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ホームレス王子  作者: 斉凛
元王子のジョブチェンジ
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 京殿の家に住み始めて1週間。毎日明がやってきてくれた。遊びに……ではない。

 大抵の常識は「日本に来たばかりでわからない」で押し通せるが、ネットだけは使えないといけないから、教えにきてくれてる。

 私と明はネットを通じて知り合った事になってるので、ネットを知らないというのは不自然なのだ。


 そして1週間で最低限の使い方はマスターし、後は自主練をしているのだが……。ネットというのは非常に便利だ。色々調べ物もできるし、ネットニュースや動画など何でも見られる。便利で面白くて、時を忘れて夢中になってしまう。


「ただいま……。あら? 今日もネット?」

「おかえりなさい、京殿。仕事お疲れ様です」


 家主に礼儀という物が大事だ、パソコンを閉じて京殿の方に向かう。


「毎日ネットしてるけど……もしかして、一日中?」

「いや……そういうわけでは無いのだが……」


 実は一日中ほとんどネットをしてる。この世界の常識も色々勉強できるし、知らない単語も調べられる……。ああ……これは言い訳だな。


「せっかく日本に来たんだし、明と遊びに行けば良いのに。ネット中毒みたい」


 どきりとした。仕事もせずに、出かけもせずに、家に籠ってネット中毒。ネットでこういう人間をニートと呼んでいた。

 このままでは不味い……。せめて住まわせてもらっている以上、何か働かなくては。


「夕飯急ぎで作っちゃうわね。簡単な物だけどいいかしら?」


 はっと気づいた。そういえば料理を始め、家事という物を一切していない。王子だった頃は身の回りの事は召使いがしてくれたが、今はもう一般人。自分の事は自分でやらなければ。


「京殿。料理を手伝うから、教えてくれないか?」

「あら? いいわね。勉強して私に食べさせてくれるの? 働いて帰ってきたらイケメンの手料理って、かなり癒される」


「明にも私の料理を食べてもらいたい」

「あら……なんでも明の為なのね。ふふふ。明が羨ましいわね。こんなに愛されちゃって」


 京殿は嬉しそうに、調理器具の使い方から説明してくれた。刃物の扱いは慣れてるからそれほど難しくないのだが、コンロや電子レンジといった、特殊な家電の使い方が難しい。後でネットで調べよう。

 京殿に指示されて手伝っていたら、京殿がからかうように笑いながら言った。


「明にそんなに惚れ込むなんて、どこがよかったのかしら?」


 明のどこが好きか。改めて言われると悩む。気がついたら好きになっていた。明と過ごした時間、その全てを見てきて惚れたのだ。


「明は……凄いと思う。困難に落ち入っても、それに立ち向かおうとする。強いわけでも、すごい才能があるわけでもない。普通の女の子だ。それでも自分のできる事を、最大限努力する。そういう所を尊敬している」


 本当はもっと色々ある。


 優しい所。

 強気を見せながら、本当は脆い一面があって、思わず守ってあげたくなる所。

 時にイタズラで振り回されるのも今は嫌いじゃない。

 明るい笑顔を見てると癒される。


 でも一つをあげるとしたら、勇気がある……だろう。異世界という見知らぬ土地で、明は身一つで立ち向かって、懸命に生き抜いた。

 今こうして自分が異世界にきてみて思う。この国は平和だが、それでも慣れない土地で生活するだけでも心細い物だ。


 ふと目を上げると京殿の手が止まっていた。なぜかこちらを見て、とても穏やかな笑顔を浮かべている。


「そっか……。明のそんな所までわかってくれるのね。姉として嬉しいわ。末っ子で甘やかされて育ったと思ってたけど、あの子は本当は頑張りやだものね。ただ努力する姿を人に見せるのが嫌いなだけで。貴方の前ではそういう素直な姿を見せてるのね」


 京殿は本当に嬉しそうに笑いながら料理に戻った。明の新たな一面を聞いた気がして嬉しくなる。京殿に聞けば明の色んな話を聞けるのではないだろうか?


「京殿。明の昔の話とか聞いても良いだろうか?」

「気になる? ふふふ。でも教えて上げない。明、明、って明の事ばっかり。恋人だから仕方が無いけど、ちょっと嫉妬しちゃうわね。エドにも明にも」


「え? 私と明に?」

「だってこんな良い男捕まえた明も、可愛い妹を取られたエドも、妬ましいもの」


 嫉妬してしまうと言いつつも、京殿はどこか機嫌がよさそうだ。

 妹を可愛がる優しい姉君なのだろう。そういう所は共感できる。私も弟の朱里の事は可愛がっていた。

 ふと朱里の事を思い出すと胸が苦しい。今頃泣いていたりしないだろうか?


「あ…ら。どうしたの? なんだか切なそうな表情しちゃって。そういう悩ましげな雰囲気もセクシーで良いわね」


 微笑みながら京殿がそっと私の頬に手を添えて撫でる。


「未成年の明には手をださないのよね。お姉さんが遊んであげましょうか♪」


 明に似たイタズラっぽい微笑みで笑えない冗談を言う。思わず後ろに飛んで逃げた。


「あはは。冗談なのに、そんな震えて逃げなくても。おかしい」


 けらけらと笑う京殿。笑ってごまかしているが、半分本気ではないかと思うと、この共同生活もおおいに不安だ。

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