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神は神でも

 俺は死んだ。 騙され、貶され、嵌められた。 最終的には、殺されたんだ。 呪ってやろう、いつまでも。 俺がこの屈辱を忘れない限り、未来永劫幸せは絶対に掴ませない。 知っているか? 俺は死んだとき、お前の未来が不幸になるように仕掛けをしていたんだぜ。


 今頃、きっとお前は悔しがっている。 俺の罠に嵌ったお前は俺を殺したがるだろう。 だけど残念、俺は既に死んだのだ。 だから言ったじゃないか、人を不幸にするときは、自分も不幸になる覚悟をしろと。




 俺の職業は、公にできるものではなかった。 裏の仕事、俗に言われる危ない仕事ってやつだった。 その結果、俺は殺された。


 だが、どうしてか。 俺は今現在、こうして息をしている。 不思議なものだ、死後の世界はやけにリアルティに溢れていて……ファンタジーなんだから。


 そう、ファンタジー。 俺の目の前にはそんな光景が広がっていた。 城、森、空飛ぶ島に、良く分からない鳥。 そんな、如何にもファンタジーですと言わんばかりの光景である。 特に良く分からない鳥はヤバイ、ギャアギャアと気味の悪い声と異形な顔立ちをしている。 見つかったら襲い掛かってくるんじゃないか、あれ。


「どうも、こんにちは。 どうやら成功のようですね」


 しかし、そんな鳥よりも更に意味が分からないのが目の前にいる少女だ。 金髪、露出度の高い服……というか下着か? 何やら胸から鳩尾までを覆う白のドレスと、下は太腿辺りまでしかないフリルが付いたスカート、更に何故か手錠と足枷を付けている。 付けていると言ってもその両方が繋がっているわけではないから、自由に動けているが……ド変態ファッションすぎる。 それに見るからに俺より若い。 俺は今二十二歳だけど、声と見た目からして十歳後半くらいなのかな? 随分若く、身長もそれほどでもないな。 胸はそれなりにあるけど。


「聞いてます? 失語症……ではないですよね? あ、もしかして私の美しさに見蕩れてましたです?」


 少女は大きな青い眼で俺の顔を覗き込む。 随分失礼なことを言われているが、後半の「見惚れている」というのは強ち間違いではない。 自分で言うだけのことはあるのか、率直に意見を述べるならば「美少女」という他ない。


「……無視しないでくださいよぉ! なんか言ってくださいよぉ! 私が折角連れて来たんですからっ!」


 涙目になりつつ、少女は言う。 その仕草を見ているとなんだか悪いことをしている気分にもなってくるな……けど、待て。 今、最後の言葉……この少女は、なんて言った?


 ……折角連れて来た。 そう、言ったのか?


「説明してくれ」


「わ! 喋りました! ふふ、やりましたっ! ライラやりましたよー!!」


 何故か、俺が喋ったことがよっぽど嬉しかったのか、少女は目をキラキラとさせながら笑う。 子供っぽい仕草ではあったものの、その元気の良さを見ているとなんだか不思議と悪い気分にはならなかった。


「あ、説明でしたね! ええ、もちろんです! あなたは死んで、私がこれは好機と思って連れて来て、そしてあなたには使命があるのですっ!」


「……」


 冷静に考えよう。 恐らくこの子は、説明が物凄く下手だ。 そしてにわかには信じられない事実を述べているが……仮にそれを真実だとしても、あまりにも説明不足過ぎて理解ができない。


「使命です、使命! 格好良いですよねぇ……良いなぁ、私も「あなたには使命がある!」と言ってもらいたいものです。 ……あのですね、桐生(きりゅう)嘉禄(かろく)さん、もし良ければ私に「お前には使命がある!」と言って貰えないですか? お試しに、一回だけでいいので!」


「……お前には使命がある」


 言われるがまま、俺はその少女の頼みを聞く。 とてつもない棒読みだったと思うが、どうやら少女にとっては対して意味のないことだったらしい。 俺の言葉を聞くと少女はにっこりと笑い、口を開いたのだから。


「い、一体どんな使命が!?」


「俺の名前を知っている理由と、ここはどこか説明すること。 それと俺の使命とやらを説明すること、今の状況を説明すること」


「……むぅ。 つまらない使命ですね」


 つまらないってお前な……。 仮にも俺を連れて来た? とか言うからには、そのくらいの説明はしろと思ってしまうのは傲慢だろうか。 少なくとも、この状態でここに放置されたら俺は間違いなく死ぬだろう。 こんな何もない草原ではな。 遠くに見える変な生き物が怖い。


