誘拐
「そっしぃの大間抜け。本物の誘拐犯に手を振ってどするのよ」
「そういう姉さんこそ、どうして気づかなかったんですかっ。あんなに凹凸のはげしいロボットをボスが工場に許可して作らせるわけないじゃでてすか」
二人は言い争いながら、とにかく連れ去れた方向を走った。
『アネシス-1が命令する。
活動している全てのセキュリティロボットは、未確認ロボットを捜しだし、報告及び追跡するように』
『ソシエゴ-1が命令する。
活動できる全ての衛生ロボットは、未確認ロボットを見附だし次第、報告するのように』
それぞれのプログラムを放ってから、2人は仲間に通信を始めた。
『ねえ、スィージィ。本当に未確認ロボット見当たらないの?』
『全然』
『…それって変ですよね。スィージィさんが管理するカメラと。僕達コンダクターロボットが命令わだせば関係しているすべてのロボットの目が監視カメラとなるのに…』
『でも、ソシエゴ。順谷様を連れ去ったロボットが未確認ロボットじゃなければ、どうかしら』
スィージィの言葉に2人の足はぴたりととまっ。
『どういう事、スィージィ。まさか、誰かが裏切って、ボスに抵抗するロボットがいるって事?』
『馬鹿な事を言わないで下さい、姉さん。僕たちウエストルム・キングダムに認定されたロボットがボスに半期を翻せると思っているんですか?』
『プログラムを無視できるロボットなんて存在しないわ。考えるとすれば、それ以外の可能性ね』
『どんな事?』
『コンダクター以外のロボットは来ている制服はほぼ同じ。エムカの区別できるように作られたサービス業務以外のロボットは顔、体格も変わらない。
桁が多くなれば増えていくロボット一体、一体を見分ける方法はただ一つ』
『首の下につけているプレートですね』
『コンダクターはともかく、桁数の多いロボットとなると。プレートに刻まれている数字、バーコードを読み取るしか、区別はできない。
そのプレートさえ、あれば外見がどんな形でさえ、プレート通りのロボットと認識できるのよ』
『じゃあ、今のロボットは、誰かのプレートを奪ったってことですか』
『スィージィ。昨日、いやそれ以前にプレートの再発行、もしくは廃棄処分したロボットは?』
アネシスの問いにプログラム実効場所にいるスィージィは一度、目を閉じた。
再び、その目が開く数秒の間で、自分の管理するネットワークに繋ぎ、情報を引き出した。
「ここ、一か月、廃棄処分のロボットはゼロ。プレートの再発行したロボットは…エムカ-03421』
俺を軽がると持ち上げるロボットは首から紐をつけたプレートをさげていた。
「MKAえっと…」
左右、上下に動きながら小さな文字を読み取るのは困難に近かった。
読み取りにくい原因は、さらに一つ。
…柔らかい。
エムカさんと違い、鉄のように冷たいけれども人間と同じ柔らかさがあった。
小脇に抱えられて、上を見れば大きな胸が、下をむけば露出努の高い脚が…
…俺にどうしろというんだ。
回答は、それから数分とたたなかった。
敷地内だと思うんだけれども、アトラクションからだいぶ離れた、薄暗い場所まで跳び終わると、そのロボットは腕を離し俺を物のように落としたのだから。
「って。って、何するんだよ」
「お前が大累順谷だな」
「名前を確かめず連れてきたのか」
連れ去られたのに、アネシスとソシエゴの二人が追ってくる気配がないのと。ソシエゴが呑気に手を振っていたことに気になるものの、連れ去ってきた以上、自分の身に不安がつのり、口調も喧嘩腰になってしまった。
「お前が大累順谷だと証明するプレートがない。コマンダーロボットにいた者をターゲットと確認するしかなかった」
…ならば、ここで『人違いです』と言えば、開放してくれるのかな。
「名前を聞いた時点で否定しなかった事により、肯定したと判断する」
言おうとした寸前、釘を打たれてしまった。
それにしても連れてこられた、この場所は。かなり人目に付かない奥なんだろうな。
俺たちの周りには、何かのアトラクションで使われたと思う鉄の柱や、錆ついた乗り物、そのものが無造作に置かれていた。
一時的な物置きか廃棄場所になるんだろう。
「ここは、ロボット以外の機械の一時置き場だ」
辺りをきょろきょろしていたせいか、俺の考えている事に気づいたらしい。
「役目を終え、鉄の柱だろうと乗物だろうと粉々に壊され、新しい鉄となって再利用される。鉄のリサイクルというものだ」
俺を見下ろすロボットはニヤリと笑った。悪寒が走った。
「それで、俺を何のために連れ去ってきたんだ?ここの王様の甥だけれども、身代金目当て?」
「私はシュクシャ。我が主人に命じられるままに動いただけのこと」
「主人って?」
「マスターはマスターだ。それ以外、誰でもない」
本気で言っているのか、名前を言えないのかわからないが、それ以上のことは聞き出せないようだった。
「お前に危害を加えるつもりはない。私の問いに答えれば」
それって答えなければ危害を加えるって事か?
