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手紙

 あの人、自分の素と会ったのは、ただ一度だけ。

 幼すぎた俺は、どこかのおじさんが笑いかけてくれた事しか覚えていなかった。


 あの手紙がくるまで、俺は捨てられた孤児として施設で育てられたし、自分でもそう思い込んでいた。

 だから、あの人が里親として俺の前に現れたとき、純粋に喜ぶことが出来た。資金援助だけの親であっても、二度と会うようなことがなくても『ありがたい』以外に思うことはなかった。

 義務教育を終えるまで施設で暮らし、その後はアパートで一人暮し。

 それまでの間、あの人が会いに来てくれた事は一度もなかった。

 時が流れるうちに、『ありがたい』存在であるのに、どんどん薄れかかっていた。

 あの人の事よりも見えない将来を考えるようになった時、一通の手紙が届いた。

「………」

 忘れもしない、高校3年の夏休み。

 忘れかけていた存在に、俺は扇風機もかけずにそれを読んだ。

「…何だよ、これ」

 日増しに強くなってくる太陽は手紙に書かれた文章のように、容赦なく俺に嘲笑していた。

 流れ出る汗と共にくる不快が、夢でない事を証明していた。

「そんな…俺は、俺じゃないのか」

 口から出たその言葉を後に、しばらくの間、自分が何を言って、どこに行き、何をやらかしたのか覚えていない。

 よく捕まらなかったと思うよ。

 正気に戻った時、俺はどこかの川原にいた。

 そして狂ったように笑っていた。

 その笑い声が止んだ時、辺りが静かになったら。右手が痛み、血が流れていた。

 どこかで怪我をしたのか、それとも自分で傷つけたのかすらわからない。

「…血が、流れている」

 手が痛い事を知って、自分が生きている事を知った。

 ここで死んだら、全てが終わってしまう。

 今まで生きていた事が全て台無しになってしまう。

「そんなの冗談じゃねぇ…」

 俺は立ち上がり、帰路を捜すことにした。


 自分の正体を知って、ここに来るまで1年の時を必要とした。



 順谷へ

 選択は、お前にある。

 もし、この門をくぐる気があるならば、お前を王子として認めよう。



 もらった手紙の一部にそう書いてあった。

 でも。姿を見せない、あの人は俺を後継者として考えているのかわからない。

『王になる資格のある者のみ、それを見つけ、かぶることができる。

 この国の王は、王冠をかぶった者の物となる』

 あの人は、色々な手を出している。

 あの人からの伝言は、シュクシャの主人でも王になれる事を指していた。

 シュクシャや2BDの主人…。俺には知らない存在だけれども、あの人は知っている。

 あの人は一体、何を考えているのだろう…。

 俺にはこの国を守るため、誰を王にするのか試そうとしているように思える。

 どちらが、この国の王としてふさわしいか…。

「………」

 あの人は、王座に座らせるためだけに、俺を作った。

 クローンとして生まれた俺にとって、王座に就く以外に選択の余地はない。

「………」

 なぜ、反発しないだと?

 なぜ、新しい人生を切り開かないかだと?

 どうやって?

 今の俺にそんなエネルギーなどなかった。

 自分の身の上を知って、それを受け入れるだけで精一杯だった。

 今の俺は、ここの王座につくいがい、何も考えられないんだ…。

「……………」

 王冠を手に入れることだけ、今は考えるしか…。

「………」

 俺は空を見上げた。

 月は、闇の中で光を見せつけていて、周りの星々を圧倒させている。

 あの人のように…


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