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ウエストルム・キングダム  作者: 楠木あいら
ロボットの遊園地
7/26

秘密


 工場のメインルームは、無音と化したものの、再びロボットの声が響き渡った。

『送信終了しました。

 順谷様。あなた様を正式に後継者と認証した所で、私の名前の理由をご説明いたします』

「名前の理由…ですか?」

 工場の管理機械でアネシスやエムカさんみたいに動けるボディがないから、『王の口と手』なんて言葉が名前なんて変わっているなと思っていたら、理由があるらしい。

 『手』はロボットを製造するからわかるけれども。

『はい。

 後継者が変わる時、ウエストルム・キングダムに存在するすべてのロボットに書き替え作業を行なわなければなりません』

「アネシスちゃんたちコンダクターもそうだけれども、どのロボットも、お客様を別にしてボスの命令によって動いているの」

「そのボスが変わるとなれば、新しいデーターを上書きしなければなりません。

 あまりにも書き替えなければならないロボットが多く、『王の口』という存在が必要になるのです」

 それが『口』の理由。

『この建物の屋上に、切り替えを行なうだけの装置があります』

「次は、そっちに行くんだね」

「ええ」


 その予定は地上階についた時点で変わった。

「スィージィ?」

 ぴたりと足を止めたアネシスは天井を見上げ、見えない相手と会話を始めた。

『アネシス。建設現場からプレートを失った新たなロボットの残骸が発見されたわ』

「シュクシャが動いたって事?」

 アネシスが声を出して返答してくれた事により、俺らは危険を感じ取ることが出来た。

『失ったプレートナンバーはバッテレイン-0028

 検索の結果、そのプレートが建設現場から勇敢施設を横断し、廃棄場経由で移動中。

 もし、昨日の未確認ロボットならば」

「こっちに、向かっていることね。わかった。すぐにアネシスのロボットで、問題プレートをつけたロボットを追跡、捕獲、回収させるね」

『くれぐれも遊園施設で事を起こさないように』

「わかってるって」

 天井から視線を落としたアネシスは口を閉ざし、声に出すことなく命令プログラムを放った。

「OK、じゃあ、次に…」

 とりあえず処理をしたものの、すぐに問題が起きたらしい。

 再び足を止めたアネシスは天井を向いて会話を始めたのだから。

「そっしぃ。回収ロボットをお願い。大丈夫、遊園施設から出た所だから。アネシスが行くまで数は増えるわね」

「アネシスも行くの」

「シュクシャの奴。昨日より強くなっているみたいなの。というわけでエムカ、アネシス出かけるから順谷を見ててね」

 見ててねって、子供じゃないんだから。

 と、訴えたかったけど事が緊迫しているだけに言えなかった。

「アネシス。気をつけろよ」

「大丈夫よ、順谷。そいじゃ、王の口と手も出入り口、ぴったりと閉めておいてね」

『了解』

 アネシスはにぃと笑うと元気に駆け出していった。

 まるで遊びに行く子供のように、アネシス自身に緊迫した気配は見当たらなかった。

 王の口と手が長い通路の先の扉を閉めると、無音の空間となってしまった。

