善と悪
・名前:カロク
・性別:男
・種族:人間
・職業:復讐者
・保持スキル:悪魔神の契約(仮)
……悪魔神ライラとの契約の証。 保持している間は悪魔神と同等の力を得る。
・保持スキル2(パッシブ):復讐者
……行動の根底にあるのが『復讐』の場合、多大なステータス恩恵を得ることができる。
・名前:ライラ
・性別:女
・種族:悪魔神
・職業:神
・保持スキル:悪魔神の契約(真)
……家臣との契約の証。 保持している間は家臣に絶対的な力を受け渡すこととなる。 死亡、又は契約破棄をした場合はこのスキルは契約者、契約主共に失われる。
・保持スキル2(パッシブ):神言・凄惨たる美
……悪魔神であるが故に、凄惨な光景を見なければ神の座から降ろされる。
「なんだよこれ」
「プロフィールです。 わたしは神ですので、こういった情報を出すこともできるんですよ」
えっへん、と言わんばかりにライラは威張る。 そこまで威張られても、文字が思いっきりライラの手書きな辺り信憑性があるのかどうかは微妙なところだ。 字下手だなこいつ。
しかしこの情報が本当なら、俺はかなりの力を手に入れているということか。 ライラが悪魔神だという話は本当のことなのかもしれない。
「ん、お前のパッシブスキル? ってやつ、これはどういうことだ? 凄惨な光景を見なければ神の座から降ろされるって」
「ああ、それですか。 それは所謂バッドスキルですね、悪い方向に働くスキルです。 わたしの場合は悪魔ですので……平和な世界というのは駄目なんですよ。 世界はもっと悲惨にならないと駄目なんです」
悪魔ねぇ……。 手枷足枷の所為で勘違いしそうになるが、服の趣味はどちらかと言えば完全に天使だけどな、こいつ。 金髪、綺麗な肌、胸元から鳩尾までの白いドレス、下はフリルが付いた白のミニスカート。 悪魔と言えば真っ先にダークなイメージが湧いて出てくるが、こいつ超ホワイトだぞ、真っ白だぞ。 大丈夫なのかな、本当に悪魔なのかな? 言動は確かに悪魔っぽいが。
「よく言うじゃないですか、悪魔失格とか神様失格とか」
「よく言わないよ」
「……言うんです! それで、正確に言えば善の神と悪の神は別々なのですが」
うわ、強引に話を始めたよこいつ。 面倒くさいタイプで間違いない、別にそんなことには興味ないんだけどな、俺。 ただ話を聞かなければ先に進めそうにはないし……一応聞くだけ聞いてやるか。 いいえを選び続けても進まないゲームと一緒だな。 否定の選択肢を取っても「そんなことは言わずに」と言ってくるジジイに似てる。
が、ライラはそんな俺の考えを知ってか知らずか、強引に話を押し進める。
「世界を平和に持って行こうとするのが、善の神。 破滅や滅亡に持って行くのが、悪の神のお仕事なんです。 ですので、それに失敗してしまったり、あまりにも逆方向に傾きすぎてしまうと神の座というものから降ろされちゃうんです。 もしも降ろされたらニートです、社会不適合者です、それは嫌なのでっ!」
ライラは両手を胸の前でガッツポーズにし、俺に詰め寄る。 当然俺は距離を取り、宥めるように両手で壁を作る。 バリアー! それ以上近づかれると俺の精神衛生上よろしくない!
