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王冠


 後継者争奪戦、第1日目を迎えた俺は…危険のどん底にたたきつけられていた。

「じゅ~んや」

 しっかりかけたはずの鍵を簡単に開けて入ってきたアネシスは、俺の寝ているベッドへ飛びこんできた。

 17才設定の娘が上に現れて、さぞ幸せだろうと羨ましがるならば、大間違い。

 確かに、感触はあるかもしれない。しかし、人工皮膚の中にあるのは無数のケーブルや半導体。そして金属。

「うわぁぁぁ。アネシス、乗るなっ。骨が折れる」

 下手したら本当に折れてもおかしくはない状況なのだか…アネシスは不満顔をしていた。

「せーっかく。早起きしてきたのに」

「2度と起きられなくなったらどうするんだよ」

「…。それもそうだね。

 もし、止められなかったらアネシス、順谷の胸部分に正座して順谷がいつになったら起きるか見てみようと思ってたから」

 アネシスの重さが一部分に集中して…完全に折れていただろうな。いや、一瞬で…。

 程よく冷房が聞いているはずなのに、汗が流れ出たのはいうまでもない。

「ソシエゴの忠告に感謝するよ…」

「え、そっしぃじゃないよ。忠告してくれたのはボスだよ」

 ふき取ったばかりの汗が再び現れた。

「ボス…が、だと?」

「そうだよ。ボスが『アネシス、順谷の重りになるなよ』って行ったから、漬物石ごっこやめたんだもん」

「順谷君、いる?」

 早いノックをして変じをするよりも速く、エムカさんが部屋中に入ってきた。

 アネシスがドアをきっちり閉めてなかったせいで入って来れたエムカさんの顔は鋭いものがあった。

「おー、エムカ。おはよう。

 2人とも、ボスがね。朝食とアネシスたちの開園準備が終わった頃に王の口と手のところに来てだって」

「…。エムカさん、これは一体」

 今までボスの代わりに命令してきたエムカさんに問いただそうとしたところ、問うの本人は、大きく見開いた目を2度3度まばたきした。

「…ということは順谷君の仕業ではないのね」

 エムカさんの言葉は2つの意味を表していた。

 一つは『王の命令』として発言したのがエムカさんではないこと。

 もう一つは、エムカさんもボスの発言を身近な人間、俺の仕業ではないかと疑っていた事。

 だから、険しい顔でここに来たのだろう。

「?な~に言ってるの2人とも。ポスは、ボス1人だけだよ」

 無邪気に笑うアネシスの正論に、俺達は互いに見合わせた。


 アネシスは開園準備のため早々に退室し、残された人間はそのまま朝食を取ることとなった。

 疑問と新たなる不安で食べる『おいしい朝食』も味のない鉄の固まりのように胃にたまる重りとなった。

「ボスの命令もコマンダーロボットになりすましていたからこそ、使えたものよ」

「じゃあ、まさかコマンダーロボットに、まだ人がいるって事なんですか」

「それはありえないわ」

 犯歴のあるエムカさんは苦笑した。

「ロボット達は、ボスの発言力があったからこそ、私を疑うことはできなかったけれども。人間の目はプログラムに束縛されることなく疑うことができるのだから」

 エムカさんは自分の目で見て、共に生活してきた上で、疑いをもてるロボットはいないと語ってくれた。

「私は順谷さんの仕業だと思ってました。順谷さんはボスと同じ細胞なのですから、可能かと」

「いえ、俺は何も…」

「分かっていなす。順谷さんは、真面目ですし」

「いえ、小心者で行動がとれないだけです」


「でも、俺でもない、エムカさんでもないとなると、一体…」

 朝食を終え、暑い外に出た。

 新たに加わったシュクシャとエムカさんの後姿を見ながら、さっきから続いている不安を口にした。

「第3者がいるんでしょうか?」

「さあ。わかりません」

 不安を煽り立てたくないエムカさんは、そう言葉を放った。

 多分、エムカさんの頭中で、俺の知らないウエストルム・キングダムの記憶をたどっているのかもしれない。