「…………」

 ここには音どころか、窓もないから外の様子を伺うこともできず。ただアネシスか王の口と手か、他の誰かが『終了』と宣言するまで待つ以外、何もできない。

「アネシスならば心配ありませんよ。彼女はウエストルム・キングダムでは最強の機能ですから」

「はぁ」

 別にアネシスの事が気にならないわけじゃないんだけれども、何とも間の抜けた返事になってしまった。

 というより、アネシスが的に負けたり重傷を負うなんて想像できないだけかもしれない。

 それと…元気いっぱいで人に甘えるタイプのアネシスが『最強』で、真面目な顔をして戦う姿が想像できなかった。


 それから数分の時がながれた。

 何もしないで待っている分、それ以上に長く感じた。

 もし、ここにいるのがエムカではなくアネシスだったら時の長さを感じなかったろう。疲れるのは確かだけれども…。

 エムカさんが黙っていたのにも理由があった。

「こういう時に、こんな事を聞いてもいいのか…」

「おじさんの事ですか、別に構いませんよ」

 ロボットとはいえ、エムカも気になっていたらしい。

「ボスは以前、順谷さんのお父様の弟にあたると聞きましたが」

「それは周りを納得させるだけの、言葉にすぎません。正式には『おじさん』と呼べる間柄ではないんですよ」

 苦笑する順谷さんを見ればアネシスでもわかったことでしょう。

 その苦笑がただの苦笑には見えないことも…。

「あの人は、俺をここまで育てるために援助してくれた方です。でも、記憶に残るほど会った事はありません」

「……。そうだったんですか」

 無言の間にエムカは、声に出さずこう聞いていたと思う。

『それなのに、後継者の道を選んだのですね』と、

 いや、本当に思ったのかはわからない。でも、俺にはそう聞いているように思えてならなかった。

「おじさんの恩を返したいし。でも、一番の理由はここに興味があるからです。ロボットしかいない遊園地なんて、ここだけですし」

 だけれども、心の奥底には別の言葉もあった。

『今の俺に、選択の余地はない』と、

「…そうですか。私たちにとっては、嬉しいことです」

 にこっと笑ってくれているのに、奥底の言葉のせいで素直に喜ぶことができなかった。

 風が俺の横を通り過ぎて、俺達の会話はここで終わった。

「え…」

 それから何か、黒いものが一瞬だけ見えた。

 虫?いや違う。

「王の口と手。侵入者よ」

 同時に気づいたらしく、エムカさんは言葉を放った。

『場内特別セキュリティロボット作動』

 エムカさんの声に反応した王の口と手は高すぎる天井に閉まってある扉を開いて、何かを放ったらしい。

 落下してきた黒い物体は人間の膝ぐらいの大きさしかなかった。

 男女の区別がつかいないボディラインに、ぴったりとした黒い服を身に付けたロボットたちは皆、同色の短髪をしていた。

 セキュリティ・コマンダー、アネシスと似た顔を持っていたけれども表情の変化はなく、どれも個性というものがなかった。

 落下してきたはずのセキュリティロボットたちだったけれども、床にたどり着いたのは一体だけで、他のは身をくねらせて一体は、壁にはりつき。別の一体は、メタル色に覆われた円柱型の物体、ロボット製造機にたどりついた。

