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恋くらいしないとって思うのよね。  作者: 春日 聖奈
第1章:小さな恋心編
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まだまだ青いわね。1話

甘く無いのよ?

甘いと思う?苦い?


あたしはそうね、酸っぱいわね。

 そうね。

 初めて人を好きになった自分を見つけたのは10歳の頃だったわ。


 同じクラスの男の子で、トシヤくんって名前だった。

 いつもの下校の道、友達と帰るあたしの後ろから他の男の子達と一緒に走ってくる。

 あたしを見つけたらおっそーとか言ってからかってくる。

 ランドセルがまだ大きくて、小さなその男の子の事を好きになったのは、ある日、日直が同じになった時だったかしら。


 トシヤくん、ヤンチャだったから他の男の子達とも仲良くて、日直の仕事なんて放ったらかして遊んでいたわ。


「ちょっと! あんたも日直でしょ? 手伝ってよ!」


「あーい、んじゃ何するんだ?」


「黒板消しとプリント取りに行かないと」


「じゃあ俺が黒板消しやるよ。お前プリント取ってこいよ」


 あたしは黒板消しを彼に任せて職員室にプリントを取りに行ったわ。

 そんなに重くはなかったんだけれど、大きくて沢山あって、しかも滑るのよね。


 ふう、やっとの思いで教室についたわ。

 手が塞がってるから肘を使って扉を開けたの、そしたら。


「あぶね!」


 という声と一緒に、あたしに向かって黒板消しが飛んできたわ。

 避けることも叶わず、頭に当たってしまう黒板消し。

 そしてバランスを崩したあたしは、その場で尻餅をついて持っていたプリントを辺りにばら撒いたわ。


「げ! オレ知らねーぞ。トシヤだからな!」

「トシヤ日直だからな。おれ達関係ないぞ!」


 そう言いながらトシヤくんと遊んでいた二人は早々に教室を飛び出してしまった。


 何が何やら分からなくて、ぼーっとしているあたしにトシヤくんが声をかけてきたわ。


「わ、悪かった。ごめん」


 ボソボソと言ったかと思うと、あたしの髪に着いたチョークの粉をちょっと痛かったけどはたいてくれた。


 そこで気が付いて、なんだか知らないけれど悲しくなって、涙が出てきたわ。


「ごめんって! 俺が悪かった!」


 彼はあたしの頬を両手で持ち上げて、その真剣な顔をびっくりするくらい近くまで寄せて来たの。


 あたし、そこでまた思考が止まったわ。


「目が真っ赤だ! こわ!」


 な、なんですってぇぇっ!!


「絶対許さない! 先生に言うわ!」


「待って! ごめんって! それだけはやめて! 何でも言うこと聞くから!」


「ダメ! 許さない!」


 あたしが勢いに任せて言い放つと、今度はトシヤくんが涙を浮かべだした。


「なんだよ! こんなに謝ってるのに!」


 お顔が近いから余計に迫力があったわ。


「わ、分かったわよ! 泣かないでよね。もう」


 はぁ、我ながら生温いわね。

 でも、真剣に謝ってるのが分かったの。

 だから今回は許してあげるわ。


「ありがとー! 俺、お前の言うことなら聞くよ!」


「じゃあ、お顔、そろそろ離して欲しいんだけど」


「お、おうっ!」


 やっとトシヤくんの拘束から逃れたわ。


「にしても、お前の頬っぺた柔らかいんだな」


 あ、自然な感じでまた触ってきた。


「ちょっと! 離してって言ったでしょ!」


「ごめん! でも、プニプニで気持ち良くて。あ、でも赤いな」


 プッチン!

 男の子のデリカシーの無さはあたしを噴火させるのに十分な燃料ね!


 パッチーン!


 あたしの黄金の右手がトシヤくんの左頬を捉えたわ!


