分かっている
少女はゆっくりと振り返る。断片的な記憶ばかりで、実はその顔すらおぼろげだったさゆりが、佑二を振り返って笑った。
「久しぶり」
その涼しい声を、久しぶりに聞いた。
佑二は束の間、声も出せずに立ち尽くしていた。二十年近く会っていなかった友人が、あの頃のまま存在している。それはあまりにもおかしなことであるがゆえに、逆にその存在が本物であることの証のように思えた。透けるような白いワンピースと、肩上で切りそろえられた細い髪が風に揺らいでいる。表情に乏しい顔のなかで、涼しげな目元が眺めるように佑二を見ている。きっと佑二の言葉を待っているのだろうとは思ったが、何を言えばいいのか分からなかった。
佑二は無意識のうちに歩みを進めながら、揺らぐ髪の中で微動だにしないさゆりの顔を見つめた。
「……さゆり」
「うん。なに?」
意外なことに返答は早かった。佑二への返答を用意していたかのように、機械的なほど早かった。佑二は、根拠もなく答えてもらえないと思っていた自分に気付く。
「あのさ、……元気?」
気の利いた挨拶一つ出てこない。それでも、さゆりは訝しんだりしないと分かっていた。さゆりはしばらく佑二を眺めたあと、ひとつ瞬きをした。
「元気だ。佑くんは?」
「え?」
佑二は思わずまじまじとさゆりの顔を見た。そんなこと、さゆりには言わなくても分かるだろ、と言おうとした。首を振って言葉を飲み込む。もう今は佑二を見守っているわけではないのだろう。見守ってくれていたのは二十年近く前の話だ。会わなくなってから、元気かどうかなんて分かるはずがない。
「まあ、たぶん……」
覚えず弱くなった声に、自分でも焦りを覚える。元気だと答えるべき場面だったと後悔し、続く会話の糸口を探した。
「あ、おにぎり」
佑二の声に、さゆりは無言で首を傾ける。
「おにぎり、あのあとどうなったんだよ。俺、引っ越しちゃったから」
さゆりはじっと佑二を見返す。言葉を選んでいるように見えた。あの頃にも、こんな様子があっただろうか。記憶がおぼろで思い出せない。
「納屋の裏で死んでた」
まあ、そんなところだろうと思っていた。佑二の可愛がっていた猫のおにぎりは、いなくなったとき、もう十八を超える年寄り猫だった。
おにぎりの最期を知っている。まぎれもなくさゆりなのだと思った。
締め切りぎりぎり!!!!!ごめんねラジオメンバー!!!!