 個性のないロボットだけれども、同じ行動をとる者はいなかった。

『ピピッ』

『ピッ』

 十数体はいるロボットたちは、製造番号の違う仲間たちに電子音を鳴らして、合図を放っていた。

 ピピッと音がするたびに、一体が突然角度を変えて跳んだりしてるから、そうだと思う。

 侵入者を捕獲するために計画をたてているのだろうか。

 ロボットたちは、その動きを止めることなく、バッタのような跳躍を繰り返し不法侵入者に向かっていた。

 パシッパシッと天井や壁、床を蹴る音がリズムのように聞こえ、鳴り止むことなかった。

「本来、ウエストルム・キングダムのロボットは、コマンダーの指揮に従いますが、ここの子は別なるんです」

 跳びはねるロボットたちを見守るながら、エムカさんは説明してくれた。

「ここに待機するロボットは王の口と手の指示を優先に従います。王の口と手は王の代理人という権限をもっていますので」

「権限、ですか」

「はい。この国の王が替わる時、載冠式の事ですが。その時、この国にいる全てのロボットに新王のデーターを書き替えなければなりません」

「その書き替えをするのが王の口と手なんですね」

「はい。重要な役割とロボット製造の管理をする以上、他のコマンダー・ロボットの指示を頼りに動かすことはできません」

「そうですね」

 エムカさんが説明してくれている間も、小さなセキュリティロボット達は、ポップコーンやスーパーボールのように脚についた壁や床を蹴り、黒い物体に向かう。

 ロボットの跳びはねが、ほとんど頭上高い所で行なわれている事からして、黒い物体は天井近くを飛び回っているらしい。

『順谷様およびエムカ-1。侵入者は3センチの黒色をした球体です。

 今のところ武器の使用。爆発物等の使用、または使用する気配はありません』

『レーザーだけが武器だけではないぞ』

 王の口と手の言葉を待っていたかのように、頭上から笑うような声が聞こえた。

『我は2BD。シュクシャと共に女王に使える一体』

 2BDと名乗る球体は、挑発するかのように進路を変えて、落下を始めた。

 浮力をなくしたかと思うほどの速度で床に向かい、触れる寸前でU字を各課のように上昇し、小さなロボットたちもバッタのように床を跳びはねていった。

「シュクシャ側のロボットですって?正式プレートが失ったのは一体だけ。それに、ここはボスないし王の口と手から許可のないロボットは入れるはずがない」

『でかいボディをしたロボットならばそうだろうけど。3センチしかないロボットになると話は違ってくるぞ。機能停止し、確認させた正式ロボットないし人間にくっつければ、その者の一部または装飾品とみなされる。

 現にそうして入ってきたのだからな』

「………」

 セキュリティ機能の視界をついた行動にしばし言葉が出なかった。

 その沈黙を破ったのは小さなロボット達だった。

 ピピッと音をたてて一体が2BDを目の細かい網に包んだのだから。

「盲点をついたとはいえ、抵抗力がなくては意味がないわね」

 呆れた声を放ったエムカさんに対し、2BDは軽く、短く笑った。

『捕えられるために、侵入する愚かな機械だと思っているのか。

 さっきも言ったように武器は爆弾だけではない。我の武器は言葉だ』

「言葉…ですって」

『そう。情報だ。我が主人が知っている。人間やロボット達が封印している、知られたくないデーターがある』

「…。それを脅しの材料にして王座に就こうと目論んでいるわけ?」

『我が主人は、そこまで落ちぶれていない。我が主人が狙う野はデーター公開による『混乱』だ」

「…。王の口と手。2BDの処理命令を」

 混乱の2文字を聞いたエムカは、鋭く言い放った。

「………」

 その横で俺は…うつむいて、必死に表情を消そうともがくことしか出来なかった。

『そう。我が主人は、全てお見通しだ、人間よ』

「……」

 ロボットたちの視線が向いた気がした。

 人の目を持つロボットだけではなく、エムカまで。

 しかし、エムカはロボットだった。

 向けていたと思う視線があったものの

『ウエストルム・キングダムの危険物と見なし、破壊命令を出します』

 と宣言した直後にプログラムをセキュリティロボットたちに放ち

 グジャという、2BDの表面に使用していたと思うプラスチックと金属が潰れる雑音が響いた。

「………」

 2BDが砕かれ、俺はわずかな息をついた。

 僅か…そう僅かな量だけ。2BDは言わなかったものの、疑惑だけは…

『ふははははっ』

 冷水をかけられた気がした。

 そんな馬鹿な。目の前にいる物体は二度と音声を出せない状態だ…。

『その顔からして知っているようだな』

「…どこにだっ。まだ、いるのか」

 不法侵入したロボットが一体だけとは限らない。目の前にいるセキュリティロボットと同じように。

『恐いか?自分の出生を暴露される事が。お前は、』

「黙れっ」

『王のクローンだと知られるのが』

「黙れー」

 力いっぱいにさけんだ俺は風を切る音を耳にした。

 物事に動じる機能のないセキュリティロボットが手にしていた武器を放ち、新たなる2BDに当てた。

 命中した機械は者と化し、前方に落下した。

 床に叩き付けられる音と共に、俺は座り込むことしかできなかった。

「ははっ…は…」

 乾いた笑いが途絶えると、空間は無音と化しロボットたちは誰一人、口を利くことはなかった。

 というよりも、今のロボット達は離す必要がないからだ。

 誰かに問われているわけでもなく。プログラム命令する必要もない。

「順谷さん…」

 いや、ただ1人。感情という機能を持つエムカは、手を俺の肩に乗せて、しゃがんだ。

「大丈夫ですよ、順谷さん。ここにいる子たちは偏見というものを持ちませんし。ボスに頼めば、ここであった事、全て削除することができます」

「………」

 『機械』という言葉が浮かぶしかなかった。

 肩にあるエムカさんの温もりだけが、傷心した俺を優しく包んでくれた。

「…。エムカ」

 でも俺は…その温もりを離して立ち上がった。

「おじさん…あの人に会いたいです。スケジュールの調整をお願いします」


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