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虹の死神  作者: 九JACK
死神たる者
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黄になるけれど

 セッカに日記を押しつけられたときは驚きましたけれど、久々にこうして綴ってみるのもいいかもしれませんね。

 というわけで今日は私、キミカが書いていきます。

 まずは、日記の管理を担当しているセッカから、この日記を渡された経緯でも話しましょうか。経緯といっても、セッカは本当に私にこの日記を渡しただけです。だから、私の憶測を書くことになります。

 先に述べた通り、セッカは私に日記を渡すというより押しつけていきました。セッカは生前から日の光に当たると具合が悪くなるような体質で、屋内の灯りでさえ、眩しいと感じるとフードを目深に被ります。私に日記を押しつけたときも、フードを被っていて、表情が窺えなかったんですよね。たぶん、見られたくなかったのだと思います。

 セッカはユウヒの次に虹の死神として長く在籍する死神です。彼の享年は十五。そのときの感性が残っているのなら、死神の役目というものに葛藤を抱いても何ら不思議ではありません。

 私たちが今、関わっているのは、虹の死神の青の席の候補であるアオイくんという子どもです。これまでも、死神になり得る子どもたちを見届けてきたことはありました。死神の役目は理不尽ですから。彼ら彼女らが死神になっていくまでの過程を見つめることしかできないというのは、もどかしく、歯痒いものです。

 セッカは育った環境が劣悪で、常に死が隣にあったという生前からか、どこか達観している風でもありました。マザーの対処に業を煮やすリクヤを宥めることも多かったです。死神をやってきた年数が違うというのもありますが、そうならざるを得なかった生前の環境というのも少なからずあると思うのです。

 ただ、リクヤが加入してから、彼の人間らしさというか、熱というか、ぶれない芯から出る理不尽への激昂に充てられたのでしょうかね。セッカもつらそうな顔をすることが増えました。リクヤと反りの合わないユウヒやアイラともやりとりをしているので、両方の意見の板挟みになっているのかもしれませんね。

 私が助けられればいいのですけれど、きっと、私もセッカを苦しめている。中途半端に差し伸べられた手にすがりつくと、後々もっとつらくなるでしょうから、私は見守ることにしています。

 近々、アオイくんのいる国で戦争……とはいかないまでも、たくさん人の死ぬ、悲惨な出来事が起こるでしょう。その中央にアオイくんがいる。だからアオイくんが死神になる。それを黙って見ていることをセッカは選んだのだと思います。

 この日記は死神の記録です。日記だけれど、私情ばかりを書いていては、概要がわからなくなりますからね。きっとセッカは、私情を抑えきれなくなると思って、私に日記を押しつけたのでしょう。リクヤだと、感情的になって日記を破り捨てて、マザーに怒鳴り込む、までしそうですからね。かといって、ユウヒも駄目です。彼は元々マザーに傾倒していますし……これは私の感覚的なものなのですが、マザーと同化しそうになっているのではないでしょうか。私たちには聞こえない声まで、マザーの声を聞き取っているようですから。

 アイラは今回の件にはノータッチですから、記録はできませんしね。となると残るのは私です。

 私個人としては、こういう消去法ではなく、私への信頼からセッカが私を選んでくれたんだと嬉しいんですけど。

 さて。セッカが死神界に残るというので、リクヤと二人でクォン国に行ってきました。セイムくんは元気でしたよ。「キミカ姉元気になったんだ!」って大喜びしてました。ええ、私は男です。

 私は私で生前の虚弱体質を引きずっていますので……病名はよくわからないのですけれどね。色々な病気を併発して死んだはずですので。そういえば、二人の母のナキさんはお医者さまでしたか。お願いしたら診ていただけるのでしょうか。まあ、既に死んでいるので、無意味なことかもしれませんが。

