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虹の死神  作者: 九JACK
灯の死神
123/150

黄上

 セッカがいなくなってから、随分月日が経った。虹の死神になったにも拘らず、ヒカリに任務が与えられることがないままだ。他の死神は任務が与えられるのに。

 理由を聞いたら、危険だから、だそうだ。

『ヒカリの色覚衝動症候群は治っていません。色覚衝動症候群は自分で制御できるものではありませんから。セッカの目や血によって暴走しないのは奇跡と言えるでしょう。そんな状態で任務を与えて、周囲に余計な被害を出されても困ります』

「でもさ、今まで、そういうときは罪として加算してきたわけでしょ? どうしてヒカリにはそうしないの?」

 セイムの疑問はもっとも。けれど、僕はなんとなくその理由がわかっていた。

「死神の存在は世に知られてはいけないから、ですよね」

「どゆこと?」

『シリンの言う通りです。今まで関係のない人間を傷つけたり、過度に対象を痛めつけたりした場合は、罪を加算することで痛みを与え、罪を自覚させることで対処していました。

 けれど、ヒカリはそうはいきません。ヒカリは赤を見れば衝動のままに人を殺します。人を殺すと血が流れます。血は赤い色をしています。その赤を見てヒカリは暴走し、この悪循環で何人が死んだり、傷ついたりするかわかりません。そうして死傷者がたくさん出た場合、世間はそれを無視できません。何が原因によるものか、解明しようとするでしょう。実際にヒカリを見て、死神だと証言されてしまえば、死神の存在を隠すことができなくなります』

「それはヒカリを止めれば良くない?」

「だから、ヒカリを外に出さないように死神界に留めているんだよ」

 なるほど、とセイムは納得するが、僕は納得していない。

「その上でお聞きしますが、ヒカリを何故死神にしたのですか?」

 そう、そんな厄介なことになるなら、早い段階でヒカリを刈って罪を浄化させればよかっただけのことである。ヒカリは僕よりも年下で、病気によって身体バフがかかるとしても、元々が女の子である。セッカやアイラさんなら容易く刈れただろう。

 だが、それに対する返答はなかった。逃げられたな。

 これは僕の仮説だけれど、ヒカリを人質にするつもりだったのだと思う。ヒカリを虹の死神にして、任務に出さず、留めておけば、僕でなくとも何故任務に出さないのか疑問に思ったはずだ。ヒカリの衝動のストッパーになれるのはセッカしかいなかった。だからヒカリのために死神として残れ、とセッカを脅すつもりだったのだろう。

 セッカが浄化されたことはマザーやマスターの思惑にそれだけ打撃を与えることになったというわけだ。リクヤさんはそれで溜飲が下がっているようだが、僕は複雑な気持ちである。

 セッカは虹の死神の中でもトップレベルの実力者だった。アイラさんの暴走を僕では止められない。僕は元軍属だけれど、体格は良くないし、非力だし、不意をつくことで互角以上になるような暗殺者タイプである。いくら実戦経験があっても、埋められない元々の資質に真正面からぶつかっては手も足も出ないというわけだ。

 アイラさんはその点、完璧なほどだ。人殺しとしての経歴は長く、元々体格も良くて力も強い。そんなアイラさんと殺し合うレベルで渡り合えるセッカの戦闘力は語るべくもない。

 アイラさん自身、全力を出すと暴走する恐れがあるため、全力を出すわけにはいかないだろう。アイラさんのトリガーも血っぽいし、ヒカリを押さえ込めるとしても、相性は良くない。

 セッカがいなくなったことは僕たちにとっても痛手だった。

 キミカさんは強くないし、リクヤさんもあんまり強くない。セイムも戦闘はそんなに。僕が真正面でやりあって勝てないのアイラさんだけだから……

 キミカさんとリクヤさんはアイラさんに精神面で優位に立てそうだけれど、理性の吹っ飛んだ状態のアイラさんに対して、それは無意味だ。

 アイラさんは暴走しないように気をつけてくれているけれど、それでも、どうしようもないときはあるみたいだし、アイラさんにあまり精神的ストレスを与えたくない。

 ヒカリの衝動は病気だし、どうしようもないんだよな……サングラスとかかけさせれば? とは思うけど、修道服とサングラスってあまりにも似合わないし……

『けれど、ヒカリが死神になって三年。死神の仕事を一切させないというのは死神の理に反します。そろそろ任務を与えようとは考えていました。シリン、ヒカリの任務の見守りをお願いできますか?』

「僕、ですか?」

 マザーが朗々と語る。

『同行ではなく見守りです。ヒカリが無事に任務を遂行できるか影から見守ってほしいのです』

 マザーの言葉にセイムが肩を竦めてみせた。

「そんな、初めてのおつかいじゃあるまいし」

『いいえ。シリンに影から見守らせることそのものに意味がありますよ。ヒカリが暴走したとして、シリンは暗殺という形でなら、ヒカリを止めることができます』

 僕の指先が反射的にぴくりと跳ねた。

 それは暗に、「ヒカリが暴走した場合は殺せ」と言っているようなものだ。

 僕にできるだろうか。ヒカリは僕よりも幼い。人はたくさん殺してきた方だと思うけれど、自分より年下の子どもを殺したことはなかった気がする。

 なんて考えて、首を横に振った。これは僕に選択肢のある問題じゃない。マザーという上官からの命令だ。命令には命令通りに対応すること以外求められていない。

「わかりました。けれど、ヒカリに当てる任務です。あまり抵抗しない人間の方が、血が飛び散らなくて、ヒカリの暴走も未然に防げると思うのですが」

『それについても想定済みです。適格者がちょうどいます』

 適格者、という言葉に何か怖いものを感じる。まるでこの提案、この状況を、用意周到に待っていたかのような声音。

 もしかしたら、マザーはあれこれ言い訳をしただけで、ヒカリの最初の任務の相手は決めていたのではないだろうか? その人物が死神に……それも、虹の死神に刈られるに相応しいほどの罪を溜め込むまで、待っていたのではないだろうか。

 常々、リクヤさんから「マザーは最低最悪の性格をしている」とは聞かされてきた。その最低最悪さを、今、表そうとしているのではないだろうか。

 それを裏付けるように、マザーが任務先を告げる。

『今回の任務先はヒカリがかつて過ごした教会。そこにいる少女をヒカリには刈ってもらいます』

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