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虹の死神  作者: 九JACK
死神の因縁
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黄の街

 レクロエ街の東側、アナロワ街の調査は私、キミカが担当しました。

 アナロワ街は大きな街ですが、人が住んでいるのは、その面積の三分の一くらいの部分です。残りの三分の二がどうなっているかというと、砂漠です。砂ばかりの地域で植物はほとんど育たない、日ばかりが照り、暑い場所で、かと思えば夜には凍えそうなほど寒くなる、そんな環境です。

 砂嵐が砂漠から吹いてくるため、その対策として、人が住んでいる地域には高い高い壁があり、ぱっと見、閉鎖的な街に見えます。

 けれど、完全に閉鎖されているわけではなく……というかむしろ他の街との交流はさかんです。先程植物はほとんど育たないと言いましたが、この地域特有の植物はあるのです。過酷な環境に耐えられる植物は、手入れに手間のかからないお手軽な観葉植物として人気で、先程セッカが綴っていたサスラエ街のオークウェンの貴族にも需要があるとか。

 他にも、この街特有の農作物は珍しいらしく、隣のレクロエ街でも流通しているそうです。日持ちするものが多いので、重宝されるとか。

 意外とお金に困っていなさそうなアナロワですが、やはりここにもストリートチルドレンはいたようです。

 ここのストリートチルドレンは親なし子のようで……詳しくはわからないけれど、早くに親を亡くし、行き場をなくした子どもたちがたまっていたのだと言います。

 アナロワ街は環境が環境なため、食べ物にありつくのが難しいのです。それに一番の問題は、水でした。

 一応共有の井戸はありますが、一日一家族で汲める量は決まっており、あまり家族の人数が多いと、分け合える量が少なくなります。それに水が少ないと、少ない分だけ料理の幅が狭まります。故に食生活が偏り、健康に支障をきたしたり、他の家族のために自分の分を制限することで、餓死に至ったり……と様々なことが起こります。

 いつ来るとも知れない死。そんなものと隣り合わせ、アナロワの人はその日暮らしをしているのです。


 そんなアナロワではストリートチルドレンも珍しくはないようで、ストリートチルドレンとは言っても、街公認のようなところがあったようです。

 風を凌ぐ家がないだけで、ストリートチルドレンにはちゃんと居場所がある……という変わった街でした。

 というのも、今回ストリートチルドレンの減少で数少ない被害のようなものを被ったのがアナロワなのです。

 先程、アナロワには壁があると言いました。その壁の建設に携わっているのがストリートチルドレンだったのです。

 ストリートチルドレンは家がないため、自分で食べ物を手に入れなければなりません。これはどこのストリートでも同じことでしょう。その仕組みがアナロワではちょっと変わっていたのです。

 普通のストリートチルドレンのその日暮らしの方法は泥棒やスリなど、普通なら許されざる方法です。家無し子には全うな仕事など与えられません。貴族など、地位の高い者の奴隷が関の山でしょう。

 しかし、アナロワは違います。全うな働く手段があるのです。

 それはアナロワを支える最も重要な仕事──砂塵を防ぐ壁の建設、修繕です。

 まあ、建設とありますが、昔の人々から受け継がれ続けてきたものであるため、基礎はできています。あとはそれを補強したり、風化した場所などを修繕したりするのみです。

 興味がてら聞いてみたところ、作業は思ったより単純でした。

 まず、補修箇所にざっくりと石を詰めます。石の大小は問いません。詰め終わると、今度は粘度の高い泥──アナロワでは水が少ないため、ほとんど潤った土のような程度──を隙間に流し、固まらせれば、完成です。

 手順が逆のときもありますが、単純作業で、子どもでもできます。壁の高いところは子どもでは危険なところもありますが、壁の内側は緩く坂になっており、上り下りしやすくなっているため、そこの不安は少ないように見受けられました。

 けれど砂と石の壁は崩れる可能性が皆無なわけではありません。故に危険とされ、それを行う子どもたちにはいくらか……その日暮らしにはなんとか足るであろう給金が渡され、平和的に生活が成り立っているのです。

 崩れるかもしれない壁を直す仕事。石も混ざっていますから、万一崩れたら怪我は必至でしょう。そんな危険な仕事をかって出るストリートチルドレンを侮ったり、蔑んだりする輩はおらず、むしろストリートチルドレンに生活を支えられているのだと敬意を持っている人物の方が多かったのです。


 話は戻るが、故に、アナロワの人々は困っていました。

 ストリートチルドレンの減少。他の場所と同じく、それは何気なく、少しずつの変化のようで、気づいたら、壁の修繕者がいなくなっていて困惑した、とアナロワの人々は語りました。

 それもそうでしょう。他の地域と違い、アナロワにとってストリートチルドレンは暮らしの快適を守ってくれる存在だったのですから。




 それに、ストリートチルドレンがいなくなり、壁補修の仕事がなくなったことで、ある場所から受けていた支援金も滞り気味になったのだとか。

 アナロワには、一つだけ大きな企業があるそうです。その企業はアナロワに本社を置き、様々な街で事業展開をする立派な会社のようですが、余所にかまけず、特に本社のアナロワを重点に、民の支援をしていたそうです。もちろん、資金も。

 しかし、このストリートチルドレン失踪の少し前よりその企業からの支援活動が途絶えたとかで……詳しいところは街の人々は知らないようですが、ストリートチルドレン失踪と時期が近いので、何か関連があるのかもしれません。調べてみる価値はありそうです。

 以上がアナロワの現状です。



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