○月 ○日
彼らは遭遇し、家族宣言した後、彼が住処にしている洞窟に帰ってきた。
「あの。」
「うん?」
「私は貴方の事をなんて言えば良いですか?」
「フム…」
彼には名前が無かった。それは親と言える者が居なかった事もあるが、何よりも彼自信の出生に問題が有るからだ。
「我は魔物だからな、そもそも名がない。」
「魔物だったんですか!?」
「そうだが?気づかなかったのか?」
「はあ、全く気づかなかったですよ。」
「おお、そうだ、娘の名も聞いてなかったな、娘、名はなんと言う。」
「結構自由何ですね…私の名前はセレナです。6歳です。」
「6歳か、六年生きている、と言うことか。そうなると我は…何歳かの?」
「さあ?」
ちなみに、彼の年齢は約400歳程である。彼の様に知性があり永く生きた、ほとんど人間と見分けのつかない魔物を魔人と言う。人間側では魔人を亜人とするか、魔物とするか、決めあぐねている時期である。
「せっかく家族になるんでしたら、無難にお父さんで良いですか?」
「フム、“お父さん”か…確か、種のオスの方と言う意味だったか?」
「と言う訳で、お父さん。」
「うむ、なんだ?」
「お腹が空きました…。」
「わかった。用意しよう。」
そしてここで最初の壁、食の違いである。
「一応、人間が落とした本に在った、人間の食べられる肉が有るが…。」
「人間は生だとお腹を壊しますね。」
「そうか…旨いのだが…残念だ。」
「火を通せばまあ、食べられると思います。」
「肉を焼くのか、成る程、試した事は無いな。」
「美味しいですよ?やりましょうか?」
「出来るのか?」
「焼くだけですし、手伝った事も何度か有ります。」
「ウム、任せた。」
「……そうだ、調理道具は…無いですよね…。」
「ちょうり道具?なんだそれは。」
「このようなお肉を加工する道具です。今回は焼くだけなので…持つところが付いた鉄板みたいなのが有れば。」
「ウム、今から作ろう。そこの箱に木の実がある、人間も食えるから食っておれ。」
「はい、わあっ!林檎ですか!」
「りんごか…その木の実はりんごと言うのか。」
そして彼は「りんご、りんごか…」と呟きながら何処かへ行った。どうやら彼は、りんごと言うフレーズを気に入ったらしい。
そして少女、セレナは「やっぱり面白い人…?」と再認識した。
それから十分程で彼は帰ってきた。
「こんな物で良いか?」
彼が取り出したのは、丸い鉄板に木材のカバーが付いた鉄の棒が引っ付いた、正しくフライパンであった。ご丁寧にガラスの様な蓋付きで。
「人間の落とした本の中に在った物にこんなものが在ったのでな、参考程度してに作った。」
「本をよく落としますね、その人。」
「何もせんのに泣きわめいて本の入った鞄を我に押し付けてな、返そうとして追いかけたら、「来るな!」と言われてしまってな…あれから何年経ったかは知らんが、文字と言葉を覚えた。」
「言葉なんて何処で覚えたんですか?」
「昔、人間がよく鉄の服を着て大量に遊びに来たからな、一人引っ張ってきて教えて貰った。」
「そうですか…(遊びに…?)」
「ほれ、そんな事より、料理とやらをしてくれ、人間は魔物と違って食べぬと弱るからな。」
その日、ただ焼いた肉を食べて、その美味しさに彼が驚いたのはまた別の話。