勇者と小さな島国の物語。(「あすなな」サイドストーリー)
むかしむかし。
西の国より新天地を求めて海に出た開拓者の一団がいました。
彼らは航海の末、豊かな自然に恵まれた小さな島を発見します。
人々はその島を「希望の島」と呼び、集落を作りました。
集落はやがて大きな町となって、母国との貿易を行い大いに栄えました。
ところが、そんな平和もある日突然終わりを迎えます。
ある夜の事。
島は突然現れた一人の魔王によって占領されてしまうのです。
「エターナル」。
それが魔王の名前でした。
魔王は恐るべき力を持っていました。
人間には扱えない「魔法」を操り、抵抗する住人達を力で屈服させました。
島の住人は奴隷も同然な扱いを受ける事となり、昼夜問わず魔王の為に働かされたと言われています。
知らせを受けた西の国の王は大変心を痛めました。
そして魔王を討伐する為、騎士団を希望の島に派遣する事に決めたのです。
騎士団を率いていたのは「アストリア」と呼ばれる若者でした。
彼は若いながらも剣術の才能に優れ、騎士団の中でも一目置かれる存在でした。
アストリアは島に到着すると、住民を開放するために魔王に戦いを挑みます。
ですが…。
魔王の力はあまりにも強大。
屈強な騎士団でも魔王に傷一つ与えることが出来ず、騎士団は壊滅してしまいます。
騎士団で生き残る事が出来たのは、アストリアと親友であるハーフエルフの「ウィゼル」の二人だけでした。
人々は再び絶望の淵に突き落とされました。
騎士団の力をもってしても魔王にはかなわなかった。
我々は死ぬまで魔王の奴隷として生きるしかないのか、と。
しかしアストリアは諦めていませんでした。
彼はウィゼルと共に魔王を倒すための力を求め旅に出ました。
そして旅先で出会った「金の魔女」と名乗る謎の金髪の女性に導かれ、人間界とは別の世界である「精霊界」へと達するのです。
エルフが住まう「精霊界」においても魔王軍の侵攻は始まっていました。
魔王軍はエルフの里の長老の孫娘「メルティナ」を人質とし、里の者達に魔王の傘下となるよう迫っていたのです。
話を聞いたアストリア達はすぐさま魔王軍の拠点を襲撃し、拠点の長サルゴン将軍を倒しメルティナを救い出すことに成功しました。
エルフ達は人間の勇者に大変感謝しました。
そして彼らの旅の目的を知ると優れた魔術師であったメルティナを彼らに同行させ、魔王の魔法を封じる事が出来るという"封印の珠"を託したのです。
アストリア達は更に旅を続けます。
再び金の魔女の助けを借りた彼らは苦難の末に、魔王を打ち滅ぼすとされる"光り輝く聖剣"を手にする事が出来たのでした。
これで準備は整った―――。
アストリアはウィゼル、メルティナ、金の魔女の三人と共に魔王エターナルに再び戦いを挑みます。
彼らは島の中心にそびえ立つ魔王城にて魔王の腹心たちを次々と撃破し、遂に魔王と相対します。
魔王エターナルは喜びに打ち震えていました。
『待っていたぞ。ようやく我が高みに達するものが現れた。』と。
魔王は自分と並び立つ強者とのギリギリの戦いを欲していたのです。
そのあまりに強すぎる力の為、自分に立ち向かう強者にこれまで恵まれなかった魔王にとって、勇者との戦いは格別なものだったに違いありません。
戦いは熾烈を極め、一晩中続いたと言われています。
そして―――。
封印の珠にて魔法を封じられ、光り輝く聖剣で心臓を貫かれた魔王は遂に地面に膝を突きます。
決定的な一撃。
致命傷。
滅びるのは時間の問題でした。
しかし。
それでも魔王は笑っていました。
魔王が人間界の支配に乗り出した理由。
それは『ただの退屈しのぎ』だったと言われています。
魔王には『永遠の命』の呪いがかけられていました。
他人に殺されでもしなければ、死ねない身体――。
永遠に続く退屈で無為な時間を過ごしていた魔王にとって、
勇者との戦いの日々は相当刺激的なものだったのでしょう。
だから、魔王は笑ったのです。
初めて得た「死」の感覚に、心の底から満足していたから。
支配者である魔王が倒れたことで、魔王軍は魔界へと撤退していきました。
こうして希望の島に再び平和が訪れたのです。
島の住民たちはアストリアらを讃えました。
そして自分たちを救ってくれた勇者を国王として推挙し、人間の国を作ったのです。
王となったアストリアはやがてメルティナと結婚し、ウィゼルの助けを借りて荒廃した島の復興に尽力したと言われています。
国の名前は「アストリア王国」。
偉大なる勇者の名前を受け継いだ、小さな島国の物語。