「……だから、というのもあったんです。 カロクなら、この世界を酷いことにできると思って!」
ヤバイ、全く嬉しくない。 ライラ的にもしかして俺をアゲているのか? むしろサゲてないか? 世界を酷いことにできると言われて「やったあ!」と喜ぶのは俺でも中学生までだったよ。 あ、高校生だったかもしれない。
「それで、俺を連れて来たのか?」
「はい、その通りです」
「……お前の言いたいことはなんとなく分かったけど、それは人選ミスじゃないか? 有り体に言えば俺のやっていることは「正義の味方ごっこ」だったんだぞ。 不幸な奴に協力して、復讐を果たすっていう」
「ふふ、知っていますよ。 復讐屋カロク、裏の業界では有名だったんですよね? カロクの言う通り、カロクがやっていたことは「正義の味方ごっこ」に過ぎません。 弱い者、虐げられていた者を助けるという、目の前の問題を解決する手段でしかありません」
ライラは笑顔を見せて言う。 自分でそう言うのは良いが、他人に「ごっこ」呼ばわりをされるのは少し苛立った。 だからと言って、文句を言うつもりもないけど。
「ですがカロク、ここは異世界です。 カロクが居た世界は『善』と『悪』が入れ替わることはありましたよね? あるときは女性が悪で、またあるときは男性が悪。 子供が悪になるときもあれば、大人が悪となるときもある。 更に昨日まで『善』だった者が、今日は『悪』と。 そういう入れ替わりが多々、見受けられました」
「まったくその通りだ。 だから俺は、先着順で仕事をしていたよ。 一回やれば数ヶ月はニートでいられるし」
「ニートは駄目ですよ、だめ! ちゃんと自宅警備の仕事をしてくださいっ!」
一緒だけどな、それ。 こいつにとってはもしかしたら立派な仕事なのかもしれないし、黙っておくか。 ニートに現実を突きつけるというのは残酷なことでしかない。 ニート神には逆らえまい。
「……こほん。 それでですね、この世界での『善』と『悪』は最初から決まっているんです。 それが揺らぐことは、一つしかあり得ません」
「最初から決まっている? どういう意味だ、それ」
「『善』とはつまり、勇者や人間であること。 そして『悪』とはつまり、魔王やモンスターであること。 それがこの世界での善悪の違いです。 例えば、その辺にうじゃうじゃといるモンスターさんたちですが、これは悪属性となります。 反対に小さな村に住む人々、これは善属性となります。 そういう風に決まっているんです」
善と悪が、最初から決まっている。 ライラが今言った言葉を咀嚼すると、つまりは勇者側であれば善属性となり、魔王側であれば悪属性ということなのか。 それは分かりやすいが……。
「揺らぐこととは何か、という質問が次に来ると予想して答えます」
「……どーぞ」
俺が放とうとした言葉を先読みされた。 なんだかライラにそれをやられると心底不快だなおい……。 こいつが馬鹿っぽいというのが一番の原因だろうが。 こいつの知能が全部胸や顔に持って行かれてますっていう仕草とか喋り方とかな。
「それを成せるのが復讐者なのです。 いつ何時でも弱き者に手を貸す復讐、そこには善悪の区別などなく、ただ自分が信じる正義を下すのみ。 分かりますか? カロク」
「ああ、なんとなくだけど今ので充分伝わったよ」
善と悪、それが最初からこの世界では決まってしまっている。 よくあるRPGなんかでは設定ともいう仕様だ。 モンスターは倒される側であり、人は倒す側。 そして魔王は破滅させられる側で、勇者は世界を救う側。 そういう決まりきった設定がこの世界では色濃く善悪として反映されているのだ。
ゲームをしているときのことを考えて欲しい。
ふと思ったことはないだろうか? もしも自分がどちらを滅ぼすか選べたら、と。
ふと思ったことはないだろうか? もしも自分が居たらどっちの味方に付いただろうか、と。
ふと思ったことはないだろうか? こんなレールに従いたくはない、と。
「俺が決め、俺が選べってことだな。 その悪を」
「そういうことですっ! カロクが悪だと思った者たちに復讐をする。 しかしそれはカロクの中だけの話で、世界は復讐を重ねれば重ねるほどに破滅していく。 わたしがカロクにお願いしたいことはただ一つ、この世界を……わたしの思惑と違い、平和な方へと進み続けるこの世界を破滅させて欲しいのです!」
とても良い笑顔で、ライラは言う。 まさに悪魔、まさに神の言動だ。 そしてそれは、悪という言葉で片付けて良い想いではなかった。 だから俺は、そのライラのお願いに対し言葉を紡ぐ。 俺と同じこいつに言葉を返す。
「良いぜ、分かった。 お前が世界から受けた屈辱を俺が引き受けよう」
「はい、宜しくお願いします」
こうして、俺の復讐は始まった。