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ホームレス王子  作者: 斉凛
異世界日本でホームレス王子始めました
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「それでこれからなんだけどね……状況は最悪なの」

「最悪?」


「私は未成年で親に養ってもらう身で、エドの面倒をみるようなお金もない。かといって親に『異世界から彼氏連れて帰っちゃった。居候させて』なんて絶対通じない」


 こちらの常識は知らないが、明の説明は納得できた。あの世界でさえ異世界召還という魔法の実例は、明が初めてだったと思う。この世界の魔法技術はわからないが、「異世界からきた」という言葉で納得できない世界なのだろう。

 それに……私が異世界人でなくても、娘がいきなり恋人を連れてきて住ませてくれといって、納得する親などいない。


「大丈夫だ。明。自分の生活費くらい自分で働いて稼ぐ。この世界の常識はさっぱりわからないが、肉体労働の仕事なら難しくはないだろう。私は体力には自信があるし、なんとかなる」


 仮にも帝国の王子だった身としては、女性に養われて生活するというのは、プライドが許せない。それくらいならどれほど最下層の仕事でも、自力で働く方がまだマシだと思う。

 しかし明はなぜか困った顔をしている。


「あ……それも難しいと思う」

「どうしてだ?」


「ここは日本っていう国なんだけど、日本の国民には戸籍っていう物があって、みんな身分証とか持ってて、そういう身分の保証とかないと雇ってもらえなかったりするの」

「国民一人一人、国が記録を管理し、身分を証明する物があるのか?」


 それは驚異的な事だ。帝国では10年に一度くらいの単位で、国勢調査を行うが、その時も成人男性の人数がどれくらいか確認するくらいで、女性や子供の数まではわからない。

 まして常に全ての国民の数を把握し、身分証を発行するとは……。日本という国は凄い所だ。


「それにね。エドってどう見ても日本人に見えないし、名前も外国人だし……。えっと……日本は単一民族国家で、ちょっとエドは日本人離れした顔とスタイルだし……」


 日本人がどういう人種か聞くと、黒髪、黒目、黄色人で、小柄で華奢で、目鼻立ちがたいらなのだとか。一般的な日本人と私を比較すると、目と髪と肌の色は変わらないが、背が高過ぎて、体つきもしっかりしすぎて、目鼻立ちも濃過ぎるらしい。


「日本の法律だとね、外国人が日本に入国するにもパスポートっていう身分証と、ビザっていう滞在許可書が必要で、それがないと不法入国っていう犯罪になってしまうんだ」

「パスポートと、ビザというものはもってないな。つまり私は今犯罪者か?」


「う……まあ、そうなっちゃうよね。仕事する時外国人だと、そのあたり厳しくチェックされると思うんだよね」


 なんとも厳しい国だ。帝国も鎖国などと他国人を排斥していたが、入国して働くにも色々と面倒な国とは……。しかし住む家も働く方法もないとなると、本当にどうすればいいのか途方に暮れる。

 ため息をつきながら顔を上げると、広場のすみの方で、箱のような物がおいてあり、風に揺れている。箱からは人の足がでている。もしかして行き倒れか? 心配になって立ち上がろうとしたが、明に引き止められた。


「明。あそこに人が倒れてる。具合が悪いのかもしれない。様子を見て来なければ」

「倒れてるんじゃなくて……あれは寝てるんだよきっと」


「寝てる? あんな所でか? それほどあの物は貧しいのか?」

「貧しいって言うだけですむのかな? 家も仕事もお金もない。何もかも無くしてしまった人は、この国ではああやって野宿してる。ホームレスって言われてるんだ。大きな公園には時々いるね」


 何処の国にも貧しくて、生きて行くのも大変だという者は多い。しかし住む所も仕事もないというのはあまりに哀れで……。


「……明……。もしかしなくても、今の私はあの者と変わらないのではないか?」

「……そうだね……」


 王子からホームレス。急転直下の現実が衝撃的すぎて頭を抱えた。


「あ、でもね。何も考えてないわけじゃないから。エドをホームレスにしない為に、考えはあるんだよ」

「考え?」


「う……ん。私にはね、年の離れたお姉ちゃんがいて、働きながら一人暮らしをしてるの。そのお姉ちゃんを説得できないかなと。親よりもはまだ話が通じると思うんだよね。異世界っていうのはさすがに無理だけど、そこは色々誤摩化して……」

「姉君……がいるのか? しかし……それは大丈夫なのか?」


「大丈夫って?」

「女性の一人暮らしの所に、私のような男が住まわせてくれなどと、失礼ではないか? 警戒するだろうし……信用してもらえるか。それに……明は姉とはいえ、私が他の女性と二人きりで住むのは許せるのか?」


 明はきょとんとしていたが、すぐに明るく笑った。


「エドの事は信用してるから全然大丈夫。むしろ問題はお姉ちゃんの方だよね……。エドに手をださないといいけど……」


 女性に手を出されると言われて、背筋がぞっとした。昔、次期皇帝の妃の座目当てに、あらゆる手段で既成事実を作り上げようと、女どもに襲われ続けたあの日々は、今でもトラウマになっている。


「エド……。そんなに真っ青にならなくても、お姉ちゃんも本気で無理強いとかしないからね。ただちょっと人をからかうのが好きだから、冗談で遊ばれそうかな……ってだけで。それに他に方法はないから。そこは我慢して」


 ホームレスと言われる哀れな貧民と、女にからかわれ襲われる恐怖を味わうのとどっちがマシだろう。

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