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果て、奥底、裏側へ

 道路の白線の上を歩く。横断歩道も白線の上をはみ出さずに渡る。

 くだらないと思うだろう。けれど、僕は小さい頃からやっている。小さいころからのルールなのだ。

 僕は決して踏み外すことはしないし、踏み忘れることもない。

 踏み外すこと―――それは即ち、”落ちて”しまうからだ。真っ黒なコンクリートの裏の奥の奥底へ落ちる。白線は唯一の正しい道なのだ。

 普通の人でも遊び気分でやる人はいるだろうが、僕は違う。これは綱渡りなのだ。文字通り、命を懸けているのだ―――――。


 夕方。いつもの帰り道。側道にセダンの車が停まっている。この家の住民が一時停止しているみたいだ。玄関前で二人の主婦が立ち話をしている。

 問題なのは、この車が僕の道を塞いでいることだ。馬鹿が。

 僕は車の前で止まると、玄関にいる主婦を両方とも睨みつけた。

 何分か経つと、一人の主婦が僕に気付き、耳打ちした。すると両方ともが怪訝な顔つきをして僕を睨んだ。僕も睨み返すと、一人の主婦は勢いをつけて玄関の扉を閉め、もう一人は足早に車に戻り、急発進した。

 ようやく、これで安心して進める。


 もうすぐ、僕の家だ―――と、思った瞬間、前方に小学生くらいの子供が見えた。……嫌な予感がする。

 その子供は、あろうことか、必死にバランスを取りながら白線の上を進んでくるのだ。嫌な予感は的中していた。

 僕は当然、譲るつもりはない。ゆっくりとした歩みを止めることはない。早く退け、退いてくれ、退けよ……!

 願いは届くことなく、お互い、至近距離で足を止めてしまった。……最悪だ。


「お兄ちゃん、退いてくれる?」


 更に最悪なことに、とんでもないことを言ってのけた。こっちの台詞だ。しかもこっちはお前なんかのくだらない遊びじゃない。


「ねえ、お兄ちゃん、僕、この上を歩かないとダメなんだよ。ねえ、ねえ!だからさー!」


 間延びした声にイライラする。怒りが沸々と湧き上がる。

 子供が僕の腕を掴んだ瞬間、もう抑えきることができなかった。僕は子供をおもいきり殴りつけた。未だ白線の上で蹲って泣き叫ぶ子供を蹴り上げる。

 ようやく、僕の道ができた。ほら見ろ、お前は白線から外れても落ちないじゃないか。

 背中でどんどん小さくなる子供の悲鳴を聞きながら、僕は歩き出した。

 ここの十字路を超えれば僕の家だ。

 本当に良かった。今日も生き延びることができた。

 横断しようと、歩き出した瞬間、僕の身体は光と大きな衝撃に包まれて、宙に舞っていた。


「え―――――?」


 時間が、感覚がゆっくりと進んでいく。何が起きたのかわからない。一瞬だけ見えたのは、あれは、バイク。まさか、バイクに―――?

 ああ、それよりも。このままでは、このままじゃあ、僕は。僕は白線から、外れてしまう。白線から外れたら。嫌だ、嫌だ、嫌だ―――――!



「ああっ!やっべぇ、くそ、轢いちまったか!何てことだ……あああ……。」


 悪態をつきながら、バイクが止まる。男はバイクから降りずに、瞬間的に閉じていた瞼を開いた。


「し、死んじゃったかな……って、あれ……?誰もいない……。」


 その道には誰もいなかった。背後も確認してみるが、何もおかしいところはない。綺麗な道だった。


「は、はは、良かった……。勘違いかなぁ……最近疲れているからなぁ。気をつけないとな―――。」


 男は安堵のため息をつくと、バイクを発進させた。法定速度よりも遅く、進んでいく。

 そのタイヤが白線から踏み外すことはなく、ゆっくりと進んでいく―――。


こだわりは時には迷惑にもなりますね。


誰にも負けないこだわりがある方は、ぜひとも感想をよろしくお願いします。辛口批評もお待ちしております。

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