邪神の気まぐれ
雨風が体全体にあたり、体が冷える。
刺された胸から血が出て凄く熱い、痛い。
体から血がたくさん出たからか、目の前が暗くなってきて、手足が痺れてきた。
熱さと寒さ、痛みが体全体を覆い、意識を黒く染めていく
「悔しいなぁ...。いじめられ続けて、復讐もできずに死ぬなんて...」
もし...このまま死なずに生き延びれたら...
絶対にあいつらに...復讐してやる...
『ほう、面白いな...できるのか?お前みたいな死にぞこないに...』
急に地面の底から響くような声が聞こえた。
「誰だ...?」
どこまでも暗く、重く
『そんなことはどうでもいいことだ。
あの白い阿呆が面白い事をしていると思って見ていたら、もっと面白い事が起こりそうだと思ってな...』
心の奥に吸い込まれていくような、そんな声が...
「面白くなんかない!こんなに惨めな思いをさせられて!悔しい思いをさせられて!面白いわけがない!!」
声の主に向かって叫ぼうとした。
でも、自分の口から出るのは掠れた息と血だけで、叫ぶ事なんてできなかった。
『そうか...確かにお前からしたら面白くないかもしれんな...』
声は出なかったが、相手に意思は伝わったらしい。
『なら、賭けををしようではないか。なあに、簡単なゲームだ。この状況から脱して、あやつらに復讐できるかどうか。賭けの賞品は...』
数秒の間をおいて、謎の声は、笑みを含んだ声でこう言った。
『お前が賭けるのは、お前の魂そのもの。私が賭けるのは、そうだな...私全てだ。それでいいな?』
この時、俺は意識が朦朧としていて、正常な判断ができていなかったかもしれない。
賭けだとか、魂だとか、よくわかっていない状態で、俺はその提案を承諾した。
■■■■■
気がつくと、どこかわからない洞窟に寝ていた。
つい、さっきまで刺されて死にかけていたはずなのに、胸の怪我は治っていて、どこも痛くない。
「目が覚めたか?死にぞこない」
「誰?」
声のした方を見ると、絶世の美少女と言っても過言ではない程の少女がいた。
「誰だと?何を言っているんだ?賭けをしたじゃないか...」
賭けだと?そんなことした覚えないぞ?
「賭け...?そんなのしたっけ?ていうか俺、死にかけていたはずじゃ...」
「覚えてないのか?しただろうが、ほら、復讐できるかどうかって」
「いやいや、あんなの幻聴だって。あんなに血が出てたら幻聴くらい聞こえるよ。そもそも、君の声とは違って凄く低い男の声だったし」
「ああ、あれな、あっちの声の方がかっこいいだろ?こう、魔王っぽい感じでさ」
少女は、喋り続ける
「それに、賭けをしたのは現実だ。君は、死ぬ前にあいつらへの復讐を終えないと賭けの内容通り魂を私に取られるぞ」
「は?」
「魂を取られると大変だぞ~。持ち主が手放すまで輪廻転生できずに、永遠に何も感じず過ごすことになるんのだからな。」
「は?は?」
事態が一向に呑み込めない俺の脳は、どんどん混乱していく。
「まぁ、サービスで怪我を治して新しい服をやったんだから、感謝しろよ?」
「ちょっと待ってくれ、気になることがあるんだ三つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「1つ目、賭けは嘘じゃないんだな?」
俺の質問を聞いた彼女は呆れたように答えた
「だからそう言っているだろう。答えはYesだ」
「2つ目、此処はどこだ?」
「私が封印されている洞窟だ。私はここから出ることはできない。」
「3つ目、今封印されていると言ったが。お前は誰だ?」
少女は待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、こう叫んだ
「私は、貴様ら人族や魔族、獣族が恐れ敬う、邪悪の化身、邪神様だ!!」
そう言って彼女はポーズをとった、厨二病感満載で、すごくダサい。
それにあれが見えそうで見えない。何が見えそうなのかは、言わない。
「...邪神なんてこの世界に来て始めて聞いたぞ?」
「....え?」
「神様に貰った本に邪神なんて書いて無かったよ?」
「え……?嘘...?」
「いやいや、ほんとほんと」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
沈黙に耐えきれなくなったのか、自称〝邪神様〟は話を続けた。
「コホン、賭けをしたとは本当だ。まぁ、頑張るんだな...」
「まじか...」
■■■■■
邪神に明日の朝には出て行けと言われたので、今日はもう寝ることにした。
もう少しゆっくりさせて欲しいと思ったが、復讐を成功させるためにも賭けに勝つためにも、速く出発した方がいいかもしれないから、ちょうど良かったかもしれない。
正直、あの賭けを呑んだ事が正解かどうかわからない。
でも、復讐の機会を与えてくれたんだ。
絶対に成功させなきゃな...これからが楽しみだ