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「兄ちゃん、明ちゃんの友達? いやあ……助かるよ。人手はいくらあっても足りないからさ」
近所の公園で大勢の人間が作業している。資材を運び込んだり、料理の準備をしたり。
「これは……祭りか?」
「祭りって言っても町内会の小さな祭りだよ。ガイジンさんには物珍しいかい?」
「ああ……初めて見るから興味深い」
忙し過ぎて現場が混乱するくらいの状態だ。祭りの素人が集まって作業しているのだろう。効率が悪い仕事の進め方だ。荷物を運びながらそんな事を思っていた。
「おお! 兄ちゃん力持ちだね。重い荷物軽々ともってよ」
「そんな事はない。最近体を動かしてないから、なまってるくらいだ」
帝国にいた頃は、毎日剣か銃の稽古をしてたのに、すっかり平和ボケしてたようだ。隣でにこにこ話しかけてくるのは、町内会で酒屋を経営してる徳造さんだ。祭りに酒をおろす関係で中心人物らしい。
「でしゃばりかもしれないが……車があちらから資材を搬入するなら、ここに出店を配置すると搬入口を塞いでしまうのではないか?」
「へ……? ああそうだな。じゃあどこに移動しようか」
「公園の入り口は二カ所。メインステージがこことして、人が出入りする導線を考えるとこの辺りが妥当だと思う」
「なるほどな……。他に何か気になった事はあるか?」
私は思った事をすべて徳造さんに言った。でしゃばりかとも思ったが、役に立てば嬉しい。祭りの運営など、帝国の政を仕切っていた事を考えれば、だいぶ楽な仕事だ。
「ほー……。すげぇな。兄ちゃん。助かるよ。言われた所直しておくよ。兄ちゃんこういう事得意なのかい?」
「まあ……国にいた時に似たような事してたので」
「ふーん。じゃあ……他にも役立ってもらうか」
その後馬車馬のごとく徳造さんにこき使われ、祭りが始まり、今私は屋台の中にいた。
「きゃはは!! なんでエド焼き鳥焼いてるの?」
遊びにきた明が、大笑いして指を指した。
「一番得意な事だったからな。野営中に、たき火で肉を調理したり……」
「ねじりタオルとか……うける!!!」
たき火の火に比べれば、このガスという器具の方がずっと調整しやすくて楽だ。使い方になれるまで少し時間はかかったがもう慣れた。今ではこげやすいタレ付きも、ちょうど良い焼き加減でやける。
ただ……ものすごく暑いから、額から落ちる汗を押さえる為に、頭にタオルを巻いてるのだが……なさけなく見えるらしい。
「そこまで笑わなくていいだろう……」
不満を言いつつ明をチラ見する。今日は浴衣姿でいつもよりずっと清楚で可憐だ。淡い黄色の華やかな生地にオレンジのナデシコの柄は、明るい明によく似合ってた。
「明……浴衣、似合うな……可愛い」
「え? なんて言った?」
「だから浴衣が似合って可愛いと」
「もう一度!」
「だから……ってわざとだろう」
明はニヤニヤしながらこちらを見ていた。褒め言葉を聞きたいが為に、聞こえない振りをしていたのだ。またからかわれた……とため息をつくと、ふと視線を感じて横を見る。
「お熱いねお二人さん」
徳造さんがニヤニヤと生暖かい目で見ていた。
「す、すまない。さぼっていて。ちゃんと仕事するから……」
「いいって、いいって、そろそろ交代して休憩してもらおうと思ってたから。明ちゃんと祭り回って遊んできな」
徳造さんが代わりに焼き鳥台にたつと、慣れた手つきで焼き始める。明が意味有りげな目つきで徳造さんを見ている。なんだ?と思っていると徳造さんがにやっと笑った。
「明ちゃん。合格だよ」
「本当に!」
「ああ……だから思う存分遊んでおいで」
「うん。エド行こう!」
私にはさっぱりわからないが、明は大はしゃぎで私の手を引いて歩き始めた。
「この後花火もあるんだよ。穴場スポットもあるんだ!」
「花火……か。そういえば帝国の祭りでも上げていたな」
「え? あの世界にあったの?」
「帝国以外では見た事はないがな」
「そうなんだ……その辺りもネットで調べたのかな……」
「……明」
明の手を引き止め、顔を近づけて耳元にささやいた。
「夜空に咲く花火より、明の方が可憐で綺麗だ」
ゆでだこのように赤くなり、ふにゃふにゃになった明を見て満足した。さきほどからかわれた反撃だ。