王の責任
闇が覆うけれども外灯とソシエゴの誘導によりたどり着いた。
「順谷さん。アネシスが大変なことになっている」
自動扉が開いたとき頼みの綱はアネシスを抱きかかえ、これから外へ出ようとしていた。
それから
「順谷さん。エムカが…」
スィージィが開かれたエレベーターと共に現れた。
その後ろにいたシュクシャがエムカさんを抱きかかえて。
「………」
万能なるロボットたちは指示を求めていた。
力のない1人の人間に向かって。
これが王と言うものだ。
これが王冠を乗せた者の現状だと。
呆然とする俺の頭に浮かんできた。
誰が?あの人しかいない。
俺の本体でもある人。
ボス
ボス…あなたは問いかけていますね。
お前は、これに耐えられるのかと。
「………」
あります。
俺は確かに、あなたのクローンです。まだ、学生です。王になる力すらありません。
でも、俺はこの道を選びます。
あなたのクローンだからではなく。
俺個人がとして、大累順谷として。
「…………」
いつのまにか閉ざされていた目が開いたとき、静止しているロボットたちの視線を感じた。
ソシエゴ。バッテレイン。スィージィ。シュクシャ。
エムカさんやアネシス達も。意識はないものの、どこかで俺を見ている気がする。
「……」
冷静になった俺は、冷静ならば誰でも取れる対処をはじめた。
「まずは、エムカさんからだ。ソシエゴ。君が見た限りの状態はどうだ?」
「腕がない状態なので脈を取ったりできませんが…」
と言いつつ、ソシエゴはシュクシャに床へおろすよう頼んでから、自分の頬をエムカさんの鼻に近づけた。
「呼吸は正常です」
「スィージィ、シュクシャ。エムカさんが倒れたときの状況はどうだった?薬を含んだりしなかったか?」
「私はスィージィ-1から連絡を聞いて駆け付けましたので状況はわからないが、マスターに持病があると聞いたことはない」
「エムカはメッセージを聞き終わってまもなく倒れました」
「ソシエゴ。私は医療関係に詳しくない。こういう時はどんな状態なんだい?どうすればいい?」
ロボットは指示を求めなければ動けないけれども、適切な処置方法は知っている。
いくら、頑張るとはいえまだレベル1だから、レベルを上げるにも、まずは低いレベルからはじめなければならない。
それも必死になって。
ソシエゴは自分の部下ロボットを呼びだし、細かく調べさせた結果、救急車を呼ぶ必要はないと答えたので、とりあえず、医療室へ運び、様子をみることにした。
それから機能停止したアネシスは、そのままにしても異常はなく、日常管理も人間であることを宣言したエムカさんの時と同じく、アネシスの2桁ロボットたちに任せることにした。
それからソシエゴ。
ソシエゴの腕は治すことができず。でも、そのままほおっておいたら異常をきたすことがあるかもしれないと本人からの話を聞き、彼も機能停止状態になってもらうことにした。
「心配する必要はありませんよ。順谷さん。日常管理は2桁ロボットがやってくれますし。呼べば私は起きていますので」
「すまない」
情けない顔の俺にソシエゴは笑みを浮かべ少しだけ元気付けてくれた。
大量の先行き不安さえなければ、もっと元気になったのに。
こうして王国は一気に寂しくなった。
コマンダー・ロボットはバッテレインとスィージィだけとなり『要請権』もあと1つだけ。
「順谷さん。今の順谷さんに言える対処方法は、ただ一つです」
コマンダー・ロボットの集い場である部屋で不安にさいなまれていたとき、バッテレインが言った。
「順谷さん。あなたは休むべきです。でないと体を壊してしまいますよ」
…そういえば、ここでスィージィにプログラム指示をだして占いの塔に行ったのは今日だっけ。
「…バッテレインの言う通りかもしれない。でも、ホテルに戻る気はしない。何か恐いんだ。今の状態のまま、あそこに戻るのが。
バッテレイン、ここで仮眠をとっても、コンピューターとかに支障はないかい?」
「ありませんよ。順谷さん、このバッテレインがお供します。1人よりも2人の方が安心できますし」
「スィージィもお供します。2人よりも3人の方が心休まりますし」
「…。ありがとう、2人とも。でも、充電しなければならないんだろう」
「充電パックというロボット食料がありから大丈夫です」
「…。いいや、お願いだから休んでくれ。お願いだから、俺に気をつかわないでくれ。頼む…」
「…わかりました。でも、何か会ったら必ず声をかけてください。すぐに駆けつけます」
「…ありがとう」
2人が退室してから、表情を崩した。
今の顔は誰が見ても不安を感じるものだった。
ロボットたちの気遣いがプレッシャーとなってのしかかってくる気がした。
さっきは『王として頑張る』と言い張ったはずなのに、もう、弱音が出てきてしまった。
情けない…。
ソシエゴまでもが機能停止しなければならないくなったから、そのせいなんだろうけれども。
「…ふう」
誰もいなくなった空間で一息つくと、無償にコーヒーが飲みたくなってきた。砂糖たっぷりのインスタントコーヒーが。いや、ココアでも紅茶でもかまわない。
とにかく何か飲みたくなってきた。
「…飲み物、どこにあるんだろう?」
ロボットだから飲まないけれども…昼間、ソシエゴが運んでくれたっけ。
「でも、どこに?」
飲み物がほしいだけに呼び出すわけにはいかないだろうな。…1人にしてくれだなんて余計なことを言ってしまったし…
「………」
とりあえず思い出すしかない…え~と、昼間。ソシエゴはどの方向からコーヒーを運んできたんだ?