 二人の帰り道に遭遇した私たち。リクヤが口火を切ります。

「聞いたぜ。兵隊になるための訓練受けてんだろ? 大変じゃねえか?」

「あ、うん。物騒だよね。体術の訓練から始めてるよ」

 どうやら、リクヤが懸念していた銃の訓練はまだ始まっていないようです。ただ、時間がない分、少々荒っぽいことになっているとか。

「みんな生傷が絶えない毎日だよ」

「その割にセイムはぴんぴんしてんな」

「セイムは受け身からの態勢の立て直しが上手くて速いんですよ。先生にも褒められてたもんね」

「アオイもすごいじゃん! 授業中誰にも投げられないどころかほぼアオイの一人舞台みたいなものだったもん」

 なるほど。アオイくんは訓練は受け始めですが、素質があるのですね。暴走したら、セッカやアイラのような超人的な立ち回りをするようになるのでしょうか。それは心配です。

 虹の死神の候補に挙がるくらいですから、これからたくさん人を殺すのでしょう。戦争となれば、自然に死ぬ人の数は増えます。その中で生き延びるためには、強くなくてはならない。猛者でなくてはならない。

 アオイくんは近いうちに死神になるのでしょう。そこから推察するに、アオイくんには才能があるのです。人を殺す才能という、あってもあまり嬉しくない才能が。

 まあ、セイムくんは悪運強そうなので、この二人が合わさるといい感じに何かが相殺されそうですね。

「そういえば、マフラーは編み始めましたか?」

 セイムくんに尋ねると、彼にしては珍しく、ほろ苦い笑みを浮かべます。

「編もうとは思っているんだけど、話していたほど長くは編めなさそうなんだ。物価が高騰してて、毛糸も高くてさ」

「それに、母さんはこないだ爆撃があったところに行ってるんだ。医者としてね。戦争があるとき、医者はいくらいても足りないくらいだから。もし、この国が本格的に軍隊を作るってなったら、そのまま軍医にされるんじゃないかな」

「確かにナキさん、胆据わってそうだしな」

 リクヤがナキさんの顔を思い浮かべてうんうん頷いていると、セイムが得意げに笑う。

「ナキお母さんはぼくのお母さんと一緒に現場看護実習に行ったことがあるからね」

「現場看護実習?」

「うん。この国は中立国だから、軍隊はないけど、世界にはお医者さんが作った医師看護団っていうのがあって、それに参加したんだ。医師看護団は善悪関係なく、傷ついた人を助けるために動いてる世界のボランティア集団だよ。時には本物の戦地にだって赴く」

「母さんたちが実習に行っていた時期は、ちょうど隣国の紛争が激しかった時期で、お金のない貧民軍の人たちを無償で助けたって」

 もちろん、全てを救えたわけではないけれど、とアオイくんは真面目な顔で付け加えます。

 なるほど、戦争の現場を知る数少ない者なら、軍隊のないこの国で軍隊を作る核にしたいことでしょう。

 少し横道に逸れますが、私は一つ気になることがあったので、二人に尋ねました。

「その医師看護団という集団を発足した人……もしくは、その中核を握る会社か何かはご存知ですか?」

「んーと、なんとかロイツっていう……」

「アーゼンクロイツです」

「なるほど」

 悪い変化ばかりではないようですよ、セッカ。

「お母さんがいないのでは、ミアトさんが大変なのでは?」

「ぼくたちはもう自分で身の回りのことはできるよ!」

「セイムは料理が下手でしょ」

「こら! 言わないの!」

 微笑ましいなあ。

 私には一般的に「青春」と呼ばれる時代がなかったので、アオイくんとセイムくんを見ていると、私が得られなかったものを感じて胸が苦しくもなりますが、それが二人の幸せであることが嬉しくもあります。

 リクヤがおちょくるようにアオイくんを肘でつつきました。

「そういうアオイくんはどうなのかなあ? 得意料理は?」

「クリームシチューかグラタンかな……」

「アオイは手間暇かけて作るの好きだよね! ただ炒めるよりアヒージョのが好きだし」

「ガチ勢じゃん……」

 そういえば、虹の死神で料理できる人っているんでしょうか。

「いつか私もお料理お勉強してみたいです」

「キミカ姉見た目からしてもうできそうな気がする」

「それはさすがに偏見がすぎるよ、セイム」

 にこにこと笑い合う日が、できるだけ長く続きますように。

 私はそう祈りました。


 私の祈りが届いたことなんて、ないのに。

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