占いの館
真夏の太陽に炙りだされながら現場に到着した。
「…何か、アイスクリームをひっくり返したような建物だね」
コーン(持つところ)をひっくり返した…円錐の壁色は抹茶色で上の先に取りつけた球体はブルーベリーを思わせる色が塗られていた。
色のせいなのか、この暑さのせいなのかはわからないけれども、アイスクリームが食べたくなってしまう。
塔と言ったものの1.5人分の高さしかなかった。
幅の方は俺達3人が手をつないで伸ばせるぐらいあるけれども。
そこにある小さな隙間が入り口らしく中に入ってみると…薄暗い階段になっていた。
「これって地下?」
「ええ。地下室になっています。順谷さん足元に注意してくださいね。手すりを使った方がより安全ですよ」
薄暗いとは言ったものの、そこは遊園施設。足元に青色の明かりが段をはっきりと照らしていた。
階段は2人ぐらい通れるもので螺旋状のもの。
外見を見て以外と狭くなっているのには理由があった。
「エレベーター…」
しばらく下りてから現れた、ガラス張りのエレベーターが中央に設置されていた。
「階段の上り下りは大変ですからね。エレベーターは設置してありますよ。
順谷さんにも、こちらをお奨めしようとしましたが、先に階段を利用されたので」
規則正しいロボットは、人間の行動に(よっぼどの事がない限り)反対しないらしい…。
ちなみにエレベーターの入り口は階段の反対側にあり、この階段は非常用とのこと。
「…あっ」
とほほ、とため息をつこうしとた口は声をあげた。
ガラス張りの下りエレベーターが2人を運びすうっと通りすぎて行ったのだから。
「あれはエムカとアネシスだな。
ま、心配することはないよ、順谷さん。要請権にかかわる情報は問われない限りはなすことはないし。話したとしても、階下を管理するロボットが行動を拒否するから」
バッテレインは不安要素をフォローしてくれた。
けれど、俺の不安要素は別なところに名あった。
「アネシス…元気なさそうな感じだったけれど、大丈夫かな」
通りすぎて行った時、向き合うようにたっていたアネシスの表情は心なしか沈んでいたようにも思えたから。
「そうですか?姉さんのことだから、騒ぎすぎてエムカに怒られたんでしょう、きっと」
「それは、ありえるなあ」
ありえる話…だけれども、そうなのかな。
階段で地下にたどり着いたとき、退出しようとするエムカさん達と再び会った。
さっきと同じガラス越しだけれども、今度は目があった。
エムカさんはニコッと笑い、アネシスもにニコッと。
「………」
アネシスにパワフルさは回復していないらしい。
「順谷様。お待ちしておりました」
歩行に苦労しない薄暗い空間でそれらしいロボットが出迎えてくれた。
黒いローブをはおったおばあさんロボット。
さっきバッテレインが言っていた占いロボットだろう。
占い師ロボットは、いかにも魔女といった皺をたくさん埋め込んで腰の曲がった優しい、陽気そうな老女ロボットだった。
「プログラム、コマンダー・ロボット、スィージィ-1からの報告を受けた承っています。
ただいまから、この『占いの塔』は、点検モードに切り替わります」
占いロボットがそう発言した途端、怪しげな空間が消えた。
天井からは普通の蛍光灯がともり占いの塔はただの無意味な空間になってしまった。
「あれ?点検モードに入ったっていう事は、エムカさんたちは普通に占いしに来たって事ですか?」
「そういう事になりますね。もちろん、プライバシーに関わることなので、それ以上のことは、答えられませんが」
占いロボットの発言からして、そうらしい。
何を占っていたんだろう…それもアネシス付きで。
話が一段楽したところで、携帯が鳴った。
あまりにも都合良く、しかも一段楽したワンテンポ後なので、恐らく、占いロボットがスィージィーに合図したんだろうな。
「順谷さん、スィージィです。建物のデータ-を調べていたら、ボスの署名付きファイルが見つかりました。
読み上げてよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「1.占いの塔に隠した例の箱へは、室内を点検モードに切り替える。
2.部屋の奥に1箇所だけ色の違うタイルが現れる」
スィージィさんの言葉とおり、良く見てみると深緑色の床以外に緋色のタイルが目にと持った。
薄暗い営業モードで見つけるのは不可能だろうな。
「3.そのタイルを足で思いっきり踏むと……天井が崩れる」
「げっ」
言われるがまま、思いっきり踏んでしまった…。
俺はおそるおそる天井を見上げた。
「…というのは冗談で。本当は床に穴ができるので、くれぐれも注意するように。…以上です、順谷さん」
「わぁぁ~」
俺が踏んだタイルを中心に直径2メートルの空洞が突如現れ、俺は言われるまでも落下。
「危ない」
…する直前にバッテレインの伸びた腕により助かったけれども。
バッテレインにお礼を言ってから、出来上がった穴を覗いてみると…けっこう深いらしい。でも、暗闇が邪魔をして推測できない。
「しかも狭…そうだな」
バッテレインは背中を押した。
「へ?うわぁぁっ」
「百聞一見にしかず、だ。ソシエゴ」
…。ロボットじゃなくて良かった。
「バッテレイン。足が損傷したらどうするんですかっ」
無事に着地できたらしくソシエゴの抗議が聞こえた。
「自分で治せるからいいだろうよ。
