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合コンなんてくるんじゃなかった。あまりの居心地の悪さに、愛想笑いもできずに無表情になる。京殿の顔を潰すようで申し訳ないが、こういう場所は苦手なのだ。
先ほどから参加者の女性皆から、まるで見せ物のようにジロジロ見られて困る。見られるだけでなく、質問攻撃だ。
「エドさんって、どこの国の人なんですか、日本人離れしててすごい。カッコいいし、筋肉もあってたくましい。触ってみたい」
「……」
どこの国の出身かなどと答えられず、体をべたべたと触られたくもない。どう切り返せばいいか悩むうちに無言になる。
「ご職業はなんですか? カッコいいしモデル? ああ……でも結構たくましいから、プロスポーツ選手とか?」
「……」
職業無職とはいいづらい。
外交の場ではとりつくろって、愛想笑いや最低限の社交はできたが、異世界の常識もまだまだわからない状態では、戦略的に不利だ。
困って京殿を見ると、ニヤリと笑っていた。
「エドはね……実はある国の王子様なのよ」
「ええ! 王子? 確かに王子様みたいにカッコいいよね」
皆から笑い声があがった。皆冗談だと思ったのだろう。そこまでならよかったのだが……。
「今は私のヒモなの」
「ヒモ王子! あはは」
ヒモという言葉はわからないが、ろくでもない事は確かだ。
「じゃあ……王様ゲームじゃなくて、ヒモ王子ゲーム!イエイ!」
なんだかテンション高く色々巻き込まれた気がするが、見なかった振りをしよう。これはゲーム。浮気ではない! その後も皆から「ヒモ王子」とからかわれて、いじられて合コンは終わった。
つ、疲れた……。二度と行きたくない。
「ヒモ王子! あはは! おかしい。それ見てみたかったな……」
「見なくて良い。明に恥ずかしい所など見せたくない」
京殿の部屋で明と二人きり、私が作った食事を食べている。明が喜んで食べてくれる姿を見ると嬉しい。
「う…ん。エドみたいにかっこよかったらモテると思ったんだけど、やっぱり大人の合コンとかだと、収入とか気にするのかな?」
「よくわからない。でもモテなくていい。私には明がいるからな」
明は少し照れながら微笑んだ。
「うん。嬉しい。私もエドが好きだよ。……こうして私のために食事作ってくれたり、優しいしカッコいいし、私にもったいないくらい」
「そんな事無いぞ。今私にできることなど家事くらいで、仕事もしてない甲斐性なしだからな。将来明を養えるように、早く仕事がしたいが……」
「そっか……大変だね。仕事探しがんばってね。……もうじき夏休みも終わるから、あんまり遊びに来られなくなるし」
「学校がはじまるんだったか?」
「うん。2学期になったら文化祭や体育祭の準備もあるし、放課後も残って作業とか、土日に買い出しとか行く事もあるし。それに……私も学校の友達との付き合いがあるから……」
明には明の世界があって、友人達との交流も大切な事だ。私だけが明を独占できるわけではない。ただ……明に会えないのは寂しい。
「エド……寂しい? 顔に書いてあるよ」
「まあな……」
「う……ん。エドってこちらの世界に来てから、私とお姉ちゃん以外に仲が良い人いないでしょう? 交友範囲が狭いと寂しいし、友達作った方がいいんじゃない?」
ぐさっときた。友達のいない「ぼっち」……というのは……なさけない。こちらの世界にきてもう1ヶ月以上たつというのに、このままでは仕事など到底できない。
「そうだな。もう少し外に出て色々な人と会ってみる」
「うん。私もエドがこの世界で楽しく暮らしてほしいから。……そうじゃないと、連れてきちゃって申し訳ないな……って。エドにはあちらの世界に大切な人がたくさんいたのに」
「明……。こちらの世界に来る事を決めたのは私だ。明のせいじゃない。大丈夫だ。私は今幸せだぞ」
「うん……。ありがと」
いつまでも明に頼って、心配させてばかりではだめだな。
「そうだ! エド。暇なら頼んでも良い?」
「もちろん明の願いなら」
内容も聞かずに返事をしてしまうほど、私は暇に飽きていた。