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ホームレス王子  作者: 斉凛
元王子のジョブチェンジ
11/32

「エド。配達行ってきてくれや」

「は?」


 思わず間抜けな返事を返してしまった。今まで配達を頼まれた事は一度もない。車が運転できなければ無理だと言われてたのだ。


「車……用意しておいたぜ」


 まさか……私でも運転できる車があったのか?

 期待で胸が高鳴りながら店の外に出ると……そこにはリアカーがあった。


「近くの公園で宴会やってるお客さんがいるから、そこに酒運んでくれや」


 リアカーはカーとついていても、車ではないのだ……。

 期待した分だけがっくりしてしまう。そんな様子を見て徳造さんが大笑いした。


「そんな落ち込むなって。この配達行ったら良い事あるぜ。きっとな」


 良い事の意味はわからないが、苦手な接客より配達の方が気楽だ。私は酒を積み込んでリアカーを引き始めた。気のせいでなく、道行く人に生暖かい目で見られたが、動揺しないぞ。

 ケースのビールに、日本酒や焼酎、割物のドリンク。結構な分量なので重い。昔は重い鎧と剣を持って走り回った事を考えると、数ヶ月でだいぶ怠ってしまったな……と実感する。今度時間がある時に鍛錬でもしよう。


 公園につくとそれほど探さなくても、宴会の集団はすぐに見つかった。60前後の年のいった男たち数人が賑やかに話してる。すでに酒も入っているようだ。

 秋も終わりに近づくこの時期に、外で宴会などする人間は珍しい物だ。幸い今日は秋晴れの日差しが温かく、風もほとんどないので外で宴会も気持ちよさそうだ。


「お! 酒来たな。こっち持ってきてくれ」


 宴会客の1人が私を呼んだので、そちらにリアカーを運び酒をおろす。代金は後払いの約束らしいので、酒を置いたら仕事は終わりだ。


「兄ちゃんも一緒に飲もうぜ」


 そう声をかけられて驚いた。酔っぱらいの絡みだろうか?


「いえ……店に戻って仕事しなければ行けないので」

「徳造さんには許可もらってるからさ。ここ、座って、座って」


 そんな話聞いてない……。徳造さんの言った「良い事」というのは、酔っぱらいの相手をすることなんだろうか……と黄昏れつつ、素直に席に座って渡された酒に口をつける。


「徳造さんから聞いてるよ。働き者で頭もよければ顔も良いってな。女子高生の彼女もいるんだろ? 羨ましいな……この色男!」


 思わず飲んだ酒を吹き出しそうになった。

 徳造さん……どこまで話したんだ……。


 初めから逃げ出したい気持ちで、いっぱいいっぱいなのを押さえて、なんとか顔にださないようにした……つもりだ。たぶん仏頂面になっているだろうが。

 常連客相手に粗相があったら店にも迷惑かけるし……なんとか笑顔作れ! と念じ、無理して作ったせいでかなり引きつっていたと思う。


「照れてんのか……見かけによらず純情だな……こりゃおかしい」


 どっと笑い出すオヤジども……これ……いつまで耐え続けなければいけないんだ……。ため息を飲み込んでぐいっと酒をあおる。元々酒には強い方だからこれくらいなら問題ない。

 しばらくからかわれ続けながら酒を飲んでいると、ふと気がついた。1人だけ笑わずにじっと私の事を見ている男がいたのだ。人の良さそうな顔立ちだが、眼鏡の奥の瞳は力強い。苦労を重ねてきた物の目だ。


「エドガー君……だったね」


 その男が沈黙を破って私に話しかけた。


「車が好きだって聞いてるよ。車に関係する仕事をしたいんだってね」

「はい。車に関係するならなんでも。できればコツコツ作る製造系の仕事が希望ですが……」


「そうかい、そうかい」


 なんだか嬉しそうにうんうん頷いて笑っている。とても聞き上手で、私もついつい熱が入って車の魅力を熱く語ってしまった。武田さんというこの男性は、侮れない……ただの酔っぱらいではないと感じた。


「エドガー君。俺と飲み比べしないか。勝ったら……うちの会社で雇っても良いよ」

「は……?」


「うちは小さいけど、車のフレームを加工する会社なんだ」

「え……いいんですか?」


 いきなり降ってわいた話に、思わず耳を疑ってしまった。徳造さんから聞いてるなら、私がビザもパスポートもない不法滞在なのは知っているだろう。それなのに会っていきなりこんな上手い話あるものだろうか?


「うちもね……大きな声じゃ言えないけど、まあ……事情を抱えた外人さんを何人か雇ってるんだよ。今時の苦労知らずの日本人よりよっぽど働き者さ。皆故郷に仕送りしたいんだとさ」


 しみじみと語る武田さんの話を聞くと胸を打たれる物がある。自分と同じように、この国でこっそりと働いている者が他にもいるのか。


「嬉しい話ですが……なぜ飲み比べを?」

「根性を知りたいのさ。徳造さんから性格も仕事ぶりも聞いてる。でもね……最後に物をいうのは根性だ。何が何でもこの国で働き抜くんだって、ガッツがないヤツは根をあげて国に帰ってしまうんだよ。酒が強い弱いは関係ない。限界までどこまでやれるか……それが見たい」


 武田さんのまっすぐに射抜くように見つめるその姿は、息を飲む程力強い。これは負けられない戦いなのだ……。


「わかりました。根性……見せます。なんとしても、貴方の会社で働きたいです」


 そこからは飲み比べといいつつ、相手が1杯飲む間に3倍くらい飲まされた。無茶のみだったが、必死に飲み続ける。

 酔いつぶれる程飲んだ事がなかったから、自分の限界など知らなかったが、朦朧としながらも飲み続けた事だけは記憶に残っている。


 そう…いつの間にか酔いつぶれたのだ。


 目が覚めると公園のレジャーシートの上で寝転んでいた。とっくに日も暮れて星が見える。体に毛布がかけられていたが誰もいなかった。

 起き上がったら何か頭の下に紙があったようで、はらりとその紙が舞った。


 そこには「合格」と書かれていた。

ここまでで一区切り。

次から数回はデート回になります。

1週間に1回くらいのペースでリリースできればと思っています。

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