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虹の死神  作者: 九JACK
死神の因縁
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緑色の世界

 リビングにて。

 今日も虹の死神はほのぼのと過ごしている。リクヤとユウヒは今日も仲が悪く、リクヤがなんだかよくわからない理由でユウヒに喧嘩を吹っ掛けて、「よぉし、わかった、戦争だ」とかふざけた調子のユウヒと共に訓練室に行った記憶がある。理由はよくわからない。たぶん、今日も空が青いとか、そんな感じだろう。

 ただ、ユウヒとリクヤには任務が入った。まあ、ユウヒとリクヤにというよりはフランに任務が入ったと言った方が正しい。フランが暴走しないように後見人として二人ついた感じだ。ユウヒもリクヤもおれのように力でねじ伏せるのは難しいから、二人がかりといった感じだろうか。

 リビングは今、ほのぼのとしている。何故か。リビングにいるのはおれの他に、キミカとアリアである。これでほのぼのしない方がどうかしている。

 フランが彩雲になってから、十数年が経つ。罪の数値も彼らは三桁と随分減ってきた。あと何回か任務を果たせば、フランの罪は浄化されるだろう。

 少年少女に平和が訪れるのだ。これほどいいことはない。譬、死ぬのだとしても。

 今このときを楽しく過ごしていく。それが正に今、キミカとアリアが行っていることだ。

「ふふふ、女の子の髪はやっぱりいいですねぇ」

 アリアの髪を櫛で鋤きながら、キミカが言う。かくいうキミカも中性的な顔立ちをしているので、女性に見えなくもないのだが。

 キミカ曰く。

「私はこれで癖毛なんですよ。これより長く伸ばすともう寝癖みたいにぴょんぴょん跳ねて」

「だからその長さで揃えてるんですか」

 キミカの髪の長さは顎のラインくらいである。そこで切り揃えられた髪は少し内巻きになっているが、伸びると外向きに跳ねるらしい。なるほど、想像すると手入れが大変そうだ。

 へぇ、と頷いていたアリアが、そこでふと首を傾げる。

「あれ? でもそういえば死神の皆さんって、髪を切るわけじゃないんですよね? どうしてその長さのままなんですか? 出会ったときから何年も経ってるのに」

 言われてみると、その通りだ。おれもキミカも何百年と死神をやっているが、髪が伸びたという実感はない。だからあまり気にしていなかったが、普通、人間であれば髪は伸びるものなのだ。そこを不思議に思うのは仕方あるまい。

「死神は死んだときで時間が止まっているからな。死んだときのままの髪型なんだよ」

「なるほど」

 と納得しかけたアリアだったが、すぐにまた疑問符を浮かべる。

「でも、フランは伸びてますよ?」

 アリアの指摘通りである。フランは出会ったときは背中の真ん中くらいだった髪が、今では腰くらいにまで伸びている。毎日手入れが大変そうだな、と思いながらおれも眺めていた。アリアとアインの手助けがあって、フランはなんとかやっているようだが。

 今度はキミカが口を開いた。

「フランさんは、生きたまま死神になった人です。だから、成長も止まっていないんじゃないですかね。こないだリクヤが『背丈越される!』って焦ってましたよ」

 楽しそうにキミカが笑う。虹の死神の中ではリクヤが一番背が低い。正確な数値まで測る装置はないからわからないが、キミカの目線くらいの背丈だ。おれとは頭一個分、ユウヒはそれよりちょっと短いくらいの違いしかなかったはず。おれは生まれつき、体格がよかったからだと思うが。アルビノで背が高いってどうなんだろうとは思うが、大は小を兼ねるということで前向きに考えている。

 以前、リクヤが、台所の食器棚に手を懸命に伸ばしていたのを横からひょい、と取り去って、リクヤが心底悔しそうな顔をしていたから、リクヤは男性の平均より背が低いのかもしれない。おれが年齢不相応に背が高いのもあると思うが。

 確かに、ここ数年でフランは目まぐるしく成長したと思う。様々な意味で。竜鱗細胞を使いこなすようになったし、制御することもできるようになった。更には知識を溜めて、今は建物の建築、修復までこなすようになった。大工仕事をしている姿は様になっている。真っ当に人間の道を歩いていたなら天職だったんじゃなかろうか。

 フランは髪が長くなったので、最近は三編みにしている。それはアリアの担当というのが暗黙の了解だ。アリアが慣れた手つきで三編みにすると、フランはさも嬉しそうにアリアにありがとうという。人殺しばかりする死神の生活の中にあって、そんな日常的な場面は癒しであった。

 アリアは初めての任務に失敗して以来、任務には出されていない。フランも、アリアに人殺しをさせたくないのか、率先して自分で任務をこなす。

 数年前のことだが、アナロワの企業の社長が自殺したという事件があった。そのときの黒幕はフランだ。フランはマザーから、アリアの話、アナロワの社長に寿命が近づいていることを話し、アリアには内緒で、アナロワの社長……アリアの両親の仇を殺した。アリアが望んでいたわけではないことを知っていたので、表面上は自殺に見えるようにした。フランはアリアの復讐心も知っていたから、色々と思うところはあっただろうが、フラン自身がその道を選んだ。アリアが傷つかないように、かつ、そいつらが罪が残されたまま死んで、死神になって、アリアと対面するなんてことがないように。

 マザーは彩雲の死神としてフランを死神にしてから、何か思うところがあるのか、おれたちの提案をすんなり飲むようになった。自分のものさしを押しつけることがなくなったという方が正しいか。死神とはどうあるべきか、死神を統括する者としてどうあるべきか、マザーは悩んでいるのかもしれない。冷酷無慈悲に見えるマザーにも、本当は心があるのかもしれない。

 最近は任務もフラン以外にはあまり与えられなくていい。フランには悪いが、あまり人殺しというのは気分のいいものではないのだ。譬、生前に大虐殺していたとしても。譬、殺すことに理由があるとしても。

 やはり、おれたちは人間だったからそう思うのだろう。人間の倫理を知る者だから。

「今日はどんな髪型にします?」

「キミカさんおすすめの編み込みで」

「今日の編み込みですね。帰ってきたらフランさんをびっくりさせましょう」

 楽しそうで何よりである。いつ見ても思うが、キミカは手先が器用で、何より髪弄りが好きだ。いつぞやアリアに化粧を施していたときは、「こいつ本当に男か?」と疑ったりもした。入院していて隣のベッドの入れ替わりが数多あったが故の交遊経験と、神のように崇められていたことから、キミカはなかなか女性的な部分があるらしい。祭りのときは化粧をさせられたらしいし、時には本当に女に間違えられて、化粧を教えられたこともあるのだとか。人生とは数奇なものである。

 アリアも髪は長い。会った当初のフランと同じくらいの長さはある。アリアはフランが三編みにするまでは、フランとお揃いと言って、サイドテールにしていたのだが、フランが三編みをするようになってからは、自分も三編みにしたり、キミカに編み込みをしてもらったりするようになった。アリアはやはり元令嬢というだけあって、整った面差しをしているし、髪もベージュっぽい綺麗な色をしているので、落ち着いて見える。

 ……と、見ているうちに、アリアの頭がものすごいことになっていることに気づく。

「ちょ、キミカ、それは……」

 指摘しようとすると、キミカは悪戯っぽく笑んで、口元に人差し指を立てた。内緒にしろということだろう。

 まあ、それでも面白いことは面白い。フランはアリアのことをどう思っているのだろうか。

 アリアのハート型に編み上がっていく編み込みを見ながら、おれは考えた。



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