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死へ向かうダモック  作者: 川口 九鳥
プロローグ
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プロローグ

 過つ人の子よ。お前は苦しみの果てに何も得られないだろう。そして喜びの果てにも何も得られまい。お前が勝ち得た栄華とやらも、百年も経てば誰からも忘れ去られ、二百年も経てばその足跡は消え失せ、人類の文明の終わりとともにこの宇宙に塵一つ残らない。お前の生は無意味だ。お前が残した功績は何も意味をなさない。お前が感じた苦しみも喜びも、何の意味もない。何一つとして後には残らない。いわんやお前の人生をや。影に隠れ、不幸の星の下に生まれてきたお前、誰からも認められることなく死ぬことを、生まれながらにして定められたお前は、お前の人生は、喜びはほとんどなく苦しいことばかり続くだろう。お前の人生に生きる価値があるのだろうか。いっそ未来を投げ捨て死んでしまったほうがマシではないだろうか。鬱屈として日々を過ごすよりも、どこかで幸せになる事は諦めて、この地上を立ち去った方が賢明ではないだろうか。

 それでも生きるというのなら。お前の人生には数々の苦しみが立ちはだかるだろう。生きることは死ぬことよりも辛い。お前は全てを投げ出して死にたくなるだろう。お前のその生の果てに何が待ち受けているのか。希望を持たず生きることほど辛いことはない。時を経るごとに苦しみという名の壁がお前を圧迫して、お前の人生の選択肢はどんどん少なくなっていく。お前は時を経るごとにできることが少なくなり、後悔ばかりが増えていく。あの時ああすればよかった。ああしていれば今こうなっていた。際限のない後悔がお前を苛む。そしてそれには何の価値もない。お前を傷つけ、いたずらに時を浪費するだけだ。

 苦しみの果てにお前は悟るだろう。自分の人生には何の価値もなかった。お前にはそのとき後悔したり、自分を慰める気力も残っていない。乾いた感情の砂漠で、空を眺めながら涙を流すだけだ。お前は哀れだ。お前に救いはない。

 しかし、万が一にもお前に救いが生まれたなら、お前の人生に光明が差したのなら、希望を見出せるなら、苦しみと絶望の果てに生まれた何かを見られたのなら、私はそれを尊重し、お前の人生という名の物語を、どこかに書き記して大切に語り継いでいくことだろう。永遠に。この世で最も価値があるものとして。

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