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「お買い得品が安いとは限らない。広告の品が狙い目だな」
私はスーパーでどの食材が安いか念入りに選んでいた。今日の夜の献立や、無駄な食材を買わないように吟味していたのだ。
初めの頃は色々買いすぎて、食べきれずに食材を無駄にしたり、いらない物まで余計に買ってしまって出費が増えたりしたが、今では節約レシピでそこそこ美味しい料理を作れるようになった。
大進歩ではないだろうか。
「エドまた腕を上げたわね。美味しい! この鯖味噌も細かい所で差がでるのよね」
「明から京殿の好物と聞いていたから、それは一番力をいれて作った」
「いやーん。嬉しい。仕事の後にイケメンの作る、美味しい手料理。癒される」
京殿は嬉しそうに、他にも好物について語ったので、それを記憶して明日の夕食の献立を考え始めた。
「何考えてるの?」
「いや……。明日の夕食に京殿の好物をつくろうと……」
「食事の最中に、すでに次の食事の事を考えるなんて、主夫ね! もういっそ仕事なんてしないで主夫になっちゃえば。明が働いて稼げばいいじゃない」
京殿の言葉がぐさりとささる。家事というのも重要な仕事だ。やり始めれば色々と大変なのがわかる。
ワイドショーの料理講座や、ネットで調べた掃除のまめ知識、洗濯物の正しい干し方。
色々工夫のしがいがあって、できる限り金を使わずに、いかに家事をこなすか。やってみると面白い。
だが、しかし!
男として女に養われて暮らすのは、やはり気持ち的によくない。これはプライドの問題だ。明のために甲斐性のある男になりたい。
とはいうものの、仕事どころか、身分証の問題一つ解決しそうにないのだが。
「ねえ。金曜日も暇でしょう。合コンに来てよ」
「合コン?」
「まあ……飲み会よ。たまには飲みに言ってもいいじゃない」
確かにこちらに来て飲みにいった事は無い。たまに京殿の晩酌の付き合いで、ビール一缶くらいか。けっこう飲める口としては、少し物足りなくもあった。しかし……。
「なんだか嫌な予感がする……。ちょっと調べさせてもらう」
そう言って伝家の宝刀・グーグルで「合コン」と検索。京殿がなぜか止めるが無視した。
そして調べた所、合コンは恋人が欲しい男女が出会う為の飲み会だとわかった。
「京殿……私には明という恋人がいる。合コンにはいきたくない」
「男のメンツが足りないのよ。イケメンがくるって女子には話しちゃって、もう皆乗り気だし。ねえ……別に浮気するわけでもなし、ただ飲みに行くだけなんだから。そんなに難しく考えなくても……」
「……」
私は無言で拒否を貫いた。明は夏休みの課題で忙しく、最近会っていない。そんな間に合コンにいっていたと知ったら、傷つくかもしれない。絶対に嫌だ。
しばらく京殿の説得は続いたが、私は無言で抵抗を続けた。すると京殿は、むすっと不機嫌な表情になる。こういう表情も明によく似ている。
そしてしばらくして凄く意地の悪い笑みを浮かべた。この表情。明と同じで何かよくない事を思いついた時の表情だ。
「明に嫌われるのが嫌なら、明の了解がでれば良いのよね♪」
「な! そういう事では」
京殿はすぐに携帯で明に連絡した。しばらくなにか話していたが、声のトーンで京殿の機嫌が良くなったのはわかった。
「明はOKだって。これで文句ないでしょう。参加してね。大丈夫参加費はだすから。家主の命令よ」
こう言われては首を縦にふるしか無かった。恐らく明も私を京殿の家に住まわせてもらってるから、断りづらかったのだろう。
飲み会と言っても、気が重い。
「あ……明からの伝言。女の人にお持ち帰りされちゃダメだよ。ですって」
「お持ち帰り……?」
「ああ……飲んだ勢いで二人きり……ね」
京殿の含み笑いでだいたい察しがついた。
「そんな事するか……」
「エドは明にメロメロだものね」
やはり明も心配してるんじゃないか。きっと次に明に会った時が大変だな。
そこまで考えてふと思いついた。
「京殿。合コンに行く代わりに、一つお願いしたい」
「何?」
「今度明に手料理を振る舞いたい。できるだけ豪華な料理を。場所と食材費の提供をお願いできるだろうか?」
「あら……その豪華な食事、私も食べてみたいな♪」
できれば明と二人きりの方が嬉しいのだが……さすがに家主にでていけと言えないか。
「わかってるわよ。私は外食してくるから、二人でのんびり食べてなさい」
京殿は察してくれたらしい。ほっと一安心しつつ、明の喜ぶ食事の献立を考えて、合コンという面倒事を忘れる事にした。