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「ただいま」
「お帰り♪ エド。ご飯にする? お風呂にする? それとも……ア・タ・シ?」
悪戯っぽく笑顔で出迎えてくれた明の頭をくしゃりと撫でる。この程度の揶揄いにはもう慣れた。
「食事しながら明と話する」
「……む……。最近エドの揶揄いがいがないというか……子供扱いされてるような……」
「そんなことはないぞ。明の笑顔を見てると癒される」
ぼうっと赤くなった明は可愛い。未だにこういう照れた所を見せてくれるのが嬉しい。
「はいはい。玄関先でいちゃいちゃしてないで、早く入ってきなさい」
伯母上のツッコミで、甘い空気はすぐに消える。親と同居してる限り、二人きりで甘い時間を過ごす事ができないのは残念だ。
ふーっと息を吐いてネクタイを緩める。いつまでたってもこの息苦しさに慣れない。
「いいよね……こう、スーツ姿の男がネクタイを緩める瞬間」
うっとり明に見られて気恥ずかしい。嬉しいが伯母上の目の前で下手な事は言えないので、何も言えずに食事に手をつける。
伯母上の用意してくれた食事を食べる間。明が目の前で話をしてくれて、それを聞きながら楽しい夕食の時間……だが、いつの間にか伯父上までリビングにやってきて見てる。
同居を始めてもうじき半年なのだが、この監視されてる感じは未だに慣れずに窮屈だ。
「エド……最近残業続きだけど、明日は休めるの?」
「明日の休みの為に残業してたから大丈夫だ。明は?」
「私も課題は全部終わらせた。この後寝る前に軽く予習をして……明日はばっちり休める。久しぶりのデートだもん♪」
同居してれば毎日顔をあわせるし、一緒に食事もする。明とともに過ごす時間が増えたのはとても嬉しいが恋人を通り越してもはや家族なのが、少しせつない。互いに仕事と勉強で忙しいし、手を抜けない。恋愛で自分のやるべき事を疎かにするようでは、結婚は認めてもらえないだろう。
「デートはいいが……外泊はゆるさんぞ」
「当然です。伯父上」
「夕飯までには帰ってらっしゃいね」
「え……いいじゃん。夕飯くらい二人で食べてきても……」
「ダメ。食事は家族皆揃わないと」
……伯父上や伯母上が厳しいのは、私の怪しい異世界人発言のせいかもしれない。明には申し訳ないが、大人しく健全な付き合いを続けるしかないだろう。
翌日。良く晴れた、しかし息が白くなる程に寒い空気の中、明と出かけた。町並みは既にクリスマスカラーに染まりはじめている。年々早くなってる気がするのは気のせいだろうか?
「今年のクリスマス……家族で過ごしましょうね……なんてお母さんに言われて……。私の十代最後のクリスマスなのに……。エドと二人で食事くらいいいじゃん」
しょんぼり肩を落とす明に申し訳ない。唯一の十代のクリスマスデートの想い出が居酒屋……というのは、あの頃の自分に説教してやりたくなるくらいに不甲斐ない。
そっと明の肩を抱き寄せたら、ふにゃりと笑みをこぼして私に抱き付いた。
「でもね……20歳になるのが楽しみでもあるんだよ。エドと一緒にお酒飲めるようになるし。お酒の味知らないけど、楽しそうだよね」
「私も明と飲める日を楽しみにしてる。結婚して二人で過ごすようになったら、ちゃんと良い店でクリスマスデートをしよう」
「うん……」
そこで明が立ち止まって私を見上げた。
「私……少しはエドに近づけたかな?」
「……どういう意味だ?」
それから明はぽつぽつと話始めた。私がこの世界に来た頃、明は不安だったそうだ。初めは私が何ももっていなくても、そのうち仕事を見つけて自立はできるだろうと信じていたと。
「エドは才能もあるし、努力もするし、真面目だし。絶対どうにかなるって思って。問題は私だなって。エドが自立してかっこよくなって……そうしたら、私みたいな平凡な子じゃあ釣り合わないかなって……他にもっと釣り合う人ができるかも……とか……」
「明。私は浮気をするつもりはない」
「エドの事は信じてる。でも……私がエドに釣り合う女になりたかったの。結婚するって……一緒に生きるって……二人が同じくらい頑張って協力しあう事じゃないかな? だから……医者になりたい半分は、エドに釣り合う自信が欲しかったの」
人に甘えるのではなく、自分が努力してできる最善を尽くす。その明の健気さや強さが愛おしくて……想わず抱きしめた。
「え……エド?」
「そういう頑張り屋な明が好きだ。だから安心して自信を持って欲しい」
顔を赤くしてわたわたしてる明が可愛い。明は無言で私の背に手を回して、ぎゅっと抱き付いた。
明が大学を卒業したら、早く結婚しよう。その為に仕事を頑張って、明の希望を全部叶える結婚式ができるくらい貯金をしよう。
「頑張り屋な明に何かご褒美の贈り物をしよう」
「……いいよ。誕生日とか、クリスマスとか、記念日だけで」
「遠慮しなくても……」
「そのお金があったら貯金して、老後の為にまわそう」
結婚資金を通り越して、老後の貯金なのか……?
そこで明がふーっと深呼吸をした後、にやりと意地悪な笑みを浮かべた。
「どうしてもプレゼントしたいっていうなら……100均ならいいよ」
初めての贈り物が100均だったトラウマを思い出した。明の心の抉り方が酷い。
「この揶揄いならまだいけるんだね。たまにはエドが困る顔が見たい」
楽しそうに無邪気に笑う明を見てると、永遠に尻にしかれ続ける予感しかしない。




