書籍化について否定的なことを書きましたが、要はプロデビュー後は、非底辺プロ作家になればいいのです。

 書籍化という難関を突破したあなたのことです。道は厳しいかもしれませんが、そこはがんばって、是非、非底辺プロ作家を目標に大いに飛躍していただきたいと思います。


                                       (了)

 

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