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虹の死神  作者: 九JACK
灯の死神
128/150

黄遣い

「わー、リクヤ滅茶苦茶似合ってるよ! やっぱ星型だね!」

「いや、こっちはどうだ?」

「ぶっっっっっ、アイラ兄、どうやってそんなの見つけるの? 炎の形じゃん。リクヤかけてみてよ……ぶっっっっっ」

 オレはリクヤ。今何をしているかというと、サングラスの試着をしている。

 セッカがいなくなって、もう三年経っただろうか。オレの中ではまだアイツがいなくなったって実感さえ朧気なのに、もう虹の死神の赤の席を埋めるヤツが現れた。ヒカリってガキの馴染みの女だ。赤い髪をしていた。

 オレは赤い髪のヤツが嫌いだ。特に今、オレに炎型のサングラスを持ってきたコイツとかな。炎型ってなんだよ。絶対オレで遊んでんだろ。マジふざけんな死ね。……と、常々思っている。

 死ねっつっても、オレたちゃ死神。生前なんて言葉を使う時点でもうとっくの昔に死んでいる。死神の役目を終えることで消えるのは二度目の死……なのだろうか。

 哲学とかそんなご立派なことを考える脳はオレにはねえ。生前の記憶もねえしな。たぶん、オレとアイラは生前になんかあったんだろう。オレがアイラを大っ嫌いになる何か、もしくはアイラがオレを大っ嫌いになる何かが。

 記憶がないことについて思うところがないわけではない。ただ、あまり気にしないことにしている。なんつうか、そうしねえと居心地が悪い。

 セッカがいなくなったのは仕方のねえことなんだけどよ。アイツがいなくなったことで、死神間のバランスっつうの? なんか、変わったような気がしてさ。

 別に今のが嫌ってわけじゃないが、まだ慣れないから、胸ん中に変に空洞があるみてえな、すーすーした感じがするんだよな。薄荷舐めたときとも違う、風通しがいいとかそういう前向きな意味じゃないヤツ。

 そんな空気とか、オレの心情とかガン無視でオレにひまわり型のサングラスかけてくるヤツとかいるけどな。

 ってか、ひまわり型って何だよ。

「リクヤめっちゃ似合ってる似合ってる! っう、くく」

「人で遊ぶなや」

 濃い目のサングラスの薄暗い景色の向こう側のクソガキに手を伸ばす。クソガキの名前はセイム。お花が好きなおちゃらけ坊主である。

 へらへら笑うコイツにも暗い過去がー、なんてことはなく、コイツも記憶喪失だ。コイツの場合は罰とか何とか言ってたな。本来コイツが死神になるはずじゃなかったから。

 だからなのか、死神なんて肩書きがとことん似合わないくらい底抜けに明るい。虹の死神っつうクソ陰気集団のムードメーカーと言えるだろう。

「これなんかどう!? パーティー用のろうそくついてるやつ!!」

「てめえがかけろ」

 オレは奇抜な形のサングラスを突っ返し、セイムにかけさせた。アイラが無言でケーキ型の帽子をセイムの頭に乗せるもんだからひどい。

「ぶおっふぁ! ひど!! 鏡見ろよお前」

「ひまわりサングラスの人に言われてもなあ……ってアイラ兄!? 何してくれてるの!?」

「あっはははは!」

 ファンシーショップの中で大笑いしていると、財布を持ったシリンが険しい顔をしてやってくる。

「ちょっと、静かにしてくださいよ。他にお客さんもいるのに」

 この中でシリンは最年少だ。享年という意味でも、死神歴という意味でも。だが、「一度覚えたものを忘れない」という能力のためか、一番しっかり者でクソ真面目である。

 死神界に通貨の概念はなかった。故に買い物も今までできなかったのだが、シリンが何故か突然たんまりと稼いできたもので、それを元手に必要物資を買っている。といっても、死神に必要物資なんてない。何も食べなくても腹は減らないし、喉も渇かない。服は頼めばマザーが出してくれるし、その他日用品もマザーがなんだかんだ整えてくれる。だから買い物になんて出る必要性がなかった。

 そんな状態からオレたちを買い物に連れ出したシリンは言う。

「女の子が加入したんですから、有り合わせのものだけじゃなく、きちんとしたものを僕たちも整えましょう」

 とのこと。

 女の子っつっても、ヒカリもアカリもガキでこれ以上見た目が成長することはない。永遠にガキである。

 と言ったら、シリンにこめかみをぐりぐりされた。

「そんなんだからモテないんですよ」

 うるさいやい。

「それに、二人が気にしなくとも、僕たちが気にかけないと、彼女らの病気は突然発作を起こしますから。必要経費です」

 病気、か。

 ヒカリとアカリは最近名前がついた「色覚衝動症候群」という病気らしい。治療方法も発症原因もわからない奇病で、特定の色を見ることで、特定の衝動が著しく刺激されるらしい。ヒカリは赤を見ると殺人衝動を、アカリは緑を見ると自殺衝動を引き起こす、といった具合に。

