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虹の死神  作者: 九JACK
芽取りの死神
131/150

波藍

 次はアイラさんについてだ。

 アイラさんについては不思議が多いので、僕は直接アイラさんに聞いた。

「本当に吸血鬼なんですか?」

「ああ」

「じゃあ僕の血吸いますか?」

「吸わない。ちょっとテンション高めで近寄るな」

 いやいやいや、吸血鬼というおとぎ話の生き物に興味を持つなという方が無理な話ですよね!

「僕の知る限りでは、吸血鬼は陽光と銀が致死に繋がると」

「本当にそれだけか?」

「吸血鬼として伝わっていないかもしれませんが……そうですね、僕の目、銀だって言われたことがあるんです」

「ほう?」

 僕が記憶能力を使っていないとき、目の色は灰色だ。両親などは「銀灰色」と言っていたけれど。

 アイラさんが興味を示したということは、関係があるのだろう。

「一説には銀色の目を持つ人間は人間じゃないものの生まれ変わり、もしくは人間じゃないものが人間に成り代わっている証とあります。地域によって様々な伝承となっていますが、銀色の瞳というのは妖精や精霊、あやかしもの、幻想生物であるという説が強いです。その説の一つに『吸血鬼の血が混ざっている』というものがあります」

「へえ」

「吸血鬼は銀が弱点とされているのに、銀色の目をしているというのがどこか矛盾を感じて面白かったのでよく覚えています。確か、この説を述べていたのは旧クォン国の北東、辺境の街の学者だったはずです。その方は三千世界という教えを説いていて」

「三千世界までわかってるのか」

「ええ。ローレラという学者の著書にありました。この世界は三千年ごとに節目を迎えるという説です。学説というより、宗教的観念なのでは、という意見が多く出たため、学会では取り合われなかったのですが、著書が本屋に並んだことで民衆に注目された形ですね。まあ、そのブームはあっという間に過ぎてしまうんですけど」

 アイラさんが僅かに目を見開く。

「ローレラって明らかにお前の世代じゃないだろう。何故知っている?」

「知識を持っておくことに損はないですからね。あと、同僚にクォン国出身の人がいたんですよ。戦争がなかったら学者になりたかったそうで」

 アセロエとララクラの戦争に巻き込まれた形となったクォン国の民は散り散りになり、戦争が悪化する前に別の国へ逃げた人と、そんな余裕がなくて戦争に参加せざるを得なかった人とが存在する。クォン国の事件はアセロエの仕業だから、アセロエに恨みを抱く人が多いのかと思いきや、アセロエ、ララクラに流れたクォン国民は大体半々くらいである。アセロエの侵攻力と兵力を取り込む貪欲さがその結果を生んだとされている。

 お察しのことだろうと思われるが、僕の所属していたアセロエは軍の環境が良くないため、洗脳兵士を育てていた。クォン国民は精神が純粋な者が多いため、洗脳は瞬く間に行き渡ってしまったというのが背景にある。

 また、学問的な教育に力を入れていたクォン国民は飲み込みが早く、アセロエの足りない分の頭脳面を担うことで、ララクラと拮抗することができてしまっていた。負の循環である。

 そんなわけで、アセロエにいたときも、ララクラにいたときも、クォン国の文化に触れることがあった。クォン国は教育に力を入れていたため、ありとあらゆる地域の伝承などを調べる学者の部門があったという。他国の文化への興味造詣は深く、ローレラの他にも伝承を調べる者は多くいた。

 ローレラの学術書が学者に受け入れられなかったのは「目の色」による差別があるからだ。例えば、アカリさんの紫の目が疎まれるのと同じ。目の色による差別は宗教観念からのものが多く、争いを好まないクォンの国民はあまり考え方に賛同できなかったのだと思う。差別はわかりやすい争いの火種だから。

「アイラさんはローレラを知っているんですか?」

「ああ。ローレラは吸血鬼の混血だからな。限りなく人間の血によって薄められただろうが……」

 そこからアイラさんは吸血鬼の血について話してくれた。

 吸血鬼には人間と同様、雌雄があり、人間と同じ仕組みで子作りをするそう。ただし、かつて人間と吸血鬼の混血が吸血鬼としての血を強く発揮してしまったことで、自我がなくなり、人間を貪り食らう事件に発展したことから、吸血鬼は人間と混血児を産んではいけないとされたそう。

 それでも、人間社会に馴染んでしまった混血児と吸血鬼。どうしても隔世遺伝はしてしまうようで、隔世遺伝して暴走した混血児は銀色の瞳になるのだという。元々吸血鬼の中でも数の多かった銀種と呼ばれる人たちが人間の中に馴染んでいったから、瞳が銀になるのだとされる。

「でも、アイラさんは藍色の目ですよね?」

「吸血鬼でも純血のやつらは今や希少だ。その中でも忌み目を継ぐのは珍しいからな」

 アイラさんの藍色の目はオニノメと言って、吸血鬼の間でも疎まれているものらしい。だから綺麗な目だけど、包帯で隠しているのだとか。包帯で隠していても、外の景色は見えるらしい。

「逆に、忌み目を継げるのは純血の吸血鬼しかいないということでもある。吸血鬼の間では銀色の目と共に青い目も忌み嫌われている。混血児は銀色の目の他に青い目の者も多く存在するからな。吸血鬼としての血が覚醒すると青い目から銀色の目に変化し、人を襲うようになる者もいる。青より深い藍色の目というのは吸血鬼の中でも獰猛な修羅の目とされる」

「だからオニノメなんですね」

 修羅とは一口に言うと鬼のことだ。鬼のように強い人のことを修羅と言ったりするし、実際、アイラさんも「藍色の修羅」というところから名前が来ている。

「そんな青い目のやつが純血種から生まれるのが異常だからオニノメなんだよ。実際、この包帯を外した状態で放置されたら、数時間で暴走が始まる。その数時間も自分で鍛えてなんとか手に入れた時間だ」

 放置されたり、血の匂いをずっと嗅がされたりすると、吸血衝動が暴走し、殺戮と貪食に走るらしい。

「だから、あまり俺に近寄るな。特にお前は」

「えっ」

 唐突に拒絶されて戸惑う。

 アイラさんの声は冷たいようでいて、葛藤が感じられた。

「生前、戦争の道具に使われたお前は、他のどの死神よりも血の匂いが濃い。染み着いてしまったものだ。だから寄るな。おかしくなる」

「でも、アイラさん」

 僕はす、と戸惑いから立ち直り、彼に問う。

「僕以外にも、そうやって理由をつけて遠ざけるようなことをしていますよね? 本当に、それが理由なんですか?」

 僕に背を向け、立ち去ろうとしていたのがびく、と止まる。

 仲が悪いらしいリクヤさんはともかく、キミカさんやセイムのことをこの人は遠ざけている。


「アイラ兄ってあんまり会話してくれないんだよね。ちょっと寂しいな」


「アイラは私の目を見ていられないと言います。亡くした大切な人を思い出すから、と」


 セッカとは距離感が近いようだけれど、たぶん、アイラさんは。

「傷つけたくないから避けるんですよね」

 こう思っている。

「それで人が傷ついたとしても」

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