◆◆◆◆◆『無職』が『女子高生』とぶつかったら『ミニ四駆』をはじめる事になった件②◆◆◆◆◆
さて! 今日こそミニ四駆は出てくるのでしょうか!?
「なんで、あんな所でフラフラしてんのよ!」
女子高生が軽く束ねた髪を揺らしながら、声を荒げる。
「100円様を落として……
って、そんな事はどうでもいい、大丈夫か?」
俺は、倒れた自転車をすぐに起こし、こけた姿のままの女の子に手を伸ばす。
「軽く擦りむいただけだから、大丈夫だよ……」
女の子は、擦りむいた手のひらを軽くはたくと俺の手をつかんで立ち上がるが、
「あーっ! 荷物!」
そう叫ぶと、散らばった箱のほうへと急いで走り箱を拾い上げ自転車の荷台に載せていく。
あわてて俺も一緒に箱を拾いに行く。
ガンプラに、プラクションに、ビーダマン、BB戦士もあるじゃないか、それにクロスまで……
これって、女子高生が買うものか?
完全に男の子の玩具だ。
ってその前に、ここにあるものが売ってた時代って、この子絶対に生まれてない気がするんだけど。
そして、この一番デカイ箱、赤と青の星二つの星がついてある。
これって、ミニ四駆のコースだよな?
それを、女子高生が?
なぜ?
どうして?
色々な事を思いながらも、集めた玩具の箱を渡していく。
「ありがと」
「こっちこそ、周りをみてなかったばかりに」
同じ方向にさえ逃げなければ、こんな事にならなかったんだけど、とは一瞬思ったけれど、俺が飛び出したのが悪かったんだけどな。
「でもアンタがそっちに……
いや大丈夫だから気にしないで」
途中まで何か言いそうになってたけど、
100円様を見て悲しそうな顔してるオッサンを見て可愛そうな人とかいう目で見られてる気がする……
「その荷物の量を自転車で運ぶのは危ないんじゃないか?」
女の子は、荷物を乗せた自転車を見てうなずく。
「近くだから大丈夫だと思ってたけど、今度は押していくよ」
そう言うと、自転車を押し始める。
「あっ」
が、前に進まない。
しかめっ面になった女の子が、ぐっと力を入れて押すと、何かがこすれるような音をしながら少しだけタイヤが回転する。
「これ完全にタイヤが歪んでるな」
「……だね」
女の子は、泣きそうな顔でため息をつく。
「にしても、すごい玩具の量だな、どこに持って行く気だったんだ?」
「おねぇちゃんに頼まれて、家に持って帰る予定だったんだけどね。
さすがに、自転車に乗せて走るのは無理だったみたい」
「ひどい、ねぇちゃんだな」
「忙しいし……仕入れに時間を割けないんだ」
女の子は、小さな声で答えた。
「仕入れ?」
「うん? あーー! アタシ、佐上商店街でお店をやってるんだ」
佐上商店街なんて、子供の頃に行ったきりだ。
その記憶をたよりに、脳内で昔の地図を開いてみる。
「ああ! お化けボックスの横の車玩具屋!」
子供の頃に、近所の子殿たちの間で流行ったお化けボックスの話!
夜中の12時に電話ボックスの赤いボタンを押すと、お化けから電話がかかってくるっていう噂があったな。
でもあの赤いボタンは緊急用のボタンで、
「そうそう! 夜中の12時にお化けボックスの中でスマホで電話すると
ガラスの箱に閉じ込められちゃうって都市伝説の場所!
おにーさん良くしってるよねそんな噂!」
あぁ、これがジェネレーションギャップというやつか……なんだろ、いっきに年取った気がする。
「まだ車玩具店ってあったのかーー」
「この車 純香がいる限りウチのお店は潰れません!」
「うん! その元気さがあれば大丈夫そうだね。
でもまぁ、そんなに遠くないし、そのくらいまでの距離なら、自転車おしてくよ」
そう言って、彼女の自転車を押す。
「いいの?
……まぁ、もともとはフラフラと歩いていたアンタが悪いんだから
それくらい当然か」
そう言うと、いたずらっ子のように笑った。
車玩具店には、ガキンチョのころ、よく友達と一緒に遊びに行っていた。
小さなお店で、少し薄暗かったけれど、大量の模型やオモチャが並んでいて、その頃の俺らからしたら宝の山で、BB戦士も欲しいしミニ四駆も……いやビーダマン捨てがたい。
小遣いの500円で何を買うかとっても悩んでたんだ。
そんな事を考えているうちに商店街にたどり着く。
久しぶりに来た商店街は、俺の記憶にある店の多くは潰れたか新装開店したかして、様相がだいぶ変わっていた。
いまどき商店街はもうからないかぁ……
とこぼしそうになったけれど、さすがに店の人がいる前では言えないもんだ。
「そういえば、その制服……、純香ちゃんって風鈴高校?」
「ん? そういだよ」
「俺もその高校に通ってたよ。あぁーー! いいねぇ! 高校生!」
「うわぁー。女子高生にそんな事言うなんて……なんか変態くさ~い」
女子高生は、睨みながらも笑顔で俺を見る。
「もういっぺん青春したいわぁーー」
といっても、学校と友達の家とを往復して過ごしていただけだけどな。
それでも、今の何もない生活よりは楽しかったと思う。
「ふーん、おねぇちゃんもそんな事言ってた。
忙しくて青春なんてできないーーとかね」
「まぁ、俺の場合は金無し、職無し、彼女なしで、忙しくはないんだけどな」
「それはそれで大変そうだね。無職くん」
「無職っていうな。今は休んでるだけ。進藤 弾だ! 」
そんな事を話しながら商店街を歩いていくと、お化けボックスが見えてきた。
電話ボックスの箱自体はあるものの、中にあった電話は回収されていた。
子供がこんな箱をみたら、不思議で仕方ないだろうな。
「このあたりだっけ?」
「うん、そこを右に曲がったところにあるよ」
「そうだったそうだった……」
あれ? たしかこの辺りにお店があったのは、覚えてるんだけど……
古びた模型店で……
ってあれ?
ここにあったはずだけど
間違ったかな?
「どうしたの?」
俺の記憶と一致したその場所は、小さな黒板に今日のメニューと書き出されたものがあった。
「日替わりランチメニュー500円?」
模型店にランチメニュー?
その下には、
サンドイッチセット500円
ナポリタンセット500円
サラダ100円
コーヒー350円
と、さらに別のメニューが書いてあった。
女子高生は、俺に学生鞄を渡すと、店の裏に移動させる為か壊れた自転車を押していく。
あいもかわらず、ギィギィと大きな音を立てながら進む自転車。
その音につられたのか、店の中から髪の長い顔立ちの整った女性が出てきた。
そして、俺と目が合って、目をぱちくりとする女性。
「えっと、」
俺と、汚れた制服の女子高生をまじまじと見たあと、
「純に何するんですか!!」
そういうと、手元の長い棒を持って構えた。