↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームレス王子  作者: 斉凛
王子の休日
PR
15/32

 いくつか料理を食べつつ酒を飲む。ほろ酔いになりながら、明を見てると幸せだな……と思う。

 明は普段表情を誤摩化したりするけれど、食べ物を食べる時はとても正直だ。気に入るとすごい嬉しそうに笑うし、好みじゃないと明らかにがっかりしている。

 明が微妙な表情を浮かべた料理だけをさりげなくつまみつつ、明の話に相づちを打って聞き続けた。くるくる変わる話の展開は聞いていて面白い。

 小説を書いていただけあって、話運びが上手いのだ。自分が元々話し上手でもないので、こうして色々話してくれる方が楽しく聞けて良い。


「エド……大切な話があるんだけど……聞いてくれる?」


 笑顔を引き締めて真剣な表情で突然そう切り出されて、動揺して不安になる。なにか良くない話……なのだろうか?

 どんな話をされても動揺しないように、心を引き締めてから頷いた。


「えっとね……私……医者になりたいの」


 唐突なその言葉にうっかり箸を取り落としそうになる。明に将来の話をされるのは初めてだ。


「元々文系だし、それほど学力高いわけでもないし……かなり無理な目標だと思うんだけど……」

「医者というのはとても難しい仕事だと思うが……この国ではもっと難しいのか?」


「う……ん、そうだね。医者になる為の学校にはいるのも、ものすごく難しいかな。私に向いてない勉強もしなくちゃいけないし」

「向いてない事でも学びたいと思うのは、何か理由があるのだろう?」


 明はとても頭がよくてしっかりしている。浮ついた事で、将来を決めるような事はしない。だからとても真剣に考えているのだと思う。悩んでいるなら親身に聞いてあげたい。

 明は小さく頷いて、一生懸命言葉を選ぶように、ぽつぽつと語り始めた。


「以前は……高校入ったばかりだったし、しばらく遊んで、適当な大学選んで、大学でも遊んで、適当に就職するんだろうな……って漠然と考えてたんだけど……あの世界に行って変わったの」


 あの世界……という言葉を口にして、少しだけ沈黙する。あの時の事を思い出しているのかもしれない。明は自分の人生を変えるような経験をしたのだ。


「あの世界に行って、自分は本当になにもできない、役立たずだな……って。もうちょっと知識や技術があったら、もっと役に立ってお荷物にならなかったのにって……何度も悔しかった」

「それは……明はまだまだ勉強中の身で、しかも世界が違うのだ。仕方が無い事だろう」


「私より年下の朱里だって、しっかりしてたし、剣術だってできたし、年とか関係無しに、努力して覚悟してきた差……だと思う。私は本気で生きてなかったんだよ」

「それは住んでる世界が違う……からだろう。帝国はこんなに平和でもないし、朱里は王族だから、自分の身を守る護身術も必要だった……明が悪いわけでは……」


「それでも私は悔しかったの。だから……どんな世界に行っても、例え地球の裏側に行ったって、誰かの役に立つような仕事をしたくなったの。色々考えたけど、どんな場所でも医者ほど人の為になる仕事はないと思うんだ……だから……なんだけど……私には……やっぱり、無理……かな?」


 明はどんどん自信をなくして、声が小さくなる。医者になりたいという気持ちは本気だと思うが、自分にできるか不安なんだろうという事は伝わってきた。

 明の気持ちもわからなくはない。この世界に来て、自分があまりに無力で役立たずな事に、今私自身が悩んでいるのだから。

 落ち着くように明の頭をそっと撫でて、できるだけ優しく話し始めた。


「明……前に、私がもし王子でなかったら、何になりたかったか? と聞かれて私が職人になりたかったと、言ったな。その時私は夢物語で不可能だと思ってた。でも……今私は職人見習いになれたぞ。人生何が起こるかわからないだろう?」


 明は小さく驚いて、それからかすかに微笑んだ。儚く消えた小さな笑顔が愛おしい。


「そう……だったね。まさかあの時は、エドをこっちの世界に連れてきちゃうとは思ってもみなかった」

「さきほど明が、努力して覚悟してきた差……と言っただろう。明が覚悟を決めたならきっと叶う。もし仮に夢が実現できなくても、努力した過程はきちんと自分に帰ってくる。明なら大丈夫だ」


 明が今にも泣きそうな笑顔を浮かべて、私の手に頬を預けた。自然とこわばった表情が和らぐ。きっと思い詰めていたに違いない物を、吐き出して楽になったのだろう。明の背中を押してあげられたなら……嬉しい。


「ありがと…エド。勇気がわいてきた。エドは……嘘もお世辞も下手だもの。エドがそういうならきっと正しいね」


 嘘もお世辞も上手そうな、明にそう言われて苦笑した。自分でも自覚があるから反論できない。


「あのね……さっきも言ったけど、医者になる学校に入るのも大変なの。まだ……大学受験まで2年あるけど、私の学力じゃあ、今から必死に猛勉強しても受かるかどうかって感じで……だから……エド断ちしようかな……って」

「エド断ち?」


「う……ん。この国でのまじない……かな? 自分の一番大切な物を我慢する代わりに、願いを叶えてもらう……。だから……大学に合格するまでエドと会わない……とね」

「……」


 思わず言葉につまる。明の言った意味はわかる。明の夢も覚悟も理解した。一番大切なものと言われた事も嬉しい。ただ……2年も明と離れる……と言われれば、即座に返事できなかった。


「ワガママだよね……ごめん」

「いや……そんな事はない。それだけ明が将来の為に覚悟してるなら応援する」


「ありがとう……」


 ぽつりと呟いた可憐な声を、明日から聞けなくなるかと思うと気持ちは沈んだが、顔に出さないように我慢した。

ここで恋愛トークはしばらくお休みです。

次から次章はエドの苦難の始まり?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。