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いくつか料理を食べつつ酒を飲む。ほろ酔いになりながら、明を見てると幸せだな……と思う。
明は普段表情を誤摩化したりするけれど、食べ物を食べる時はとても正直だ。気に入るとすごい嬉しそうに笑うし、好みじゃないと明らかにがっかりしている。
明が微妙な表情を浮かべた料理だけをさりげなくつまみつつ、明の話に相づちを打って聞き続けた。くるくる変わる話の展開は聞いていて面白い。
小説を書いていただけあって、話運びが上手いのだ。自分が元々話し上手でもないので、こうして色々話してくれる方が楽しく聞けて良い。
「エド……大切な話があるんだけど……聞いてくれる?」
笑顔を引き締めて真剣な表情で突然そう切り出されて、動揺して不安になる。なにか良くない話……なのだろうか?
どんな話をされても動揺しないように、心を引き締めてから頷いた。
「えっとね……私……医者になりたいの」
唐突なその言葉にうっかり箸を取り落としそうになる。明に将来の話をされるのは初めてだ。
「元々文系だし、それほど学力高いわけでもないし……かなり無理な目標だと思うんだけど……」
「医者というのはとても難しい仕事だと思うが……この国ではもっと難しいのか?」
「う……ん、そうだね。医者になる為の学校にはいるのも、ものすごく難しいかな。私に向いてない勉強もしなくちゃいけないし」
「向いてない事でも学びたいと思うのは、何か理由があるのだろう?」
明はとても頭がよくてしっかりしている。浮ついた事で、将来を決めるような事はしない。だからとても真剣に考えているのだと思う。悩んでいるなら親身に聞いてあげたい。
明は小さく頷いて、一生懸命言葉を選ぶように、ぽつぽつと語り始めた。
「以前は……高校入ったばかりだったし、しばらく遊んで、適当な大学選んで、大学でも遊んで、適当に就職するんだろうな……って漠然と考えてたんだけど……あの世界に行って変わったの」
あの世界……という言葉を口にして、少しだけ沈黙する。あの時の事を思い出しているのかもしれない。明は自分の人生を変えるような経験をしたのだ。
「あの世界に行って、自分は本当になにもできない、役立たずだな……って。もうちょっと知識や技術があったら、もっと役に立ってお荷物にならなかったのにって……何度も悔しかった」
「それは……明はまだまだ勉強中の身で、しかも世界が違うのだ。仕方が無い事だろう」
「私より年下の朱里だって、しっかりしてたし、剣術だってできたし、年とか関係無しに、努力して覚悟してきた差……だと思う。私は本気で生きてなかったんだよ」
「それは住んでる世界が違う……からだろう。帝国はこんなに平和でもないし、朱里は王族だから、自分の身を守る護身術も必要だった……明が悪いわけでは……」
「それでも私は悔しかったの。だから……どんな世界に行っても、例え地球の裏側に行ったって、誰かの役に立つような仕事をしたくなったの。色々考えたけど、どんな場所でも医者ほど人の為になる仕事はないと思うんだ……だから……なんだけど……私には……やっぱり、無理……かな?」
明はどんどん自信をなくして、声が小さくなる。医者になりたいという気持ちは本気だと思うが、自分にできるか不安なんだろうという事は伝わってきた。
明の気持ちもわからなくはない。この世界に来て、自分があまりに無力で役立たずな事に、今私自身が悩んでいるのだから。
落ち着くように明の頭をそっと撫でて、できるだけ優しく話し始めた。
「明……前に、私がもし王子でなかったら、何になりたかったか? と聞かれて私が職人になりたかったと、言ったな。その時私は夢物語で不可能だと思ってた。でも……今私は職人見習いになれたぞ。人生何が起こるかわからないだろう?」
明は小さく驚いて、それからかすかに微笑んだ。儚く消えた小さな笑顔が愛おしい。
「そう……だったね。まさかあの時は、エドをこっちの世界に連れてきちゃうとは思ってもみなかった」
「さきほど明が、努力して覚悟してきた差……と言っただろう。明が覚悟を決めたならきっと叶う。もし仮に夢が実現できなくても、努力した過程はきちんと自分に帰ってくる。明なら大丈夫だ」
明が今にも泣きそうな笑顔を浮かべて、私の手に頬を預けた。自然とこわばった表情が和らぐ。きっと思い詰めていたに違いない物を、吐き出して楽になったのだろう。明の背中を押してあげられたなら……嬉しい。
「ありがと…エド。勇気がわいてきた。エドは……嘘もお世辞も下手だもの。エドがそういうならきっと正しいね」
嘘もお世辞も上手そうな、明にそう言われて苦笑した。自分でも自覚があるから反論できない。
「あのね……さっきも言ったけど、医者になる学校に入るのも大変なの。まだ……大学受験まで2年あるけど、私の学力じゃあ、今から必死に猛勉強しても受かるかどうかって感じで……だから……エド断ちしようかな……って」
「エド断ち?」
「う……ん。この国でのまじない……かな? 自分の一番大切な物を我慢する代わりに、願いを叶えてもらう……。だから……大学に合格するまでエドと会わない……とね」
「……」
思わず言葉につまる。明の言った意味はわかる。明の夢も覚悟も理解した。一番大切なものと言われた事も嬉しい。ただ……2年も明と離れる……と言われれば、即座に返事できなかった。
「ワガママだよね……ごめん」
「いや……そんな事はない。それだけ明が将来の為に覚悟してるなら応援する」
「ありがとう……」
ぽつりと呟いた可憐な声を、明日から聞けなくなるかと思うと気持ちは沈んだが、顔に出さないように我慢した。
ここで恋愛トークはしばらくお休みです。
次から次章はエドの苦難の始まり?