「…扉」
この部屋にたどり着くには、地上から直通のエレベーターとそこの扉だけ…
「………」
切羽詰った状態だというのに…何をしているんだろうか。
コーヒーを諦めて考えろという気持ちと、それでも一息つきたいという気持ちが分離し争いを始めた。
しかし、このまま無駄な状態を続けていては、それこそ時間の無駄でしかないので、抗争停止宣言策として『二ヶ所。めぼしをつけてダメだったら諦める』ことにした。
双方とも納得したので、俺は部屋を出て通路を歩き出した。
通路は集い場を囲むようにあって、白色の壁と天井にロボットたちの空間を想わせるメタル色の床となっていた。
通路を進むと1メートル先に1つ、それから3メートル先にもう1つの曲がり角が見つかった。
「手前…いや、奥の方…かもしれない」
そう確信したのは手前の方はさらなる通路があるのに対し、奥のほうは曲がってすぐに扉があった。
給湯室とかって、こんな感じじゃなかったかな?
メインルームに運んで行くためのお茶は近場になけれどならないよな、と判断して。
メタル色をした扉の前に立った。
自動扉だったから勝手に開き。
「………」
間違いだったことが判明した。
「………」
開かれた先にある部屋は暗室だった。
いや、扉が開いたことにより暗色が薄れ、灯った淡い光が少しずつ強くなっていった。
強くなっていき、十畳ぐらいの空間と棺おけのようなガラスケースが置かれていた。
ガラスケースに向かって太細様々なケーブルが天井から垂れ下がっていた。
ガラスケースに誰かが入っていたらしく、それはゆっくりとおきあがった。
「順谷さん?どうしたんですか?こんなところまで」
…バッテレインの部屋だった。
不安げな顔をして、わざわざ近づいてきてくれた俺に『何でもない』とはいえず。
「…知恵を、貸してくれないか」
と言うのが精一杯だった。
「もちろんですとも、順谷さん。さあ、こんなむさ苦しい部屋ではなく集い場に戻りましょう。ああ、コーヒー飲みますか?」
コーヒーにありつけたが。
実に情けない。
1人でコーヒーも入れられない事を知り、自分に対する嫌気が更に増した。
「………」
「不安ですか?順谷さん」
顔を見たバッテレインが別の解釈をしてくれたけれども、俺は素直に首を振った。
「自分に嫌気がしているんだ。
ウエストルム・キングダムが危険に陥っているというのに…自分では何1つできない。何をやっても満足のいく成果は得られない。それどころか、俺のせいでどんどん悪化していく」
「それは考えすぎですよ。順谷さんがいなけれぱ我が王国は何度、滅亡したことか」
「買いかぶりだよ。それに、それは俺以外の人でも、人であれば、簡単に処理できることだし」
それ以上の言葉は生まれず。沈黙だけが過ぎて行った。
無音に近い空間で、唯一の解決策『王冠』の場所を考えたものの…いつのまにか眠っていた。
「…」
バッテレインに寄りかかった状態で目が覚めた。
もし、バッテレインの声に気づかなかったから、まだ、朝まで眠っていたかもしれない。
「エムカ?ここにはいないぞ…。意識を失って医療室にいる」
俺が眠っていることを知ってか、バッテレインの声は小さなものだったが、誰かと話しているようだ。
寄りかかっていた体を離し、辺りを見まして見るものの他のロボットらしき姿はなかった。
「なに、心配はいらない。それよりも、アネシス、お前さんの方はどうなんだ?」
「アネシス?」
予想もしなかった名前に声をあげると、バッテレインは体内にある携帯電話機能で離していることを説明してくれた。
「アネシス…」
声をかけてみるものの、アネシスの返答はなかった。
「すいません、順谷さん。これは体内の電話機能を使っているので、アネシスと直通できないんです」
「じゃあ…どうすれば」
と疑問を口にしたところで、園内用の携帯電話が鳴った。
「…。もしもし」
「…。順谷」
小さな声だけども、それは聞きなれたものだった。
「アネシス。無事なんだね。一体、どうしたんだ?」
「…。順谷。本当に、本当にエムカはいない?」
まるで辺りを見まわしながら言っているような気がした。
「本当にいないよ」
「…良かった。
アネシスね。エムカの要請でね、順谷と会っちゃいけないって言われたの。でも、これは会ったことにならないよね。会わないで話しているだけだから」
やっぱり、ソシエゴと同じパーツでできたロボットだなと思ってしまった。
行動Aを実行したくないため、何らかの理由、理屈をつけてBの行動で回避する。自ら腕をもぎとったソシエゴと変わらない。
「アネシス。大丈夫なのかい?」
「大丈夫だけれども、大丈夫じゃないの」
「どっちなんだい…」
「アネシスのボディは機能停止しちゃったけれども、中は精神プログラムは正常なの。だから、こっそり順谷に電話で話すことができるの」
「そういう事か」
「ごめんね、順谷。アネシス、何もお手伝いできなくなっちゃった。順谷のために、もっと一生懸命がんばりたかったのに…何もできない」
「それは、アネシスのせいじゃないよ。
そう。すべて力のない俺のせいだ」
俺は立ちあがり、バッテレインに背を向けて奥に向かった。
たくさんのモニターや機械のあるところへ。




