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人間の従業員

 あの日の記憶は、忘れたことがない。

「君が矢原江矛香やはら えむかさんかね」

 リクルートスーツを着こんだ私は、履歴書と共にあの人の前にいた。

「はい。夏休み、貴園を来園した時。他園では見られない充実した設備、子供心を忘れない夢の空間。その魅力にとりこまれ、どうしても貴園の門を叩かせていただきました」

「江矛香さんの熱意は、嬉しいほとどわかるが…。

 残念ながら、我がウエストル・キングダムでは人の募集はしていなんだ」

 苦笑し、ボスは履歴書を机の上に置いたけれども、ひるむことはなかった。

 断れる事は、最初から分かっていたのだから。

「分かっています。それでも働きたいのです」

「きついことを言うようだが、君の溢れんばかりの熱意があるならば、どこの遊園地でも雇ってもらえるよ」

「私は人が作る施設ではなく、ロボットが創り出す機械特有の力、機械だからこそ、使える能力を最大限に生かしてみたいのです。それに機械の短所を見つけ、補えるのは人間でしかできません」

「それを見つけるのは、私の役目だ」

 ボスの声は、訴える江矛香の熱気を冷ますほどの威力があった。

 口を閉ざした笑夏に、ボスはさらに不を語った。

「本当に残念だけれども、ここでは人を雇うことはない。

 江矛香さんのように熱意を持って履歴書を持ってきた子は少なくない。でも、皆、断ってきた。

 ましてや江矛香さんの場合、今まで来た子みたいにロボット管理を任せられる能力も持っていないとなると尚更のこと」

「技術は、これから学びとります。学校で適応資格のとれない学科を選択しただけで不正解というのは変です。

 今、技術を持っている人だって、生まれたばかりは何一つ資格を持っていません」

「れそれは屁理屈と言うものだ。さあさ」

「私は、あきらめません。なんなら、私をロボットにしてください。

 そうですよ。ここにはロボットだけなんですから、私もロボットにすれば…」

「はーっはっは」

 ツボにはまったのか、ボスは突然、笑い出した。

「おかしな事をいう子だ。

 だが、ロボットになったとはいえ。君には、ここでやっていく能力はない。使えないロボットは処分行きだぞ」

「だから、これから学び取るのです。

 人間はゼロからスタートしていくのですから。必要となる技術ならば、これから学びとっていきます」

「ロボットにしろと言っておきながら、もう人間か」

「………」

「まあ、いい。好きなようにしなさい」

「え…。それって」

「ただし。ロボットにしないが、君もロボットとして見る。

 さっきも言ったように、使えなくなったロボットは処分だ」

「はいっ。ありがとうございます」

 鋭い視線をしながらも苦笑し、認めてくれたボスの顔は、寸分の狂いもなく、何十年先になっても鮮明に覚えていることだろう。


 採用された私は、もちろん『がむしゃら』に頑張るだけだった。

 とはいえ、能力のない私に与えられた仕事は本当に雑用以外なんでもなかった。

 瞬時にデータ-を記憶し、完璧に作業をこなすロボットたちを見て、何度、劣悪な自分に情けなくなったことか。

 でも、ただ、ただ『頑張る』以外なかった。

 牛歩のごとく、わずかな一歩だけれども、少しずつましになっていった。

 それから気になった事をどんどんとボスに報告、または訴えていった。

 『サービス業務担当』という職務を与えられのは、ごく最近のこと。

 人間の職場ならば、こんなに早く昇格するのはありえなかったと思う。

 もちろんのし上がってこられたのは、自分の努力が認められてくれただけではなく…もう一つ理由があった。

 『老い』という不安がボスの精神を蝕んでいたのだから。

「私は、孤独という言葉に慣れ親しんでいた。

 人間同士、顔を付き合わせて家庭面や遊びの事を話すのは嫌いだった。

 だからこそ、孤独なる王国を造ったのだよ」

 ボスは良く、私を呼び出し話相手をさせられた。

「だが、虚しいものだな。

