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ホームレス王子  作者: 斉凛
王子卒業。そして新たな試練
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 最終的に三人は、明と結婚したいという私の言葉は信じると言ってくれた。困りに困ってどう受け止めたものだろう……と悩んだ「異世界人」については「ちょっと考えさせて……」と思考放棄したようだ。


「ひとまず……問題は、エドが日本に長期滞在する資格がないって事ね。結婚が手っ取り早いのはそうなんだけど……」


 京殿の言葉を遮るように康夫殿が言った。


「結婚はまだ早い。明やエドガー君を信用してないわけではないが、それでも明はまだ18だし、これから大学に通うという時期なんだから、いずれ結婚するとしても、もう少しじっくり考えなさい」


 もっともな話だ。ただ……そうなると、いつまでたっても「不法滞在」問題は解決せず、このままだと会社を辞めるか特許を諦めるか。どちらにしても色々と先行投資までしてもらった、武田社長には申し訳ない事態だ。


「エドガーさんが日本人になればいいのよね。いっそ私達の養子になる? こんな優しくて素敵な息子なら嬉しいわ」

「エドがお兄ちゃん?」

「明が妹?」


 ……一瞬目をあわせて阿吽の呼吸で答えた。


「「それはダメ(です)」」

 

 当然だ。一度養子縁組してしまえば明と結婚できなくなる。佳子殿も冗談のつもりだったのだろう。私達の反応を楽しそうに笑った。

 京殿が悩まし気に考えて、康夫殿に尋ねた。


「うちの養子は問題あるけど……日本人の養子になるのが一番楽よね。ねえ……お父さん。弘樹叔父さんの養子にできないか頼めない?」

「弘樹叔父さん?」

「お父さんの弟。だから養子になれば明の従兄弟になるわね。従兄弟なら法律上結婚できるし問題ないんじゃない?」

「なるほどな……弘樹に相談して見るか」


 いつのまにか私が日本に滞在できるように、どうしたらいいか、本気で考えてくれている。

 藤島家の皆の優しさに心うたれた。やはり明は良い家族に恵まれたから、こんなに明るく前向きで魅力的な女性になったんだろう。


「エドガー君がいなくなったら、誰が私の愚痴を聞いてくれるんだ」

「京も明も家の手伝いなんてしてくれないし、エドガーさんがいないと、また私一人で家事やらなきゃいけないのよ」

「自慢できる弟で、いろいろ便利に役に立ってくれそうな人材を手放すのは惜しいわよね」

「皆、エドは私のだからね」


 何かが違う。藤島家の四人の優しさに心打たれたのは間違いだっただろうか? たぶん……一生藤島家の最底辺ポジションは変わらないのだろう。

 それでも明と結婚したいという覚悟は変わらないし、少し変わってるくらいの家族でなければ、私を家族に受け入れてもらえないと思う。


 その後色々相談し、康夫殿が骨を折ってくれて、私は戸籍上、康夫殿の弟、弘樹殿の息子になった。

 弘樹殿の息子になったといっても「名義貸しのようなものだよ」と、のほほんと弘樹殿は言う。実質的には康夫殿と佳子殿の息子だと。明と結婚したら当然父と母と慕う人達なので、私に異論があるはずがない。


 藤島エドガー。それが新しい名前になった。



 私も仕事が忙しいし、明も学校が忙しい。それに将来結婚するなら今から同居してもいいじゃない? と誘われ、私は藤島家に居候する事になった。


「エドが来てくれて助かったわ。明も大学に入るくらい大きくなったし、そろそろまた仕事したいと思ってたのよね。家事を頼める人がいるのは心強いわ」

「……伯母上はどんな仕事をされるのですか?」


 結婚を認めてもらったような物でも、父上、母上と呼ぶにはまだ早い。一応甥になったし、だからこう呼んでいる。伯母上、伯父上と呼ぶのはまだ慣れないが。


「京が生まれるまでは看護師をしてたの。子育てに専念する為に辞めてだいぶブランクはあるけど、そこは勉強し直して、少しでも早く仕事についていけるようになりたいわね。看護師はどこも人手不足だから」


 明が医者を目指そうと思った時に、伯母上に相談して、どれだけ大変か聞いた上で覚悟したと。そして伯母上も娘の決意を聞いて応援したらしい。


「あの子が医者になりたいと言った時は本当にびっくりしたし、大学受験も合格できるのか? って最初は疑ってたのだけど……。でも本当に一生懸命受験勉強をして、頑張って……あの子があそこまで頑張れるようになったのも、エドのおかげなのでしょう?」

「いえ……明の……本人の努力だと思います」

「京に聞いたけど、明はエドと会うのを辞めてまで勉強を頑張って、エドは明と結婚する為に仕事を頑張って。そうやって互いの為に自分を高める努力をしていける。そういう良い関係なら応援しようって……お父さんと話したのよ」


 そう言った時の伯母上は、今までに見た事のない程、穏やかで柔らかい微笑みで。


「異世界人だとか……今でも信じてはいないけど、エドの事は信じる。そう決めたの」


 その言葉に心を打たれた。

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