プロローグ
告白すると、私が私だった人生は、きっと五歳までの僅かな期間しかなかった。
けれど、その五年間は決して充実したものなんかじゃなく、むしろ忘れ去りたい思い出しかない。
それ以降はずっと探していたように思う。人らしい生き方とか、人らしい振る舞い方とかを。
でも結局、それを見つけることは出来なかった。全部が偽物で、ハリボテのように中身がスカスカな人生になってしまった。
今ここにいて、それを実感している。実を言うと、とっくの昔に感じていたけれど、私はそうして足掻くような生き方しか知らなかったから、変えることはできなかった。
だからこそ、私が私だった確固たる人生は、たったの五年しかなかったのだ。
――遠くに見えるあの光はきっと、仲間達との絆の証。
命の灯火であるかのようにうねり、揺らぐ煌き。
ゆらゆらと揺らめくこの星の、その光の波を、それ以上の感慨は浮かべることなく見ていた。
ただ一人、孤独に。
それに気付いた瞬間、隣にあの人が居てくれれば、なんて思ってしまった。
我ながらどうかしてる。もうその姿を見ることは叶わないのに。その可能性を消したのは、紛れも無く自分なのに。
この世界からあの人を消したのは、私なのに。
でも何でだろう。今のこんな状況で、頭に浮かぶのはあの人のことばっかりだ。
いつの間にか惹かれていたのかもしれない。真っ直ぐなその姿に。
でも、そんなのに気づくのは、もう遅すぎた。
あの時こうしておけば、なんていう後悔は、大抵どうしようもなくなった時にしか感じられないもので、事実、今になってもこの状況は受け入れたくなかったりしてる。
でも、いい。これでいい。
これは私の望んだ結果。私が進むべき道は、この先にある。
この日、この場所で、私は願う。
世界のためにだとか、地球のためにだとか、そんな大それた話じゃない。
ただ、私のために願う。
自分勝手で、それでいて今までの自分を否定する願い。
でもいいんだ。何も考えずにここまで来たわけじゃない。
これは罪滅ぼし。
決して報われることはない、裁かれることもない罪を。
どうか消して下さいと、私が私のために願うのだ。
ここまで届く轟音に耳を澄ませる。まるでこの星が歌っているかのようだ。
じゃあ私も、声高らかに歌おう――この生命を燃やしながら。
星に、願いを。
世界に、願いを。
ふと見上げる。
流星のような白い筋が、空へ向かって幾つも落ちていく。
次々と、まるで空の中に溶けていくように。
――落ちて、落ちていく。
ああ、綺麗だなぁ。
「綺麗、だなぁ……」
漏れ出た言葉は情けないほど枯れていて、そんな声につられてか、涙まで出てきてしまった。
不意に出たことで反応に遅れ、落ちる雫を弾きながら慌てて目を覆う。
駄目だ駄目だ、こんなことじゃ。
荒々しく涙を拭いた。後悔なんてしちゃダメなんだ。受け入れなくちゃいけない。
――ゆっくりと目を閉じる。
これで、私の見える世界は、まぶたの裏に映る暗闇だけ。私の知っている世界は、果てのない闇に変わった。
音に混じって聞こえる、微かなあの人の声。幻聴。
それを最期の褒美だと受け取って、少しだけ口角を上げながらも、私は私であることを失くしていく。
消してしまいたい罪こそが、私という存在そのものだったから。それを消すことは、私を失うことだから。
さあ、お互いこれで最期だ。
だから、叶えて欲しいんです。
星よ。
世界よ。
――どうか、私のエゴを……叶えて下さい。