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推測


 4体のコマンダー・ロボットのうちの一体が『王冠をいれた箱』を開けられるという。

「でも、誰が?」

 俺は目もにコマンダー・ロボット名と、各担当業務それから推測を書いてみた。




 スィージィ プログラム担当 王冠といったけれども、形ある王冠とは限らない。

               王冠はもしかしてプログラムの事?

 

 バッテレイン 建物担当   建物の柱の中とかに入っているのでは?

               建物のうちボスから注文(または新たなる注文をしたことはないか?

               でも、その記憶を削除されているのでは?


 ソシエゴ   衛生担当   ロボット修復もかねている以上、ロボットの中にあるとか?

               飲食系の場合、メニューに王冠の名前がついたものはないか調べて

               みる(スィージィ同様、物とはかぎらない)


 アネシス   警備担当   巡回について行ってみる。

               …もしかしたら王冠を入れた箱、金庫のようなものがあるかも

               しれない。



「アネシスは…」

 ペンを紙から離し窓外の空を見上げた。

「アネシスは、何かひっかかるところがあるんだよなぁ」

 人間っぽい、いや、人間くさい性格だからかもしれない。

「アネシスはロボットの中で感受性が強いって、エムカさんが言ってたっけ」

 もし、アネシスが箱を開けられるコマンダー・ロボットだとしたから。

 彼女の持つ精神面の方なのかもしれない。

「………」

 とりあえず、そのことを書き加えてから、再び空を見上げ、それから遠く離れた地面を見下ろした。

 俺は高く離れた小さな個室、観覧車にいるから。

 観覧車にいる理由は2つ。

 一つは1人で(特にアネシス)静かに考えをまとめたいから。

 もう一つは、せっかく遊園施設にいるのに、ホテルとビルの行き来しかなかったから。

 いや、最初に乗った絶叫マシーンや絶望空間は(恐くて)満喫したとはいえない…。

「…ふう」

 考えを髪に吐き出して、ため息をついた。

 これから、この考えを行動にしなければならない。

 まず誰を?どうする?

「…………」

 その問いに直面したとき、俺の考えは知り込み尻込みをはじめた。

 スィージィーのプログラム解読も、バッテレ子音の建物探索も、具体的な場所が特定できていないし…

 それならぱソシエゴの『どれかのロボットの中にあるかもしれない』案も。どのロボットに?いや、そもそもどの部分を捜せばいいんだ?

「…………………」

 頭は『決断』を拒否して、目は紙と地面を眺めるばかり。

『失敗するのが恐いからだろう』

 心の中で現実を知る自分が、それを暴露した。

『コマンダー・ロボットを間違えずに選んで、正しい要請をしなくてはならない。

 行動に足を踏み入れた瞬間、正解か不正解か決まってしまう。

 正しいコマンダー・ロボットを選び出せる確立は4分の1。全員は選べない。

 その1歩で終わってしまうのだからな』

 …。心の中が言っているだけあって本心でしかなかった。

 もちろん恐い。『全てが終わってしまう』という言葉にとまどい、たじろいでしまう。

 でも、衰退は刻一刻と近づいている。

 エムカさんからの、新しい指示ができなくなった以上『新しい何かを考える』人間はいないのだから。

「…やらなければならない」

 …でも、その一歩踏み出す勇気がないのだ。


 そのまま無駄なときが流れた。


 さらにしばらくしてガタンと中が揺れた。下に着いたようだ。

 俺が立ちあがった時、扉が開き黒い影が入りこんできた。

「………」

 アネシスの奴。やっぱり嗅ぎつけていたのか…と思っていたら違った。

「エムカさん」

「これから先の打ち合わせをしようと思いまして。よろしいですか?」

 断る理由はなかった。

 エムカさんが入りこんできた時、一瞬、絶望屋敷の件を思い出してどきりとした。

 でもエムカさんの落ち着いた声と微笑みを目にすると動揺はどこかに消えてしまった。

 エムカさんは、いつもの黒いパンツスーツに青いショルダーバックを肩からかけている。見なれた姿、でも、OLっぽく見えるのは彼女が人間とわかったからからだろう。

 向かい合わせに座るとバックから半透明のフォルダーを取り出して、それを見せる前に言葉を放った。

「まずは順谷さん。王国の危機になる以上、争っている場合ではないと思います。それは同意してくれますか?」

「はい。俺も考えていたところでした」

 俺の返答にエムカさんは微笑で『良かった』と表してくれた。

 それからフォルダーごと俺に手渡した。

 手にずしりと重みが伝わってきた。数十枚はあると思う。

「その中には『スィージィ攻略方法』が書いてあります」

「攻略方法…ですか」

「スィージィが『王冠の入っている箱』を開けられるロボットだとした場合、箱はパスワードつきのフォルダ王冠はプログラムとなるでしょう」

 エムカさんも同じ事を考えていたらしい。

「ボスが亡くなった後。王冠はプログラムではないかと思った時がありました。

 プログラム管理をするスィージィーに聞き、それらしきものはないか当たってみましたが、重要となる部分はパスワードでブロックされて行き詰まっていました。いくら『ボスの命令で』と言ってもスィージィーはパスワードを解除してくれませんでした」

