王国と人間世界
新王となったものの、その晩はホテルに戻った。
「………」
起きて間もなくして、あの人が尋ねてきた。
「エムカさん」
エムカさんは相変わらず黒のパンツスーツでわずかに笑みを見せてくれた。
「お体の方は大丈夫ですか?」
部屋中に招き入れた時、彼女の後につくシュクシャの姿かない事に気づいた。
「ええ。疲れていたみたいだから。
それよりもおめでとう、順谷君。あなたの完全なる勝利だわ」
その微笑みに俺の頬も微かにほころんだ。
それからしばらく間、無音の時が流れた。
なんとも気まずいような、でも、いつまでもいたいような。
「…本来ならば、私は王国を去らなければならい。いえ、本当ならばここを出て人間の世界に戻りたかった」
「……」
「でも、現実にそうはいかない。
まずはボスの埋葬。いえ、その前に警察に届けなければならないわ」
「…それは、どうしてですか?」
「いくらロボットたちのため、施設の運営するためとはいえ、これは死体遺棄になるから。こればかりは仮の前王、私の責任となります」
「…でも、それは」
「これが現実とういうものなんです。順谷君」
「………」
「順谷君、仮とはいえ、それが王というものよ。己の行動に責任を持つことが」
エムカさんは立ちあがり、退室しようとした。
「エムカさん。
この1件が片付いた時、あなたは近くにいてくれますか?」
「…」
エムカさんは足を止めて、じっと見つめた。
「刃を向けて、薬をもった女を?」
「…。でも」
「甘えないでちょうだい。
王冠を手に入れることができた今、私の力は必要としないわ」
何も言えず、扉が閉まる音が響いた。
ウエストルム・キングダムが落ち着くと、彼女は姿を消した。
それまでの間、彼女はシュクシャと共に現れ作業をこなしてくれた。
優しく接してくれるものの、どこかロボットのように思えた。
それは、ここを去るため、俺や皆に『情』を見せないようにしていたからなのだろう。
ただ1つ。
王国を去るとき、エムカさんは黒い服を着ていなかった。
黒のパンツスーツは、ボス、あの人の喪に服すためだからと、語ってくれた。
彼女は人へ。人間の世界へ帰って行った。
そうして、ウエストルム・キングダムに住む者は、ただ一人となった。
だけど、一人じゃないから。
「順谷さん、おはようございます」
開園前、集いの間に入る自動扉が開くと。
見えないところにいるスィージィーが最初のあいさつをしてくれる。
スィージィ-1
ウエストルム・キングダムのプログラム担当。
「おはようございます」
大きな体型で建物を担当し、なおかつ王冠でもあったあるバッテレイン-1
『おはようございます。順谷様』
二人同時にあいさつを唱えてくれたのは、コマンダーが不在のため、臨時にサービス業務を担当するエムカ-01とエムカ-02
「おはようございます、順谷さん。まだ、大丈夫ですよね」
閉まったばかりの扉が開き姿を現したのは、衛生担当のソシエゴ-1
腕を取りつけて、いつものソシエゴに戻ってくれた。
それから、もちろん。
「おーはーよー、順谷。アネシス、今日は遅刻していないからね」
機能回復したものの寝坊癖が完治していないアネシス-1
アネシスは好意を持っているとエムカさんや本人が言っていた…けれども、アネシス、ロボットが持つ好意はどれほどのものなのかわからない。
まあ、これから長い付き合いになっていくのだから、これから考えようと思う。
「みんな、おはよう」
彼女たちはロボットかもしれない。
けれども、大切な仲間。いや、それ以上の存在。
「スィージィ。開園準備を始めてくれ」
彼女らと共に新しい朝が始まる。
おわり




