レイス退治
登場人物
樋口雅人(主人公)=ティグリス
平凡な日本の男子高校生だったが突然異世界に転生し、銀髪に翡翠の瞳の美少年ティグリスという騎士学校会長の親衛隊隊長になる。
ただし、表向きティグリスは高飛車で高慢ちきな女王様キャラなので嫌々ながら女王様キャラを演じなければならず、会長に近づく虫に嫌がらせをする日々に疲れている。
剣術△魔力◎
グライド=ラグバイン
会長親衛隊の副隊長。ティグリスの右腕的存在。黒髪にグレーの瞳のイケメン。
彼が会長を抱きたいのか抱かれたのか分からないが普段は冷静沈着な寡黙な青年だが、会長絡みになると途端発言が物騒になる。
世話焼き。
剣術◎魔力△
フリクセルデューン=F=フィクナ
会長様。名前が長いのでティグリスは覚えられず会長かフリ会長と呼んでいる。
煌びやかな金髪に碧眼のイケメン。
ティグリスを嫌っている。
ウルズ=チュラノン
騎士学校三席。
ピンク髪の美人の通称ドS王子。
ティグリスを嫌っている。
ラズバーン先生
剣術教師。赤髪に無精髭、額に傷のイケメン中年教師。
平民君(名前はまだ知らない)
栗色の猫っ毛に金色タレ目の田舎好青年。
特待生。
会長をはじめ、生徒会役員の面々を虜にしている親衛隊の敵。しかし、よほどのお人好しなのかティグリスにやたらと近付いてくる。
剣術◯魔力?
不良君(名前はまだ知らない)
深緑の短髪、黒目、浅黒い肌のイケメン。
中庭で寝ている(サボり)
倒れ込んでいる親衛隊の一人がレイスと叫ぶ声に隣のグライドが息を飲んだ。そんなグライドは初めて見るので、俺にも緊張が走る。
「僕達、集会所に来る途中でレイスに襲われて……ッ!必死で逃げたんです!」
「でもッ!!アイツ……アイツ姿が見えなくて!気付いたらきえてた!うわぁぁん」
可哀想に誰か消えてしまったのだろう。彼はその場にうずくまり涙を流した。
だが彼も紛いなりにも騎士学校の生徒。そんな彼等がここまで恐怖するレイスとは一体何者なのだろうか?
俺は答えを求めるようにグライドを見た。
「相手がレイスとなれば話は別ですね。
俺みたいな剣術じゃ全く歯が立たない。
探知だってそう容易ではありません…なんたって霊体ですから…」
霊体。つまり幽霊か。
実体が無い奴が相手じゃ確かに物理攻撃は役に立たない…それにRPGの世界だと霊体によっては通常の攻撃魔法でも回復しちまうがこの世界ではどうなんだ?
「教師を呼んだ方がいいかもね」
生憎と俺の親衛隊メンバーは、大抵が武闘派で俺みたいな魔法系の割合が少ない。回復はもっと少なくて多少の治癒は出来ても攻撃に転じる程の回復魔法を使える者は皆無に等しい。下手にレイスに手を出せば二次被害を招きかねないだろう。
「……悔しいですが」
「それじゃあ、僕は当直の先生を呼びに」
「ダメです!にゃ」
俺は踵を返して走り出そうとしたが腕を力強く引っ張られ、その場に倒れそうになった。
よろけながら掴んだ人物を見上げると、その頭にある不思議な物体に目を丸くする。
ぴこぴこと動くケモ耳。
「ネコ耳?」
厳つい感じの青年の頭に猫耳が生えている。筋肉隆々でガッチリとした尻には、モフモフの尻尾が揺れている。そのアンバランスさに同情すら感じるし、語尾の“にゃ”にはもうツッコミすらしたくない。
緊急事態なんだから勘弁してくれ。頭が追いつかないから!
「レイスはまた別の人を襲う!…にゃ。
今このチャンスを逃したら、奴を見つけられるか分からない!!すぐに殺すべきだ…にゃ」
頑張って“にゃ”を言わないようにしているのがまた辛い。いや、今はそんな事を考えている余裕はない。
「君、名前は?」
「フォウフォウです!フォウと呼んで下さい!にゃ」
「フォウ。君の言い分も分かるけど、今だってもうレイスを見つけるのは難しいと思うよ?僕達にそんな探知能力があるメンバーはいないもの。それなら、安全を確保するのが優先だと思わない?」
「オレなら出来ます。狼の鼻はいいんです。レイスだって簡単に嗅ぎつけられるにゃ」
あ、ネコじゃなくて狼だったんだソレ。じゃあ、なんで語尾がにゃなんだ?
…じゃなくて、多分このフォウって奴は俺がいくら止めても無駄だろう。視野が狭くなってるのが見てすぐ分かる。
それならフォウが一人で暴走するよりも協力してレイスを倒した方がいいのではないか?
「……やれやれ」
どうやら俺の右腕も同じ考えのようだ。
なんだかんだ騎士学校の生徒だ、血の気が多いらしい。俺はちょっと…いや、かなり恐いけど。
「フォウ君。俺達の指示に従うと約束できますか?」
「従う」
「……回復魔法班の者は前へ!レイスは攻撃魔法を無効化します!
