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虹の死神  作者: 九JACK
芽取りの死神
139/150

黄劇

 金色の瞳。キミカも持っているそれ。

 オレが惹かれているのは、きっとその目だ。

「オレンジの髪の子とは先日確かにすれ違いました。バレッタを失くした日時と辻褄は合います」

 玄関から、と、と、と降りてくる幼気な少女。まだ生まれてから十を数えてそこらだろうに、一挙手一投足が洗練されていて、目を奪われる。鈴のような静かなのによく通る声は耳に残った。

 神性を持つ少女。そんな言葉がぴったりだ。

「ですが、お嬢様。お嬢様はそういう口車に乗せられて、拐われかけたことがこれまで何度も……」

「自宅から誘拐する愚鈍な犯罪者がおりますか。それに、何か危害を加える気なら、その子一人で瞬きのうちにあなたたち全員を殺すことでしょう。護衛として皆様を雇っているわけではないので、相手の力量を見誤るな、とは申しません。ただ、あなたたちの役目は接客のはずです。お客さまの話をきちんと聞いて私やお父様たちに確認を取ることが大事なのではありませんか?」

 おお、さすが才色兼備のお嬢様の名は伊達じゃないぜ。理路整然としている。召使いたちは返す言葉もないようだ。

 ただ、やはりいいとこのお嬢様なだけあって、修羅場の経験も多々あるらしい。これだけのカリスマを持つ子だ。盲目的な動きになってしまうのも無理はない。

 ヒカリの実力を見抜いている辺り、経験値の高さが伺える。ヒカリ、ちっこいけどタフな上に強いからな。

 ゆったりと歩いてきたお嬢様は、ヒカリの前で立ち止まる。その手を取って、ヒカリと目を合わせ、語りかけた。

「無礼をお詫びします。先日も私がぶつかってしまってごめんなさい」

「あっ、ううん、全然気にしてないから!」

 呆気にとられていたヒカリが慌てて首を横に振る。

「あの、髪飾り……」

「はい、わざわざ届けてくださり、ありがとうございます。調べてきたのなら、ご存知かと思いますが、私、ルチル・ラミアスと申します。あなたは?」

「ぼ、ボクはヒカリ」

「ヒカリさん、ありがとうございます」

「その、ボク、けーご? とかできなくて」

「気にしないでください。そちらは保護者の方たちですか?」

 ヒカリの後ろに控えていたオレたちの方にルチルが目を向ける。怪しまれないように振る舞わないとな、とオレは軽く頭を下げた。

「リクヤと言います。ヒカリの友人です」

 おいキミカ、きょとんとするな。オレは敬語くらい使えるわ。

「キミカです。同じくヒカリの友人です。保護者というのもあながち間違いではありません」

「そうでしたか。本日はわざわざご足労いただき、ありがとうございます。よろしければ、お茶でも飲んで行きませんか? 大切なバレッタを届けてくださったお礼をさせてください」

 ルチルの動きに合わせて、後ろに控えていた召使いたちも礼を執る。すごい統制がとれてるな。


「リクヤ!」


 何かがちら、と脳裏に蘇る。

 記憶……? 誰か、たくさんの人が、オレの名前を呼んで、オレを慕うようにかしずいている。そんなイメージが浮かんだ。

 過去のオレは何かの組織を仕切っていたのだろうか。だとしたら、いつもつけている腕章にも納得がいく。あそこには答えが書いてあったんだろう。だから文字がない。

 まあ、記憶より、今はヒカリがやらかさないように見守るのが優先だな。

 オレたちはルチルに案内されて、屋敷の中へ入っていった。


 さすが大企業の支社長の屋敷だな。食堂も広いし。飾りがごたごたしてなくて、センスの光る洗練のされ方だ。ルチルはこういう趣味を受け継いだんだろうか。

「すごい、おっきい部屋。礼拝堂とおんなじくらい」

「あら、ステンドグラスのない廃教会をご存知なんですか?」

 ステンドグラスのない、という言葉に、ヒカリがぴくりと反応する。

 ヒカリとアカリは色覚衝動症候群という障害を抱えている。特定の色に過剰反応してしまう病気だ。ヒカリとアカリを引き取った神父は二人のためにステンドグラスを教会からなくしたのだという。

 宗教というのは譲れないものが多いはずなのに、障害を抱えた子ども二人のために色に気遣って居場所を用意するのは大変なことだったはずだ。

 ヒカリもそのことはわかっているのだろう。神妙な面持ちで頷く。

「今は廃教会となっていますが、あそこには心優しい神父さまがいらしたと聞いております。あと、いつからか、誰かのお墓が傍らに立っているようなので、あの教会の敷地を保護しようと私のお父様がはたらきかけているところなのですよ」

「そうなの?」

「ヒカリ」

 キミカが乗り出したヒカリをそっと席に戻させる。ルチルはいいんですよ、と微笑んだ。

「お墓参りに行かれていたんでしょう? あの後、行ったとき、お花が供えてありましたから。また会うことがあったら、お聞きしたいことがあったんです」

「聞きたいこと?」

「ええ」

 そこで、菓子と紅茶が運ばれてくる。いい香りだ。いい茶葉使ってんな。ヒカリは首を傾げてるけど。

 一口飲んで、それからルチルは切り出した。

「あのお墓、どなたのものなのですか?」

 オレとキミカの間に緊張が走る。

 神父の墓のことは言っていいだろうが、セッカのことはどう説明したものだろう。死神のことを明かすわけにはいかない。いくら故郷が近いとはいえ、あそこにセッカの墓を建てたのはまずかっただろうか。

 オレたちが考えるうちに、ヒカリはすらすらと答えてしまう。

「ボクの恩人で、あの教会の関係者です。一人は神父さま、一人はあの悲劇を止めてくれた人」

 お、上手く死神のことはオブラートに包んだな。だが、本当は話してしまいたいのだろう。ヒカリの笑顔には切なさがよぎる。

 それを見て、察しのいいお嬢様はそれ以上穿って聞くことはなかった。

「赤目の子の悲劇については聞き及んでおります。まだ私も生まれていない頃の話ですから、私にはどうしようもないことですが、神父さまと関係者の方のお墓であるなら、そのようにお父様にお伝えします。あのお墓が潰されることのないよう取り計らいますので、ご安心ください」

「ありがとう、ルチル」

 ヒカリが当事者である悲劇だから、ヒカリは思うところが多々あるだろうが、案外と飲み込める性格なんだな。

 ルチルも気の利く子で助かった。

 それから、少し歓談をして、帰った。

 死神界に入って、扉を閉めると、オレはふと思う。

 オレの墓ってあんのかな。

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