 年をとると、その虚しさを感じ取ってしまう。

 エムカ(ロボットして見ているので)は、孤独を感じたことはないかね。ロボットしかいない王国に移り住んで」

「スィージィ達がいます。雑談会話能力のあるから、ロボットと話しているとは思えません。

 それに寂しくなったらボスのところに来ればいいんですし。ボスは人間なんですから」

「…。そうだな。私も寂しくなったからこそ君を呼んでいるのだっけな」

 ボスの死は突然だったけれども、自分の未来をなんらかの形で察知していたのかもしけない。

「クローン…」

「そうだ。エムカが来る前、後継ぎを考え、金を積み上げて完成させた子がいる。

 身元不明の孤児として施設に入っているが、養子のハンコを押した。もし…

 もし、君が早く来ていれば…」

「順谷さんは19才さいですよ。

 無理ですよ。19年前なんて私、小学生ですよ」

 苦笑してみせるしかなかった。

 別にボスの座なんて考えても見なかった。

 私は、ただ、ここの施設で働きたかった。

 自分の力を発揮してみたたかっただけ。

「………」

 でも

 ボスが亡くなった後。

 なんとしてでも王国の存続危機を救うために『王の代理』という手を使って順谷さんに正体を明かすその日まで、続けてきた。

 それを突然、順谷さんに受け渡す気は持てない。

 それと

「それと…」

「?マスター。何か言いましたか?」

「ううん。なんでもない」

 順谷さんに向ける目のせい。

 ボスが生きていたとき、何も考えないようにしていた。

 いくら2人しかないかったとはいえ…。

 ましてや、ボスがいなくなったから順谷さんに。

「………」

 私は。

 順谷さんを完全に拒み、突き進む道しかないと思う。

「…。

 シュクシャ。あなたは、先に戻ってて」

 素直に答えるロボットに背を向けて、エムカは宿泊施設のロビーに向かった。

 大きな体がゆっくりと動いて、椅子から見上げる視線は、相変わらず優しさが込められていた。

「バッテレイン…」

「さて、エムカ。久しぶりというぼきかな。

 それとも、はじめまして。矢原江矛香さんと、言うべきかな」

 バッテレインは私はを待っていたらしく、指し示す席には、アイスティーが置かれていた。

「どっちでも。バッテレインたちの好きなほうでいいわ」

「ならば『久しぶり』だな」

「久しぶりって、まだ一晩しかあけていないのよ」

「…そういやあ、そうだな」

 コマンダーロボットたちは、私が履歴書を持ってここに来た記憶がない。

 ボスの計らいだろうけれども。

「それにしても、エムカが人間だったとはなあ」

「ボスの発言があったんだから。疑うことすらできないから仕方ないわよ」

「そうだな」

 ボスが太陽は西から登ると言えば、ロボットは疑うことなく。それを信じてしまう。

 空を見上げ現実を目にしたって、天体そのものが間違っていると考えるほど。ボスの発言を疑うことは、ロボットたちとって不可能なのだから。

「で、エムカ。王冠捜しは、どうだい?何か目星はついたかい」

「全然」

 と首を振って苦笑した。

 。まったく見当がつかなかった。

 ボスに遠回り、あるいは直接聞いたことなんて多々あったけども、何一つ聞き出せなかった。ボスがいなくなってから、私室を探索したものの王冠の欠片となる情報すら見つけ出せない。

「そうか。

 助力が必要なら、いつでも声をかけてくれ。ただし、順谷君と平等に見ての力にしかなれない。これだけは堪忍してくれ」

「わかっているわ。それが決まりなんだから。でも、嬉しい」

「何が?」

「皆、温かいんだもの」

 …なのに、私は傷つけてしまった。

 いくら元に戻るとはいえ、真実をさらけ出してしまったのだから。

「バッテレイン…皆に伝えて『ごめんね』って」

「?」

 なんの事かわからずバッテレインはきょとんとしていたけれども、わからないまま、了承してくれた。



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