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異世界からやってきた。その事実を話す事、最初は明に反対された。信用されるわけがないと。
それでもどうしても話したいと押し通して、最後には納得してもらった。
そしてとある休日。京殿も含めて三人に大切な話があると、集まってもらったのだ。
「……明。よくできた作り話だな。明には小説を書く才能があったのか」
「あらあら……こんなラブシーン。ふふふ。エドも結構大胆ね」
「明。エドガーさんとの妄想小説? あまりご迷惑おかけしちゃダメよ」
三人が今見てるのは「異世界創造神は女子高生」と書かれたネット小説。明が書き、私が生まれた世界の話だ。異世界からやってきたと説明するには見てもらうしかない。
隣で明が悶絶しているが。
「だから嫌だったの……見せるの」
「今の明の気持ちはよくわかるぞ。私も母上に見られた時は辛かった」
あの頃はインターネットもネット小説もわからなかったが、自分の母親にラブシーン小説を見られたときの恥ずかしさは……何年たってもまだ忘れてない。
「妄想じゃないの。誰が好き好んでこんな黒歴史小説を、親に見せるっていうの。本当だから信じてほしいから見せたの」
「明……私との出会いを黒歴史というのは……」
「ご、ごめん。エド。そうじゃなくて……その……は、恥ずかしいから」
私も明も本気で穴があったら入りたいくらいに恥ずかしいし、本当にこれを見せずに一生を終えられないかと思ったが、やっぱり無理だった。
私達の葛藤に三人は困惑という表情を浮かべる。
「エドガー君……明の言い訳の為に無理に付合う必要はないんだよ」
「お父さん。何でそこで娘の私を信用しないの?」
「エドガー君は私の味方だ」
康夫殿は真顔で断言した。ずっと愚痴を聞き続けた私と、ずっと父親を底辺ポジションに位置づけていた明。短い付き合いとはいえ信頼度に差がでるのは、仕方がないのかもしれない。
「エドガーさん。ごめんなさいね。最近毎週色々お願いしちゃって。お仕事も忙しいのに無理しすぎて……体調が悪くなってしまったのかしら?」
「体調は大丈夫です。鍛え方が違うので。頭はおかしくなっていません」
それでも佳子殿は心配そうに私の表情を伺う。
二人とも私の事を信頼しているけれど、異世界からなんて話は信用できずに困っている。そういう風に見えた。ここまでは予想通り。
「京殿。以前お渡しした指輪。鑑定結果はどうだったのですか?」
その話は結局まだ聞いてなかった。あの後何も言われずに全面協力してもらえていたのだから、偽物とは思われていないと思うのだが。
「それが……まだわからないのよね……」
「わからない?」
「最初に質屋に持っていったら、プラチナを土台に、ルビー、ダイヤモンド……に見えるけど自信がないって、鑑定士がね。それで大学の研究所に回されて……三年たつけど、未だに謎らしいわ。今の所、地球上で今まで発見されてない未知の物質で、科学的に製造不可能な素材……らしいわ」
京殿も困った……という顔で溜息を零す。
「もし仮に……仮によ。明が書いた異世界? が本当だとしたら、地球上に存在しない素材の指輪でも、おかしくはないのだけど……やっぱりありえないわよね……」
どうにも歯切れが悪い。京殿が頼みの綱だったのだが、流石の京殿でも異世界から来ましたは、信用してもらえないようだ。
私は一度丁寧に三人に頭を下げた後、まっすぐに三人の顔を見て言った。
「異世界から来たなどと信じてもらえるとは思えません。それでも確かなのは、私は明さんと共に生きる為に国を捨てて日本にやってきて、もう帰る場所が他にないのです。そして明さんと結婚する為に、定職につかなければいけないと、この二年努力してきました」
二年前。私は何も持っていなかった。戸籍も、仕事も、金もない。京殿や、徳造さんや、武田社長の手助けもあったが、それでも並大抵の苦労ではなかった。
「もし一時の気の迷いだったら、この二年の間に気が変わってたでしょう。明さんも受験勉強で忙しくてずっと会えなかった。それでも諦めなかったし、今でもこうしてどうにか皆さんに理解してほしくて努力しています」
明とともに生きる。それがたった一つの目標で、でもたった一つの宝だ。
「異世界から来た事は信じられなくてもかまいません。でも……明さんと結婚したいという決意だけは信じてください。お嬢さんを私にください」
はっきり言い切ってまた頭をさげた。