「………」

 刻一刻と強くなっていく日のように、一歩進むごとに不安は大きくなっていく。


 建物について、暗い通路を通って…広い空間に出た。

 相変わらずガラスのような透明な柱型のロボット製造機兼『王の口と手』・がいて。その周りの壁一帯に同じ製造機が並べられていた。

「順谷にエムカ~」

 それらによって生まれ出たコマンダー・ロボットたちがいて、アネシスが駆け寄ってきた。

「後継者の確認…了承」

 王の口と手が言葉を唱え終わった途端…

「お、おじさん」

 あの日とが姿を現した。

 驚き、昔の呼び名を口走ってしまったけれども…なんの事はなかった。

 あの人…ボスは透明な製造機の中に、突然出現したのだから。

 作られし幻、映像であることに間違いなかった。

 おそらく、候補が決められた次の日に指導できるように作られたんだろう。

 その証拠にボスは、俺に話しかけてくれた。

「久しぶりだな、順谷。お前は、昔と代わっていないようだな」

 俺に視線を向けることはなく、初めて再会したかのような言葉だった。

 でもロボットたちは、疑問すらもたないのだろうな。

 この、視線を変えない、ただ再生されるだけの映像であっても、ロボットたちは本物のボスと疑っていないのだから。

 アネシスに向けた言葉も、そうなるんだろうな。

「お前達が後継者候補になって一晩がたった。気が落ち着いたところで『王冠』の捜し方を教えよう」

 『お前達』と言った。あの人はエムカさんがこの場所にいる事を推測していたようだ。

 エムカさんも平常心を保っているつもりでも、眉がつり上がっていた。

「王冠の入っている箱を開けられるのは、一体のコマンダー・ロボットだけだ」

 人の衝撃を吐き出した後、ボスは一度、口を閉ざした。

 俺達の視線は順に4人の姿を見つめていて、見られる側のロボット達は表情を変えることなく、唯一の主人を見続けている。

 ボスの口が再び開き、その言葉の詳しい内容を始めた。

「4人のコマンダー・ロボットの誰かが『鍵』となるが、聞いても無駄だ。どのコマンダー・ロボットも王冠を入れた箱がどこにあるのか知らない。つまり、プログラムされていない」

 ボスの言葉は自力で見つけ出せと言っていた。

「王冠の入った箱は、すぐ見つかるところにはなく、すぐ取り出せるところにもない。鍵となるコマンダー・ロボットに『要請』しなければならいない。

 要請だ。その特殊能力を持ったロボットではなければ、取れないという事だ。

 ただし、ロボット1体につき『要請』できるのは1回きりだけだ。後継者が何人いようが、ロボットは1回だけしか要請権はない」

「……」

「1回っていうのは」

「1回しか使えないというのは、私がそうプログラムをしたからだ」

 エムカさんの漏らした言葉に答えるかのようにボスは話を続けた。

「正解となるコマンダー・ロボットを見つけ出し、正しい要請をしなければ王冠の入った箱は開けられない。ということだ」

「……」

「難しいと思うかな。だが、時間制限はない。ゆっくりと考えることだな。

 2人とも。王冠を見つけ出しなさい。

 なお。

 2人が4人のコマンダー・ロボットの要請権を使いきっても王冠が手に入らなかった場合。

 王冠は私の物になる」

「それって…」

「………」

「賢い二人ならば、それがどういう事かわかるだろう。そうだ、お前達が考えている通りのことだ」

 動かない王の下でロボットたちが働く。

 しかし、エムカさんが抜けた今、新しい指示を出して王国をつなげる者がいない。

 衰退していく…いや、もっと恐れる自体が起こるのかもしれない。

「私は2人の力を信じておる。

 いいな、必ず王冠を見つけ出せ。

 私の発言は、これで終了だ」

 ボスは俺達に視線を向けることなく、微笑み。背を向けてた。

 それから姿を消した。

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