剣術班は彼等を医務室に連れて当直の先生を呼びに行って下さい!!」
「グライド」
「殺しますよ!レイス狩りです!!」
※※
フォウが地面に鼻を擦り付け、レイスの気配を探る。その後方では俺達魔法班がいつレイスが現れてもいいように短縮詠唱を唱えて剣をかざしていた。
魔法と言っても俺達は杖は扱わない。愛用の剣に自分の魔力を流し込み、剣を振るうように魔術を放出する。回復魔法も基本的に同じなので、毎回ドキドキさせられるけどね。
特に俺みたいな大剣でバサーッと斬られながら回復されるのは、気が気じゃないだろう。
じりじりと進みながら例の中庭に着いた時、フォウの尻尾がピンと跳ね上がった。グルグルと唸り声を上げ、虚空を睨みつける。
どうやら、レイスを見つけたらしい。
俺達の間に緊張が走った。
「……フォウ…レイスは何処に」
「上です!にゃ」
「え……う、うわぁ!?」
フォウの声に上を見上げたのも束の間、俺は得体の知れない何かに掴まれて空中に引っ張られた。
冷んやりとしたヌメヌメが俺の身体を弄り、自由を奪う。
「隊長!!」
失敗した。司令塔である俺を最初に狙うなんて、予想していなかった。頼りのグライドは肉体派、瞬時に魔法攻撃を放つ素養はない。
魔法班も騎士学校の生徒とはいえ実戦経験は皆無。俺がいきなり捕まった事で動揺してしまっている。
俺も実戦経験ってか、この世界にきてまだ1ヶ月程度なんだけどなぁ…なんでこんな冷静でいられるんだ?ティグリスって奴の影響か?
「ぐぅ……ぁ…あぅ!?」
などと考えを巡らせていると不意打ちに下半身にレイスの手?が伸びて刺激を与えてきて、俺は変な声を出してしまった。
「……ふ…ぅぅ………この」
やめろゴラァ!?幽霊の癖にどこ触ってるんじゃ、ボケ!!とは親衛隊の手前言えず、俺は振り解こうとジタバタと暴れた。
「隊長!」
親衛隊も姿の見えないレイスに俺が捕らえられ、攻撃しようにも狙いが定まらないらしい。あー、剣さえあればなぁ。俺の剣。
わきわきと手を動かしてなんとか合図を送る。
「……け、ん……剣よこ…せ!!」
「ダメですにゃん!隊長に当たるにゃん!」
いいから誰か俺に剣を投げてくれ!
このままじゃレイスに圧迫死させられるっての!!
と、その時グライドと目が一瞬合った。
「……(グライド!!)」
「知りませんよ……!!」
グライドぉぉぉ〜我が右腕〜〜♡
グライドがその馬鹿力で俺の大剣を目一杯ぶん投げる。
うん、うん。それ、俺じゃなきゃ即死だから手加減ってもんを覚えようね?グライドちゃん。
「よぃ……しょぉぉ……ッ」
俺は僅かに動く右手で弧を描き、魔法を発動させる。身体に突き刺さる前に軽くなった大剣をキャッチして、ありったけの回復魔法を俺の身体ごとレイスに浴びせた!
キュラキュラキュラキュラ
ピカピーーン☆
レイスよ塵になぁ〜れ♡
回復魔法だからこの効果音は仕方ない。
ギィギャギャギャァァァァ!!!!?
パンッ! ビシャァァァァッッ
俺の身体を通してより強力になった回復魔法を諸にくらったレイスは、悲惨な断末魔をあげてその場で粉砕した。
よく分からないネバネバの白い液体を撒き散らしながら……
「やったーー!隊長やりました…にゃん!!」
宙に投げ出された俺を受けとめながらフォウが勝利の雄叫びをあげる。
猫耳男にお姫様抱っこされる液体まみれの俺。なんのプレイですかコレ?
「やりましたね隊長。俺の機転のおかげです」
ぴょんこぴょんこ跳ねるフォウにガクガクと揺さぶられている俺にグライドが得意げに話しかけてきた。
グライド、概ねは褒めてやる。でも普通あんなスピードで投げたら大剣刺さるからね?しかもなんで束じゃなくて刃を向けて投げたの?あれ?もしかして俺を亡き者にして隊長の座を奪おうとか考えてたりする?
いつでも譲るけど。
「……ありがと、グライド。…でも次はもっと優しくね♡」
「…ッ……は、はい!」
なんでまた赤くなってんだ?
あと、フォウお前もなんで一緒に赤くなる?
※※
「どうやら、助太刀は不要だったみたいですね。流石は会長のところの蛮族といったところですか」
親衛隊が勝利に浮かれているところに冷徹な声が水を差した。
数名の部下を引き連れた陰険メガネこと生徒会副会長のキースだ。アイスブルーの瞳と蒼い長髪、服まで青いブルー人間。たぶん血も青だと俺は思う。
「キース副会長♡きてくださったんですねぇ〜なんとかぁ〜レイスは倒せましたぁ。
でもでもぉ、ティグリスすっごく恐くてぇ」
「ふん、私にまで媚びを売るなんてとんだ淫乱ですね。御託はいいので早く状況の報告をして下さい」
「はぁい、分かりました〜♡」
チッ…こちとら好きでお前に媚びなんて売ってないっての!そ、それに俺はまだ未経験だバカっ
簡単にレイス討伐に至るまでの経緯と生徒連続行方不明事件との関連性を説明した。
本当はこの後、こいつんとこの親衛隊とミーティングだったが議題自体を解決したから中止で問題ないだろう。連絡を入れるのを忘れていたから多分すんごい形相で罵られるだろうけど。
とにかく、早くシャワーを浴びて眠りたい…なんか具合も悪くなって…きた…し
「隊長!?」
あ、あれ?なんだ…地面が…
そこで俺の意識は暗転した。