で、ソシエゴ。下の様子はどうだ?」
ソシエゴも本気で怒ってないらしく、バッテレインの問いに答えた。
「右側に1メートルぐらいの奥行きがありますね。その奥に50センチほどの直方体があります」
暗闇の中でソシエゴは明かりをつけずに答えることができた。それができるのは、もちろん体内に暗視カメラ機能がついているから。
「重さは1キロもありませんね。爆発物らしき音や気配、信号とったものは感じられません。順谷さん、上に持って行ってもよろしいですか?」
「ああ、お願い」
律儀な問いに返答すると、ソシエゴは、今まで気づかなかったけれども設置されていた鉄梯子で上がってきた。
「箱…」
ソシエゴが老いたそれは鉄製の箱、というよりも宝箱であった。
細工といったものはなくシンプルなデザインで、鍵の存在はないようだ。
「順谷さん、これは、やはり」
「とにかく、開けてみよう」
冷たくて固い感触よりも、刻一刻と明らかになる真実に神経が集中する。
「………」
蓋を開けて、中には…書類らしきものがあった。
「…。何か」
厚紙の2つ折りにされた紙が複数積み重なっていた。
俺の許可を得た二人もそれを手にして、開いてみる。
「わっ、待った。見ないでくれ、それはっ」
開けてからようやく気づいた。というより、何で気づかなかったか…恐らく裏側になっていたから『それ』と気づけなかったからだと思う。
「…数字が書いてますね」
「わー。見ないでくれ。それは俺の」
…成績表。
「あっははははっ」
「笑い事じゃないですよ、エムカさん…」
時が流れて、その出来事を言い終えると大爆笑してくれた。
「でも、何でそんな所に?」
「さあ?でも…まあ、ボスは養父だし。『成績表だけは提出するように』と、言われてましたから」
ちゃんと送って、それを目に通したボスはあんな所に閉まっていた。
「はははっ。でも、おかしい…」
「エムカさんだって笑えませんよ」
ツボにはまっていたエムカさんは、俺が差し出した書類を一見すると慌ててひったくった。
「な、何で私の履歴書がっ。…順谷さん、見たでしょ」
見なければ、それがエムカさんの履歴書で渡すことはできなかったけれども、とりあえず否定した。
「ったくも、ボスは…」
「………」
… … …
「そういえばエムカさんも占いの塔にいましたよね」
…順谷君は、やっぱりボスの面影がある。
二重まぶたも長いまつ毛も変わらない。
「アネシスの感情にどう影響が出てくるのか見ようと思って」
「影響…ですか?」
ボスのクローン。
もちろん、私は別人としか思っていない。
思っていないけれども…視線が向いてしまう。
「アネシスは一番人間に近いロボットだから。人間っぽいこと、特に心理的な項をしたら、どんな反応が得られるのか、ね。
もし、アネシスの感情コントロールする部分に『王冠を入れる箱』があれば、と、考えてね。データーを取っていたのよ」
ウエストルム・キングダムの王
年の差が離れているあの人に想いのある目を向けてしまっていたのに、今度は順谷君?
この閉ざされた王国にたった2人しかいなからつて…
「もちろん、アネシスの巡回ルートをさぐって箱らしきものはないか、見たけれども…」
「さっぱりですか」
「ええ」
うなづいて、私は順谷訓の手がフォークをつかみ、肉を口に入れる動作を見つめていた。
そういえば゛ここ飲食店だっけ。
順谷君が渡したいものがあるって言われて、夕食時だからご飯食べながらという事になったんだっけ。
遠い昔のように思えてしまう。
「………」
ステーキセットを頼むのも、ニンジンを一切口にしないのも、ボスと変わらない。
変わらない…。
「あと1回ずつの選択になるわね」
「はい…そうですね」
「今度は順谷君から選んで」
「え…俺からですか」
エムカはうなづき、順谷の決心がつくまで身動きせずに待った。
「…では、バッテレインを選びます。
今日あったみたいに、どこかの建物を改築して隠しているんじゃないかと」
「今回みたいにデーターを削除されている可能性があるというのに?」
「そこは、スィージィに頼んで、頼むって言っても、何をどうすればいいのか、わかりませんけれど。あとは、バッテレインを連れまわして。しらみつぶしに探してみます。バッテレインが正確に記憶してある建物内部と違うところが、もしかしたらあるかもしませんし」
「そうね。
では、私はソシエゴ-1ね。
お互いに頑張りましょう」
正直言って、手を差し伸ばして良かったのか迷った。
暗闇で殺意を向けた以上。
でも、順谷君は握り返してくれた。
順谷君の温かい手。それから放れてしまった私の右手は支払書をつかみ、私は立ち上がった。
それから子供に言い聞かす母親のようにわかっていることを繰り返した。
「順谷君。要請権は、1体につき1度しか使えませんが、効力は王冠を見つけだすまでの間あります」
「はい」
素直な返答に微笑み返したエムカは順谷に背を向けた。
店員のあいさつを聞き流して外に出たエムカは暗闇が揺らぎ、近づくロボットに気づいた。
「このままホテルに帰ります」
『はい』と答え、忠犬のように主人の後につくシュクシャは、主人の静かに開く言葉を耳にした。
「勝敗は間近に迫りました」
「では。いよいよ王冠の場所がわかったのですね」
「……」
エムカの返答は表情によるものであった。前方にいるエムカの表情で確認することなく、シュクシャは先の未来に喜びを感じとったのであった。