「言っておくが、学校で学んだこと以外、何も答えられないからな」
「そんな知識などいらぬ。私が聞きたいのは『王冠』の場所だ」
「王冠?」
「この国の王となる者が手に入れる者」
「ならば、おじさんの頭上にあるんじゃないのか」
「………」
俺の答えにシュクシャというロボットは鋭い目で見下した。
「知らないようだな。ならいい」
「じゃあ、戻っていいんだな」
「そうはいかない。お前が知らなければ、次の実行に移す。お前をマスターの所まで連れていく」
…やっぱり、そうきたか。
シュクシャを腕を伸ばし、俺を再び小脇に抱えようとした。
冷たいけれども、目のやり場に困る格好に大きな…。
一瞬、そのまま連れ去られてもいいかなと考えてしまった、男の情けない性分に嫌気がさした。
もちろん、抵抗の一つとして伸ばした手を左に避けて背後にあった鉄の欠片を投げつけた。
それから逃げ出したものの、黒い一風が俺に吹きつけて、なす術もなく持ち上げられてしまう。
「無駄なことを」
確かに人間離れした(ロボットなのだから当然なんだけど)相手と正面からやりあうなど無駄でしかなかった。
限度の越えた挑戦とはいえ、抵抗すらできない自分が情けない。
再び高く飛び上がると思っていたシュクシャは、右に大きく跳んだ。
左側で大きな物音がしたのは、その後だった。
「無駄とは、お前の行動を指すのだ」
その声は物音がした方向から聞こえた。
とはいえ、いくら首をその方向に向けても俺の視界からでは、姿を確かめることはできなかった。
「ふん。汚れた王に使える番犬か」
「ボスを愚弄するとは、いい度胸だな蛮族の分際で」
怒気のある低い声は、ソシエゴでもアネシスでもエムカさんのものでもなかった。
シュクシャは大きく跳んだ。…もちろん、俺も道連れに跳ばされている。
跳んで、間近に迫った新たなロボットに蹴りをいれる…俺を抱える左の脚で
蹴りは空を切り、いや、相手に足首を掴まれた。
しかし、巻き込まれている状態にとっては、ヤバイ以外の言葉ない。シュクシャの体はぐらりと揺れるし、もし相手がそのまま投げ飛ばしたとしたら、俺も道連れに…
しかし、ロボット同士だからだろうな。シュクシャの格好に目を向けることもなく、平気で足首を捕まえて、戦いのことにしか反応しないのは…
相手のロボットは俺より体格のよい男ロボ。
男の性分に脳天気に考えてしまった事に気づいた時には、すでに状況は変わっていた。
足首を掴んでいた手を大きく振り上げたのだから。
「うわあぁっ」
恐き抱えられた人間ともども宙吊り状態となって…
大男の太い腕が俺を捕えた。捕えたというよりシュクシャが手を離して、俺が落ちる前に抱き止めてくれた。
大男が俺に気を止めている間、シュクシャは身をひねって回転し地面に不時着することを避けた。
人質が手に渡った以上、シュクシャに気兼ねする必要はなくなり、思いっきり攻撃可能となった。
その瞬間をシュクシャも気づかないわけではなく、シュクシャは身を守る術の一つとして物を投げつけた。
投げつけて敵の気をひこうとしたのは俺の場合と変わらない。変わらないが、軽々と投げつけた鉄屑は乗物。廃虚処分となったコーヒーカップ一台だった。
「ひぇぇぇ」
シュクシャと違い胸に抱き止められた状態でコーヒーカップが飛んでくる。ビビる以外に何ができようか。
しかし大男ロボットに焦りはなかった。
彼は物が飛んでくる短い時間内で俺を小脇に抱え、余った腕でボールを受けとめるように、それを手にしたのだから。
さすがに大男だけある。
しかも、それをまた、投げ飛ばした…もう人間からは、ついていけない…。
投げ飛ばした瞬間に逃げ出したシュクシャに向けられたものの、コーヒーカップはどすんと大きな音をして地面に落ちていった。重すぎて飛距離が伸びなかったらしい。
「まあ、俺はあくまでも順谷君の保護にまわるだけだから、これ以上は無理だな」
「これ以上はって、これ以上の事が出来る人、いやロボットなんているんですか?」
ぼそっと独り言のようにいったロボットに思わず聞いてしまった。
「そりゃ、もちろん、アネシスだよ」
え…。
アネシスって。見た目によらずすごいロボットらしい。
「さてと」
安全を判断した大男ロボットは、俺を降ろしてくれた。
「ありがとうございました。おかげで連れ去られずにすみました」
「いやいや。人間を守るのが俺の役目の一つでもあるからな。
改めてだけれども。初めまして大累順谷君。俺は建物の管理担当のバッテレインだ」
バッテレインは大きな手で、後から差し出した俺の手を握った。
エムカさんと違い冷たく、少しごつごつしているけれども人の感触だった。
「君が無事で良かったよ」
バッテレインは体格の良い体をソシエゴと同じデザインだけれども紺色のマントを羽織っていた。頭上から結わえる一筋の髪が何とも印象的だった。
「さて、戻るとしよう…が、何かひっかかっているようだな」
俺の顔や行動はわかりやすいみたいで、バッテレインも見逃すことはなかった。
「シュクシャというロボットが聞いてきたんです。王冠はどこだと」
「ほう。王冠か」
バッテレインの顔が険しく変わった。
「何なんですか、王冠って」
「その名前の通りだよ。王の象徴となる冠だ。王冠を頭上に乗せた者が、この国の王となる。その王冠を狙ってくるだと…」
「シュクシャの主人が王座を狙っていることですか?」
「そうとしか、言えないな。とにかく、俺達は戻ろう。今頃、アネシスがシュクシャとやらを捕えているだろう。それで何らかの情報が得られるはずだ」
バッテレインの予測は外れてしまった。
アネシス達はシュクシャを見つけることが出来なかったのだから。
その理由は、夜になってわかった。
開園時に活動するソシエゴの部下ロボットが見つからず、捜した結果茂みの中から動かなくなった状態で発見された。
プレートがない状態で。




