まだまだ青いわね。3話
あたしはオニギリ好きだなー。
オニギリ頭の正義の味方くらいなら、全部食べられるわ!
はあ。若いわねー。
朝から頭はフル稼働していたわ。
忘れてないのよね。
むしろ、夢の中で手をつないでて……。
でも、その先が無くて。
本の中では少女が右往左往していて、それを読んだあたしもあーだこーだと考える。
考えがまとまらないうちにお母さんから声がかかる。
「朝ごはん出来たわよ」
席に着くとすでに全員揃っていたわ。
お母さんはあたしの分を準備してくれている。
そう言えば、我が家にも二人、男が居たわね。
朝ごはんを食べているお父さんと兄に目をやる。
「お、どうした。なんか付いてるか?」
「なんだよ、お前昨日どうしたんだ?」
「別にっ!」
二人してこっち見ないでよね。
二人ともなんだよ、という表情で続きを食べ始める。
あたしも目の前に出されたオニギリを食べる。
オニギリは正義。
にしても懐かしいわね。
兄はこの前結婚した、奥さんはまあ、美人ではないわ。
ただ、お母さんみたいに優しい人だった。
兄には丁度良いわね。
父は元気だと手紙に書いていたわ。
お酒を箱に入れるのはいつも父。
良いのか父よ、娘だぞあたし。
はあ。
お父さんもお母さんも手紙には結婚の話ばかり。
結婚、結婚とそんな言葉ばかりが頭にあってまともに恋も進まないわ。
あ、トシヤくんとの恋のようなモノも進まないわ。
主にトシヤくんのせいで。
朝食を食べ終えると早々に家を出る。
集合場所には何人かが集まっているわ。
もう、あまり覚えて無いわね。
六年生の男女が居たわ。
二人はとっても仲良しだったわね。
学校についたら案の定、彼があたしに絡んでくる。
カッコイイかどうかで言ったら、そうね。
たかだか十歳の割に将来が楽しみな顔をしていたわ。
あたし以外の女の子にも、案外人気があったんじゃないかしら?
「なあ、お前んち遠いのか?」
「そんなに遠くないわよ」
「なら遊びに行ってもいいか?」
「えっ!?」
男の子はどうなんだろ。
あたしからしたら、男の子の家に行くのはかなりハードル高いんですけど。
なんか、とっても視線感じる!
あ、めぐちゃん笑ってるんじゃない? あれ。
あたしの親友。今でも親友。
遠くにいるから、連絡はメールばかりだけどね。
「嫌よ。それに何して遊ぶのよ」
「え、嫌なのか? ゲームしようぜ! 俺持って行くから」
「イヤ! あたしゲームはそんなに好きじゃないの」
「なんだよ、面白くないなー」
彼は不貞腐れたようで、友達探して消えてしまった。
あ、あれ? 何だろう。
なんか、思ってたのと違う。
当たり前だ。相手も十歳。
本の内容は最低でも中学生くらい。
期待とのギャップが激しいのは仕方がないことだ。
でも、当時のあたしはなんだか気が抜けちゃった。
助かったというのと、そんなもんなんだ、という安心感。
でも、何気ない学校生活の中で彼を見ていたのは間違いないわ。
授業中、体育の時、下校時。
ただ、なんとなくの視界が彼を中心に見るようになったわ。
あたし、自分が主人公になったみたいになってて、毎日がなんとなく興奮していたのを覚えているわ。
とある帰り道。
「おい、今日家まで行ってもいいか?」
最近友達がいない日は大概あたしと帰っているトシヤくん。
周りには同じ学年の子も居るが、あまり噂とかにはなっていない。
めぐちゃんは学校で良いおもちゃ(あたし)ができたようで、休み時間にあたしが一人でいると、ニヤニヤと笑ってからかってくる。
でも、なんかそういうのも悪く無い。
「あたしの家に用事無いでしょ」
「俺お前んちまでの道知らないしさ、別に中まで入らないなら良いじゃん」
当時のあたしは、ならいいか、という安易な考えでオッケーを出した。
「わ、分かったわ」
期待とかもあったけど、なんか友達としても悪くはないし……とか。
心の奥でワクワクとハラハラをしながら家路につく。
家が見えて来たところでトシヤくんから。
「あ、マンションじゃないんだな」
「え? えぇ、そうよ」
この辺りは一軒家が多い。
お金もちかどうかなんて、その時のあたしには分からない。
後から聞いたら中の中くらいなんだそうだ。
年収500から700位。うん。
「アレよ、あたしの家は」
「んー。まぁ、普通?」
ふん! 普通でもなんでも、愛しい我が家よ!
「おし、道覚えたぜ。んじゃ、また明日なー」
「あ、え!? あ、また明日ぁ」
ワクワク、ドキドキは置いてけぼり。
手を振る彼に憎しみに似た何かを送りながら家に入る。
すると、お母さんが立っていたのだ。
「あら、お菓子用意したのに」
さぞ、残念そうに、そして何やら楽しそうにあたしを見てくるお母さま。
「た、ただいまー」
「おかえりなさい、さっきのがトシヤくんね。カッコイイわねぇ」
「な、そんなことないわよ!」
何よ! 笑い事みたいに!
とか憤る心の中で、トシヤくんカッコイイ、という言葉が反芻されている。
二へへ。
「そんなところで笑ってないで早く上がって来なさいな」
あ、見られてた。
頬っぺたがあついよー!
あたしの葛藤を他所に、涼しい顔でおやつを並べるお母さん。
そんなお菓子なんかに、あ、サブレだ、ココナッツ味。アレ好き!
洗面台に突撃し、手洗いとうがいの記録を更新していく。
「もっとしっかり洗いなさい!」
不正はこんな身近な所から始まり、また簡単に粛正されるのだ。
ランドセルを軽くすると宿題をささっと終わらせる。
別に優等生でもないが、面倒なのは最初に片付ける派だ。
そして、麦茶を取りにリビングへ。
あたしの楽しい時間は誰にも譲らない!
用を足す時以外は。
最近のあたしのバイブルは、とある学園の話が描かれている少女漫画。
表紙を見て、分かりやすいタイトルと同じ小学生だからという理由で買ってもらったのだ。
そう言えば、アレ31巻まで続いたわね、最後まで楽しめたけれど、31巻以降が気になって仕方がないわ!
その漫画の中では、女の子が凄い一生懸命になって男の子との学園生活を送っている。
あたしにはそんな一生懸命になれる相手って、トシヤくん……のやーー!!
あたしは思い切り頭を振る、その後クラクラする時もある。伊達ではないのだ!
そしてなぜか生温い視線を感じる。
なぜかあたしの楽しい時間までトシヤくんに取られてる気分。
なんか、良いかも。
夕食の時にニヤニヤしていたのか、兄に不思議な目で見られた。
お兄様。あたくしも遅ればせながら、レディへの経験値を貯めておりますのよ?
おふろからベッドのコンボはあたしに効果抜群。
夢の中でもなんの進展もない、なぜかトシヤくんが飛んでたわね……。
朝が来た。
ちょっと楽しくなってきた学校。
ご飯も進み、さあさいざいざ! とランドセルを担ぐと。
ピンポーン。
「あら? 誰かしら?」
お母さんがリビングのインターホンを見る。
「あら! まあまあ」
お母さんが楽しそうに笑ってこっちに向かって来た。
ま、まさか!
『おーい! みーなー! 俺だよー!』
これはひどい。
ここまで読んでくれてありがとう。
誤字や脱字はご愛嬌。
チクチクは程々にお願いしまーす。