「パスワードを知っていないとだめだったんですか?」

「はい。それかボス直接の命令でない限り開けられないと言ってました」

 エムカさんの使っていた権限は制限があるようだ。

「スィージィーにパスワード付きのデータ-を開けさせる事を要請すれば先に進めると思います。

 その書類にはスィージィに聞いたときの記録と、パスワード付きのデータ一覧。それと個人的に気になった個所を書きとめたものです」

「はあ。

 でも…」

 どうして、これを?と聞こうとした俺に気づいたエムカさんは、おもむろに尋ねた。

「ところで順谷さん。傷の方は痛みますか?」

 エムカさんは視線をずらし、その事を思い出させた。

 あの時は生き延びるために必死だったから気がつけなかったけれど、避ける時ナイフの先が左腕に触れていたらしい。

「たいした傷じゃありません。包帯しているのはソシエゴが念入りに…というより大げさにしたからです」

「そうですか。でも、それをしたことに後悔はしていません。

 私は、あなたを認めません。もちろん、後継者として」

 エムカさんに表情はなく、機械のように思えた。

「じゃあ…どうしてこれを?これは…」

「その書類は、順谷さんを陥れるための罠や、まったくの嘘ではありません」

 質問の意味を読み取り答えてくれた。

「信じられなければ、使わなくても構いません。でも、使用しなければ返してください。私には王冠をいれるための大切なものですから」

「……」

 エムカさんが手を差し出す仕草はでてこなかったから、そのまま手にした。

 それから同じ言葉を放った。

「どうして、これを?」

「絶望空間で、あなたを仕留めそこねたからです」

 すっと立ちあがったエムカさんは人形のように表情がなく俺を見下ろした。

 機械から人形へ

 機械と人形、どちらも同じ非人間だけれども人形は、冷たく思えた。

「ましてや『王冠を入れる箱』を開ける鍵がコマンダー・ロボットにあり、その要請も二分されてしまった今、順谷さんは大切な存在です」

「…それで。これで王冠を手にしてしまったら…」

「その時はその時です。

 その時は、順谷さんを王座から引き摺り下ろせば良いのですから」

 言葉を放ったエムカさんの表情はわからなった。

 自分の席に振り向き、座って窓外を眺め始めたものの、シナモン色の髪にすべを覆わせてしまったのだから。


 それからしばらくして、俺の名を呼んだ時、まっすぐ顔を向けたエムカさんは人間のものに戻っていた。

 開いて出てきた言葉はさっきの続きだったけれども。

「それでも、順谷さんは王座を狙いますか?」

「はい…」

「恐くありませんか?」

「いいえ。恐くないと言ったら嘘になります。

 でも俺には、ここしかありませんから。

 でも、もちろん、ボスを…あの人を純粋に『おじさん』と呼んでいた頃から、ここの施設には興味を持っていましたし…。

 俺がクローンと知ってからは、なおさらのこと…」

 1回頭で考えてから口にすれば良かったと後悔するほど、ぎこちない返答になってしまった。

「クローンであっても、順谷さんは別の存在ですよ。ここに縛られることはありませんと思いますが」

「…確かに、そうなんですけれども…。今の俺には…ここ以外のことを考えることはできません。考えられないんです」

「…そうですか」

 それからエムカさんはすうっと立ちあがり、外から開けてきた扉に向かった。

 いつの間にか2週目が終了したらしい。

 しかしエムカさんは外に出ることはなかった。

 その理由は、ただ一つ。外から中に入ってきた者がいたから。

「順谷にエムカ、みーっけ」

 …今度こそ、間違いなくアネシスだった。

 アネシスはちゃっかりエムカさんの座っていた席にどんとお尻を乗せた。

 …それって3週目?

「では順谷さん」

 アネシスと入れ違いにエムカさんは下りて行ったけれども、くるりと振り返った。

「アネシス、1周したら私の所に来てね」

「うん。いいよー」

「アネシス。

 あなたを要請するロボットにしたから」

 目を見開く俺達に背を向けてエムカさんは歩き出し、忠犬のように主人を待っていたシュクシャが後をついて行った。


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