 赤と緑はあまりにも身近な色だ。死神のルールでむやみやたらに自分や他人を肉体的に傷つけることは禁じられている。もしうっかり二人の衝動のスイッチを押してしまおうものなら、罰を受けるのは二人だ。

 こちら側に非があるのに、オレたちはその場合罰を受けることは一切ない。そういう決まりになっていると言われたら、オレたちは動くしかなかった。あまりにも決まりが悪かったから。

「オイ、シリン。どうしてキミカを留守番させたんだ? アイツが一番、こういう手合いが好きだろう?」

 オレたちにはキミカというもう一人の仲間がいる。女みたいな顔をしたひょろひょろの男。オレが嫌いなタイプのはずなのに、キミカの金色の瞳を見ていると、なんでか嫌いなんて言葉が消し飛んでしまう不思議な存在。

 キミカは生前から病弱で、人生のほとんどを病院のベッドの上で過ごしたという。隣のベッドに入院になる子どもなんかとよく話し、折り紙を折ったり、女の子の髪を弄ったり、と女みてえな趣味をしている。

 特に髪弄りが好きなようで、いつだったかちっちゃい女の子がいたときには毎日のように髪を編んでやっていたし、女に限らず、髪の長いマスターやアイラを取っ捕まえては編み込みをしたり、ヘアアレンジをしたりと楽しんでいた。

 ちなみにオレも一房だけ三つ編みされたことがある。

 それくらい髪弄りが好きなら、髪留めや髪飾りのあるファンシーショップは気に入ったことだろう、と思うのだが。

「留守番に年長者を置くのは妥当だと思いますが」

 確かに、享年も死神歴も年長だが。

「オレやアイラでもよかったろ」

「駄目です。アイラさんは髪が赤ですし、リクヤさんは目が緑です。ヒカリは衝動の起きる赤の範囲が比較的狭いようですが、アカリさんは僅かでも緑を感知すると自我が失われるレベルで衝動に支配されます。対策をとらなきゃならない僕ら四人が出てくるしかないんです」

 自我を失うレベルとは大袈裟な、と言いたいところだが、初対面でアカリと目が合ったときのことを思い出すと何も言えなくなる。

 綺麗な紫に緑が映し出された瞬間、アカリの目からは生気が引いていき、何かに操られるように、武器を探していた。自分を傷つける武器を。シリンが止めていなかったら、アカリは傷だらけになっていただろう。タイミング悪くヒカリが起きて、血塗れのアカリを目にしたら、なんて手に負えない。

「見て、シリン! アイラ兄、恐ろしく金髪のウィッグが似合うよ!」

「……」

 女物のウィッグを試着させられたアイラが仏頂面で佇んでいた。セイムはすごく目をきらきらとさせている。

 恐ろしく美人、というかもはや女にしか見えない御仁。仏頂面さえやめれば、そこいらの男なんてイチコロだ。

「ふっ……似合ってるじゃねえか……くく……」

 後ろからぱこん、と叩かれる。

「緊張感」

「いや、これはセイムが悪いだろ」

「リクヤだって金髪似合うと思うよ! 試着だけでもしようよ! ほらほらシリンも!」

 シリンが頭を抱える。

「セイム。遊びじゃないんだからね。もう少ししたら帰らないといけないし」

「はーい。そういうシリンは何か買ったの?」

「カラーコンタクト」

 シリンは記憶能力を発動するとき、目が緑になるらしい。それでカラーコンタクトなのだという。

「オレもカラーコンタクトじゃ駄目か?」

「目に異物入れるの嫌って言ってませんでした?」

「うぐ」

 目に固形物を入れるなんて考えられない。

「それに、リクヤさんがコンタクトにするんだと、度付きじゃないと駄目ですし、度付きのカラーコンタクトってなかなかありませんから」

「ぐぬう」

「安心してください、度付きサングラスは普通の形のレンズなので」

 ガチで遊ばれてただけじゃねえかよ。

 そうして、買い物を終えて帰ると、泣き伏したヒカリと、笑顔のアカリが待っていた。

 オレたちの新しい仲間が。

 ──いつか置いてきぼりにする仲間が。

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