「痛って!」


「これであなたも頬っぺ赤いわ!」


 涙目で振り向いた彼にニヤニヤしてたら、彼もニヤニヤしだした。


「へへ。痛いな」


 そう言うと、トシヤくんは辺りに散らばるプリントを集めて教卓に置きだした。

 あたしはまるでキツネにつままれたような気がしたけど、とりあえず彼と一緒にプリントを拾ったわ。


「これで終わり。黒板消しは終わってるぜ」


「……ありがとう」


「へっへ。じゃあ俺あいつらとっちめるから行くぜ」


 あいつらとっちめられるのか。

 まあ、好きになさいよ。


「勝手にすれば」


「おう。あ、そうだ。今日一緒に帰ろうぜ?」


「はあ?」


 素っ頓狂な声。笑ってしまうわね。


「俺さ、お前の事気に入ったから。仲良くしようぜ?」


「そんなの知らないわよ! 勝手に決めないでよ!」


 あたしの言葉は虚しくスルーされたわ。

 彼の背中が教室から見えなくなるのにさほど時間はかからなかった。


「なによ! ……もう」


 なんか驚く事ばかりあったせいか、あたしの頭の中はカーニバル状態だったわ。


 そして、日直の仕事がたたり一緒に帰る羽目に。

 また偶然にも帰る道も同じ方角なのよね。


 あたしはランドセルの紐を両手で持ちながら、さぞ気持ち良さそうにあたしの自由衛星と化したトシヤくんの話し声をなんともなしに聞いていた。


「ってわけ! だから、あれは俺が投げた訳じゃないからさ。今度あいつにも謝って貰う!」


 曰く、黒板消しが終わってから友達同士で遊んでいたらしい。

 ふうん。ちゃんとする事はするのね。


 んで、他の子達と黒板消しを投げ合いあんな酷い惨状に相成った訳、と言い訳をしているらしいわ。


 まあ、始めに謝ってきたんだし。

 あたしはそんなに気にして無かったわ。


「なあ、怒らずに話しくらいしようぜ」


「別に怒ってないわよ」


「怒ってるよ! さっきから口聞いてくれないじゃん」


 実は、この時すでにドキドキしてて。

 あ、あたし男の子と一緒に帰ってるよ! きゃー! ってな具合に。


 それで話す事が出来なくってね。

 俯いていたら、彼が覗きこんできたからまたびっくり!


「お前、いつも顔赤いな。」


 誰のせいよ!


「あんたの足が早いからしんどいのよ!」


 デマカセである。でも、実際早くて、気付くとかなり離れてる時もあったり。

 でもそんな時、彼、じーっとあたしのこと待ってるのよね。


「お前でも走るの早いじゃん」


「へ?」


 なによそれ。あたしの走るところ、見てたの?


「この前の体育の時さ、3番だったろ? 駆けっこ。」


 あ、見てたんだ。……見てたんだ。


「俺も早いけど本気ならな」


 へっへーと笑いながらまた自由衛星である。


 あたしのドキドキは治らない。

 顔はまたなんか赤い気がする。

 なんだかよく分からないけれど、恥ずかしい気持ちだった。

 初めて同年代の異性を意識したわ。


「お、俺コッチだから。また、明日な!」


「え!」


 また、背中。

 走る必要ないだろうに!


 なんか負けた気がしたのと、なんか声かけないとって気持ちばかり焦る。

 気負う必要なんかないわね。

 ちょっとくらい、頑張れるかしら。

 あたし負けず嫌いだもの!


「ま、また明日ね!」


「おう! またなー!」


 あいつ、振り返ると笑ってた。

 手を振って、後ろ歩きしてた。


 あたしの手も自然に上がる。

 手を振る。


 笑ってた。

 なんか、分かった。

 まだ、likeだけど。分かった。


 あたし、あいつ気に入ったの。


ここまで読んで下さってありがとうね。

誤字や脱字はご愛嬌。

チクチク刺さるトゲは知りません!

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