「名前を知っているのは、当然見ていたからです。 ここは言ってしまえば異世界です。 あなたの使命は私の願いを叶えることです。 今の状況は生まれたての赤子みたいなものです。 他にありますか?」


「適当に流すなよ! あのなぁお前、言っておくが全く意味不明だからな。 見ていたとか異世界とか願いとか……」


「あ、ならゲームで考えてください! ほら、新しくキャラクターを作るじゃないですか? キャラメイクは既に終わっているので、今からステータスなどを決定する部分ってことですね。 ほら、分かりやすいです!」


 少し身を乗り出し、少女は言う。 確かに、多少分かりやすくはなった。 が、この少女……いやもうこいつで良いか。 こいつの説明は、肝心な部分が抜けている。 どこで、というのはこの際異世界ということで良い。 次にどうして、これはまぁこいつが言っていた「使命」というのが絡んでいるとして。


 問題は、どうやってだ。 こいつから聞き出すためには、普通に聞いてもきっと答えは得られない。


「いくつか質問していいか?」


「もちろんですっ! そのために私はここに居るんですから!」


 少女は胸を張って言う。 下着のような衣装の所為もあり、胸が強調されてなんだかエロい。 が、大事なのはエロではない、俺の境遇、立場だ。


「誰にでもできそうな異世界転生でどうして俺を選んだ?」


「……馬鹿ですか? 異世界転生なんて人智を超えた魔法、私くらいでなければできないに決まってます。 何を言っているのか分かってます?」


 やっぱりか。 今ので確信した、こいつはわざと堂々巡りの受け答えをしているのだ。 馬鹿を装い、俺を試しているのか?


「ああ、ならやっぱりお前はとてつもない力を持ってるんだな」


「……」


 俺の言葉に少女は黙る。 黙って、俺の言葉の続きを待っていた。


「お前みたいに裏がある奴は嫌いじゃない。 で、それならどうして願いを叶えて欲しい? お前ほどの力があれば、俺みたいな奴に叶えてもらうことなんてないだろ? 結婚しろとかそういう話か?」


「け、けけっ結婚!? ば、馬鹿ですか!? どうしてこの神の子たる神聖で高潔な私があなたみたいな人間と結婚しなきゃならないんですかアホですか馬鹿ですか間抜けですかっ!? そ、それは結婚は乙女の夢であり生涯のお財布もといATMを確保する上で大切な儀式ではありますが……」


「本音駄々漏れじゃねえか……。 はは、でも分かったよ。 お前は神様なんだな」


「ッ! よ、よくも嵌めましたね!? 私の結婚願望を逆手に取って卑怯です!!」


 結婚願望あるのかよ。 少なくとも、さっきの本音を聞く限りこいつとだけは結婚したくねぇ……。 元より、俺に人を愛す資格があるのかという疑問が生まれてくるけどな。


「利口ぶってる馬鹿ほど騙しやすい。 お前の場合はまさにそれだよ」


「ぐぬぬ……! ま、まぁ良いです。 私は誰が何と言おうと神の子であり、この世界の誰よりも力ある存在です。 多少の軽口はこの広い心で受け流します」


「でもさ、お前神の子っていうのになんでそんなエロい格好してんの? その手錠と足枷は縛られたがりか?」


「うるっさいです!! これは私の正装ですっ! 動きやすいから良いんですっ! わたしの力を抑えるための手錠と足枷ですっ!」


「正装かよ……にしては聖属性っていうよりかは性とか邪悪とかそんな感じだな」


 俺が更に狼狽させるために言うと、少女は一瞬目を見開いて、どうしてか笑った。 そう言われ、喜んでいるように笑ったのだ。


「正解です。 それは、大正解ですよ、カロク」


「ん?」


 そして、少女は大仰に手を使い、挨拶をする。 自身の名と、そして俺の使命を口にする。


「ライラ・レミュール・アスモデウス。 私は悪と性を司る神、色欲のアスモデウスの一人娘であり、この世界を支配する悪魔神。 カロク、あなたには私の性欲を満たしてもらいます」


 少女は妖艶に笑い、その綺麗な瞳で俺の顔を見つめ、そう言ったのだった。

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