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虹の死神  作者: 九JACK
芽取りの死神
135/150

当燈

 リクヤが最近、暗い顔してる。

 ボクも人のことは言えないだろうけど……リクヤ、最近、アイラ以上にシリンを避けてるのがわかる。

 シリンはすっごい頭良くて、強くなくてもすごいのは、何回か任務に行ったから知ってる。アカリのためにサングラスする提案したのもシリンだっていうし、頭いいと思う。

 頭いいし、立ち回りの上手いシリンがリクヤと喧嘩するかな? って思うけど、まあ、シリンなら、必要悪になるために嫌われることはしそうだな、とも思った。

 必要悪って何? って思うけど、影がないと光がある証明ができないように、悪がいないと正義は成り立たないんだよね。何かに依らないと成り立たないものなんて、脆くて、すぐ突き崩せるものなのに。

 そういう意味では、死神って不毛だなって思うんだけど。敵がいなきゃ戦争は起きないわけで。でもみんな仲良しになったら、仲良しじゃない人がいないってことになるから、仲良しの定義が曖昧になるっていうか。世の中ぐるぐるぐるぐる、ハツカネズミみたいな論理が巡ってるんだよね。死神は悪を全部潰して、全部正義にしようとしている。そんなことしたって、違う形をした正義同士がぶつかって、新しい悪ができるだけなのにね。

 人殺しがダメなのはわかるよ。命を大事にっていうのもわかるよ。でもさ、それを人殺しで清算するって何かおかしくない? 元の木阿弥っていうか。結局人殺しがぐるぐるぐるぐる回ってるだけじゃん。マザーは何がしたいのかな。

 そんな無意味な流転の中にずーっといたら、ブルーな気持ちになるのはわかるなあ。でも、あんまり「ブルーな気持ち」の「ブルー」の部分には共感できないんだよね。青って空とか、前向きなイメージの強い色だから、憂鬱とかそういうの似合わない気がする。

 セイムが緑の代わりに着るようになった青いシャツも、すっごい明るい感じがするんだよなあ。セイムに似合ってるしさ。むしろなんで今まで青いシャツじゃなかったの? ってくらい。

 でもそれはボクが緑のシャツだったセイムを知ってる期間が短いからなのかな。みんなは微妙な顔してるし。似合ってないからではないんだろうけど、死神って時間止まってるものだから、着替えって概念が薄いんだよね。着替えたければマザーに言えばマザーが服は要望通りのもの用意してくれるし。

 空間も作れるってすごいなあ、と思う。

 でも、ボクはそれに頼らなかった。

「行こ、アカリ」

「うん」

 アカリの目には包帯が巻かれている。今日は外に行くんだ。

「あら、お出かけですか?」

「うん。お墓参り」

「なるほど」

 キミカはお墓参りの話をするとちょっと寂しそうな顔をする。キミカが生きていたのは五千年以上前のことだし、キミカやキミカの大切な人のお墓は潰されちゃって、建物が建っているのかもしれない。

 だったら、お墓参りは行けるときに行った方がいいよね。

「神父さまのお墓、作ったんだ。あと、アカのお墓」

「セッカの?」

「うん、埋めるものはないけど、アカはボクを育ててくれた人だし、あと、アカの昔話だと、アカが子どもの頃にお世話になった教会って、ボクたちがいた教会っぽいんだよね」

「そうなんですか。五千年も教会がなくならなかったなんてすごいですね」

「それはさすがに違うよ」

 キミカの目が少し明るくなったけど、否定した。

「教会は五千年の間に潰れたり、また建ったり、違う神様を奉ったり、色々変わってるよ。神父さまは元々廃墟同然だった教会跡を必要最低限暮らせるように直してくれただけ」

「なるほど。でもそれでよく同じ場所ってわかりましたね」

「シリンに地図の見方教わった!」

 シリンはボクと違って教養あるからね。色々教えてくれた。シリン自身も教えるのは好きみたい。知ってることをボクに教えるとき、いつも悲しそうなシリンがちょっとだけ笑う。

 ボクはご機嫌伺いをするような質じゃないけど、人の表情変化は昔からよく見ていたから、無意識に感じ取るようになってるみたい。倫理観や道徳がよくわかんないから、いいことか悪いことかの区別は自分でしかつけられないけど。

 笑っている人はボクをいじめたりしないから、いい人だと思う。ボクを笑い者にするヤツは悪いヤツかもしれないけど、人を殺すボクだって笑うし、とやかく言ってもね。

「キミカも一緒に行く?」

「えっ」

 キミカはシリンの次くらいにいっぱい悩んでいるみたいだし、アカとの付き合いも長かったみたいだから、お墓参り行けたら喜ぶかなって思ったんだけど、人の心って難しいな。キミカはすごい戸惑ってる。

 キミカはボクと違って、大人になってから死んだから、考えることたくさんあるんだろうなって思う。体が弱くて、立って歩いてるところをあんまり見ないけど。

「キミカも来たら、アカも喜ぶよ。キミカみたいなホゴシャ? がいるって知ったら、神父さまも安心してくれるかも!」

 ボクってばずっとホゴシャがいなくて心配されてたもんね! ウンウン。

 本当は、神父さまにはアカを紹介したかったけど、それは無い物ねだりというヤツだ。

「キミカさん、わたしも一緒に行きたいです」

 アカリが鈴みたいな声で懇願する。やっぱり好きだなあ、この声。

 キミカはなんだかボクたち二人を懐かしいものを見るような目で見た。その金色が夏に咲く花みたいに綻ぶのがすごく綺麗だった。

 ボクたち二人の頭を撫でて、キミカはそうですね、と答える。

「私も一緒に行きましょう。今、出かける準備をしてきますね」

「やったあ!」

 お墓の下に、その人はいないし、死んだ人は死んだままだけど、弔う気持ちが大事だって、神父さま言ってた。

 だからね、そこにアカがいなくても、ボクはアカのために祈れるよ。

 たぶん、たくさん、色々なことが変わってしまったけど、ボクたちは新しい七人で頑張っていくよ。だからアカ、見守っててね。

 アカが残した日記を、シリンと一緒に少しずつ読んでいるんだ。シリンと違って、ボクは全部覚えていられないし、いつか忘れちゃうかもしれないけど、ボクはアカのことをもっと知りたいから。

「君たち、墓参りなんて行くの」

 その声にボクはうわ、と思った。マスターの声だ。胡散臭いをそのまま形にしたような人物。

「そーだよ」

「墓の中にその人はいないよ」

「知ってる」

「祈っても、救ってくださる神様なんていないよ」

「知ってる」

 ボクの前の橙の席の死神だったユウヒっていう死神。ボクはコイツのことが嫌いだった。

 ボクはつかつかとマスターの前まで歩いていって、どん、とその側の壁に手を打ち付ける。

「この世界に神様なんていない。いるのは、死神だけだ」

 だからね、神父さまには悪いんだけど。

 ボクは、慈母神なんて信じない。

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